第67話 惑星リセット先行実施の請願出される2
惑星リセット先行実施の請願だが、分からない事があった。
「とりあえず魔王化って何? っていうか、魔王の定義はどうなってんの?」
神界評議会に出された請願の内容は現在の神界の見解としては、ほぼ間違っていないので、とりあえず不明な点は確認しようと思った。
「『魔王』は、神界の意思に抵抗する者で、神界と同等の力を持つ者のことね。そうなる可能性があるってこと」
イリス様が教えてくれた。
「ううん。『神界と同等の力』とは思わないけど。仲間として取り込むっていう選択肢はないのかな?」
必ずしも敵対している訳ではないが神界とは異なる考え方ってのもあるよな?
「ああ、それやると、神界が多少なりとも譲歩する必要が出てくるからダメなんじゃないかな。神界の決定は絶対であり、神界は何があっても譲歩しない。譲歩してはいけないって主張ね」とアリス。
驚いた。神界で、そんな思考停止みたいなことやっていいのか?
「神界の意思に抵抗してってのは? 抵抗しているつもりはないけど」
「使徒なのに、神界評議会の決定に意見具申してるからでしょうね」とイリス様。
「使徒って、意見具申しないんですか?」
「しないわね」
「そうなのか。意見はあると思うけど言わないのかな」
「あぁ、普通は上位神が使徒の考えを聞いてるから、特に行動に出ることはないってこと」
「あ、なるほど。そっか~、俺って思いっきり生意気な使徒なんだ」
「それは確かね。思いっきり失礼よね」とアリス。
「ごめんなさい」
「上位神の責任もあるのだ?」
フォローしてくれるエリス様。優しい。
「あるわね」とイリス様。
「うっ」アリスへこむ。
「でも、そこがアリスとリュウジらしくていいんだけど」とイリス様。
「いいのかな?」
「いいんじゃない?」とアリス。
「いいのだ」とウリス様。
「ちょっとね」ちょっとなんだ。
「でもこれ、どうしようかしらね」とイリス様。
「そうですねぇ」とアリス。
「魔法共生菌を抑え込んだだけじゃ、ダメなんでしょうか?」
「たぶん、最低でも元凶の魔法共生菌は殲滅出来ないと納得しないでしょうね」とイリス様。
「魔法共生菌さえ消えれば、魔石は有限になり何時かは枯渇するので神界優位に戻りますね。しかも、あるだけの魔石を集めてしまえば神界が超優位になります」
「それが彼らの狙いでしょうね」
イリス様は確信したように言った。
「魔法共生菌の危険性というのは名目で、パワーバランスを崩してることのほうが問題視されてる?」とアリス。
「恐らく、そういう事でしょう。政治的に危険なのね。だから、暢気に十年待てないんでしょう」とイリス様。
「なんで、そこまでするんだろ?」
「プライドの問題かしら?」とアリス。
「あるいは、都合が悪い勢力があるのかな?」
「恐らくね」
イリス様は何か知ってそうだが、それ以上は言わないようだ。
「なんか、やばい気がするなぁ」
「我も、そう思うのだ」とウリス様。
「そうね。あいつ等の思い通りは嫌すぎる」とエリス様。あいつ等って。
「それって派閥みたいなもの?」
「そうね。特定の思想を持った一派かしら」とイリス様。
「その一派は、魔法共生菌を残すと下界が神界に反抗すると思ってるようね。少なくとも反抗できる力を持つことを許さないってことでしょう」
「俺、もしかして狙われてる? すっごく都合の悪い使徒だよね」
「まぁ、いろいろ発見とかして神界に貢献してるから、断罪しにくいとは思うけど」とアリス。
「だ、断罪」
やばいやばいやばい。なんで俺、神様に睨まれてるんだよ! ちゃんと使徒してるのに! 嫁沢山いるけど。それで睨まれた? 神界の事なんか全然考えてないよ。ん? それがいけない? けど、知らないし。
とりあえず状況は分かった。なんとか回避策を考えないと。
* * *
皆が静かになったころ、俺は最近考えていたことを言ってみることにした。
「そういや、神界特別措置法だけど。あれって、魔法共生菌が神力を吸い出してリセットを無効化したから叩かれてるんだよね?」
「ええ、そうね」とアリス。
「今回の請願では魔法共生菌の危険性は名目的な扱いだけど、その名目が無くなったら請願も出来なくなるんじゃないか?」
「それはそうだけど?」とアリスは不思議そうに言う。
「実は、その可能性があるんだ。そもそも、惑星リセットする理由そのものが無くなりそう。つまり、前提が崩れそうなんだ」
「「「「どういうこと?」」」」女神様達がいきなり迫って来た。
近い近い近い。嬉しいけど、近い。神罰下りそうなほど近い。って、誰が神罰下すんだか知らないけど。
「いや、だから、神魔モジュールを開発してて分かったんだけど、魔法共生菌がリセットの神力を吸い出したわけじゃないと思う」
「「「え~~~?」」」いや、声大きいです。
「ちょっと、それどういうことよ。詳しく教えなさいよ」とアリス。
いや、ちょっと落ち着こうよ。肩を掴まないで!
「言う、言うから、ゼロメートル神力シャワーになってるから」
さすがに、ちょっと一息入れた。
「つまり、ただの勘違いだったんだよ」
俺は、みんなちゃんと聞いてるのを確認しながら続けた。
「確かに神力は引かれるけど、それは食われてたわけじゃないんだ。魔石と神石を接近させたときと同じ。魔力に引かれただけだ。魔力も神力に引かれる」
「魔力も?」とアリス。
「そう。互いに引かれる。つまり、自然な相互作用でしかないってこと」
電気のプラスとマイナスが引き合うような。
「おお~っ」ちょっと考えた後、ウリス様が納得したという声を上げた。
「確かにね」エリス様も納得した?
「そもそも、魔法共生菌が魔力を生み出すからって魔力を使えることにはならないって思うんだ」
『産み出す』ことと『使う』ことは違うからな。
「いろいろ調べてみたんだけど、魔法共生菌が魔力を使った形跡がどこにもないんだ」
ここは、大事なところだ。
「つまり、共生したくて利益としての『魔力』を提供してるだけで、自らの意思で『魔力』を使ったりしていない。そもそも、意思なんて無い筈だ」
「そう、そうよね!」とアリス。
「リセットをキャンセルなんて絶対出来ないと思う」
「た、確かに。意思はないでしょうね」
イリス様も納得してくれたようだ。
「そういう現象ってことはないのか? たまたまリセットをキャンセルしてしまうとか」とウリス様。
確かに、その可能性は残る。
「リセットをかけて試したわけじゃないけど、神力の攻撃に抵抗するような現象は全く確認されないんだ。神力で攻撃すると死滅するだけ」
「抵抗しないんだ。防御フィールドとか張らないんだ」とエリス様。
「そう」
「で、もし単なる自然界の性質だったら、それを理由に惑星リセットするのはオカシイでしょ?」
「「「「おおお~っ」」」」
「た、確かに、そうよね。実際、魔法共生菌がどうやってリセットを無効にしたのか、そのプロセスは解明されていない」とアリス。
「うん。大体、ただの雑菌なんだよ。神界に反抗する意思どころか、意識そのものが無いはずだ」
「なら、それを主張すればいいのだ」とウリス様。
「それが、簡単じゃないんだよ」
「なんでよ」とアリス。
「理屈は分かったとしても、これはもうパワーバランスの問題になってしまってるから、イチャモン付ける気ならいくらでもできる」
「どうして?」とエリス様。
「魔法共生菌がリセットをキャンセル出来ないって証明できないから」
「ああ、悪魔の証明なのね」とアリスも気が付いたようだ。
「そう、出来ないことを証明することは出来ない。出来ることを証明するなら、やって見せればいいけど、『出来ません』は『ちゃんと調べろ』とか言われて終わる。可能性は残ったままだ。意思はなくても、現象としての可能性が否定できない」
「じゃ、どうすんのよ。このままいくと、この世界消されちゃうし、あんたもどうなるか分からないわよ」とアリスは焦って言った。
「そう。だから、真犯人を探す」
「真犯人?」
「うん、原因が魔法共生菌じゃないとすれば、犯人が別にいることになる。本当の犯人が分かれば魔法共生菌犯人説は否定できるだろ? 『神界リセットをキャンセルする動機と手段を持った者』を探す必要がある。それが犯人の筈だ」
「なるほど。そうね」とアリス。
「リュウジが名探偵とは。やっぱり恐ろしい子」とエリス様。
「いや、まだ解決してないし」
「恐ろしい子候補」
「今回は諦めようよ」
その夜は、遅くまで女神様達と話し合った。
出来ることは三つ。
第一に神界リセットをキャンセルした本当の犯人の捜索。
第二にルセ島の女神湯やリゾート女神湯などの施設を拡充して、この世界の価値を認識してもらう。
第三に魔法共生菌の無害化計画。これは殲滅する必要性を無くすためだ。
結論が出るころには、もう夜は明けようとしていた。季節は春だが、俺の寝室に風流な趣きはない。エリス様、寝ぼけて蹴ってくるのは止めて!
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