第68話 下界は天国より楽しいキャンペーン

 俺は、昨日女神様と決めたことを嫁達みんなに話して聞かせた。

 驚かすつもりはないが何も知らせないのも良くないという判断だ。隠し事は不要な亀裂を生むからな。


「また大変なことになったわね」とニーナ。

「うん、心配させてすまん」

「リュウジのせいじゃないじゃない」

「いや、俺が調子に乗り過ぎたせいだな」

「そうかなぁ。リュウジは素直に自然現象を発見して対応しただけだと思う。ボンクラじゃないからって責められるのは可笑しいよ」

 ニーナ、最近のお前、ちょっと頼もしいな。

「そうか」


「そうですわ。そもそも、誰にも危害を加えていませんし、感謝されこそすれ恨まれる謂れはありませんわ。有能が悪だとでも言うのでしょうか?」とセレーネ。彼女に、こう言われると力が湧く気がする。

「うん。ありがとう。ま、あまり言うと上の批判になるからアレだけど」

「そ、そうですわね。気を付けます」


「で、その対策として明日から俺は南国リゾートのルセ島に行く。神様用の施設を拡充するためだ」

「分かりましたわ。後宮のことは心配いりません。私たちもいますし、母上も、父上もおります。こちらのことは、お任せください」セレーネ、頼もしすぎる! そういや、ヒュペリオン王もいるんだよな。


「うん。すまないが頼む。だが無理する必要はないぞ。ルセ島の活動は補足的な対策だからな。いつでも呼び出してくれ」


「マスター。我も連れて行ってはくれまいか?」とミゼール。

「うん? お前は、侍女の勉強があるだろ?」

「我には必要ない。我は、お主を助けるために居るのだ」

「う~ん、といっても、使徒じゃないし特別な能力も使えないし」

「マスターより伝授頂いた、自転車術が使えます。侍女自転車隊がきっとお役に立ちます」

「シュリ・シュゼールも、お役に立ちます」

「ミリス・アイデスも、お役に立ちます」

「パメラ・ウリスウも付いて行きます」

「クレオもいくの」

「マナ・オキヒも、もちろん付いてゆきますの」

「スノウ・ナミアも、行きます」

 うん? そんなに、どうした? ああ、俺の一大事だからか。


「あ~、お前ら、気持ちは嬉しいが、まだ早い」

「ねぇ、リュウジ。見習いなんだから、不十分でもいいんじゃない? 邪魔なら仕方ないけど」とニーナがフォローする。


「ん? う~ん、確かにニーナのいう通りかもな。神様にも受けるかも知れないし。よし、分かった。試しに連れ行ってみる。ただし、ダメだと思ったら返すから駄々こねるなよ」

「はい、マスター」とミゼール。

「「「「「「はい、マスター」」」」」」

 なんか「マスター」に慣れてきてしまった。もう違和感ないな。


 まず、ルセ島での具体的な実行計画をたてる。今回拡張するのは一番人気の女神ビーチ。それと温水プールの二つだ。拡張は俺がやる。

 それから、流通の活発化で豊富になった食材で料理を提供しよう。侍女隊でデリバリーサービスなんて面白そうだ。神界では味わえない味覚とサービスを十分に楽しんでもらう。「下界は天国より楽しいキャンペーン」だ。あれ? 神界って楽しかったっけ?


  *  *  *


「ま、マスターここは天国ですか?」ルセ島を見てミゼールの最初の反応がこれだ。

「何言ってんのミゼール。天国で疲れた神様が来る場所だぞ。ここは天国以上の楽園なんだ!」

「なんと、天国より楽しい地上界ですか~っ。すご~いっ」

「いや、お前、遊ぼうとしてないよな? 楽しいリゾートをお前が提供するんだぞ。わかってるか?」

「分かってます。マスター」


 なんか、ミゼールを始め、侍女隊全員の目がキラキラして遊ぶ気満々なんだけど? でも、ちょっとくらい遊ばせるか。気が散っても困るし、初めてだし、慣れも必要だよな。


「よし、お前ら、三日間遊んでいいぞ。仕事はその後だ」

「「「「「「「やった~っ。マスター大好き~っ」」」」」」」


  *  *  *


「あ~っ。砂にハンドル取られる~っ」とミゼール。

「ペダルが重いよ~っ。マスター」とシュリ。お前でもか。

「わたくし、もう砂だらけですわ」とミリス。


 遊び回るのも自転車で自由自在の侍女隊だが、流石にビーチは神魔動アシスト自転車でも無理だったようだ。


「そうか、ここの広いビーチやプールにデリバリーするには、ちょっと道を整備する必要があるな」


 ビーチに砂があるのは当然だが、その手前の道も砂だらけで自転車はハンドルを取られてしまう。いろいろ拡張して整備が間に合っていなかったのだ。侍女隊に好きに遊ばせてみて初めて気が付いた。リゾートは自分で遊んで試してみないとだめだな。そりゃそうか、自分でも楽しいものを提供するのがベストだな。遊んでみなくちゃ、楽しさは分からない。


 そこで、さっそく対策だ。まずは、デリバリーにも使えるように、砂浜までの道を舗装した。それとリゾート島全体を見て回れるサイクリングロードも作ってみた。これで、迅速な配達も出来るし、島を一周するサイクリングも楽しめる。


  *  *  *


「マスター、レストランのオーダーが追い付きませんっ」とシュリ。

「飲み物も食べ物も飛ぶように売れてますわ。もうシェフから泣きが入ってます。いかが致しましょう?」とミリス。

「王様に頼んでスタッフを増員するから、もう少し頑張れって言ってくれ」

「了解ですわ」


 レストランのデリバリーサービスは大盛況だ。注文から配達まで早いのが受けたようだ。


「マスター。サイクリング用自転車、全部貸し出して、もうありませんの」これはクレオだ。

「えっ。三十台全部か?」

「ハイですの」

「自転車は製造が間に合わないから。今日はごめんなさいって言っといて」

「了解ですの」


 サイクリングも大好評だ。三十台は多いかと思ったが足りなかった。神様だから、神力でサポートして倒れないのかも。練習せずにスイスイ乗ってる。二つのサービスを追加した相乗効果もあるのか大いに盛り上がってる。サイクリングに行くのにスナックを頼むこともあるしな。


  *  *  *


「リュウジ、このサイクリングって面白いわね!」アリスも気に入ったようだ。

「わたし、自転車のない世界出身だから特に楽しいのよ。他の神様も初めての人結構いるみたいだし」


 そうか、神様だからと言って全ての世界を経験してるわけじゃないもんな。そういう意味では未体験なこと多いんだろう。ってことは、普通にリゾートを作ればいいわけだ。


「ふふ。これ神魔動モジュールでアシストしてるのが、またいいわね。リュウジの考案したものだからポイント高いわよ」とイリス様。イリス様に、そう言って頂けると嬉しさ三倍です。


「リュウジ、にやけ過ぎ」とアリス。もしかして嫉妬してる?

「そんなわけないでしょ? お姉さまに憧れるのは仕方ないことよ。一緒に居ると何倍も楽しいしね」さすがアリス。

「ふふ、みんなで乗ると何倍も楽しいわね」とイリス様。はい、勿論です。


「そうなのだ、我も乗ってみて楽しさが分かったのだ。特に倒れる確率をゼロにしたしな」なるほど、ウリス様らしい乗り方ですね。

「うん、こんなに楽しいもの隠してたなんてリュウジ怖い子」エリス様のそれって、誉め言葉ですよね?


 女神ビーチも楽しいのだが、砂で動きが取りにくくて移動しないから、ちょっと飽きる。そこに、このサイクリングだから楽しいのだ。あ~、もうボートとかも始めちゃおうかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る