第51話 建国宣言、そうだ迎えに行こう!-ナディアス自治領2-
最近、どうも俺の評価が「非常識」みたいな感じになってきている。これは酷いと思うのだ。いや、普通の人間から言われるのは仕方ない。そりゃ、神力使うから普通の訳ない。けど、同じ使徒や女神様に言われるのは納得いかない。単に、神力の能力を生かしているだけだからだ。まぁ、神化リングの件はあるけど、あれは単なる発見だ。
ここはやっぱり常識人として常識的な提案をしていくべきだな。うん。
「なんだ、信用ないな。ちょっと山に穴を開けようと思っただけだ」
「その、『ちょっと』について詳しく……なのじゃ」とリリー。
「婿殿のちょっとが、ホントにちょっとだった事はないからのぉ」と王様。
「もしや、噂の……」とウィスリム。
「おそらく」とマレス。
ウィスリムとマレス、二人で噂してたのか?
「普通、思いません」常識人のネムにまで突っ込まれた。
「いやほら、来る時見ただろう? オルメス山。あの山に風穴開けて神聖アリス教国まで道を作れば、毛ガニを自動荷車で運べて便利だなぁ~と思って」
「やっぱりじゃ」と王様。
「やっぱりなのじゃ」とリリー。
「噂通り」とウィスリム。
「ですな」とマレス。
「ご主人様さすがです」おっ? ネムは意外と予想してた? ってことは、思考回路は似て来た? ちょっとネムには期待しとこう。
ー そんなことだろうと思った。
ー いや、予想通りなら、逆に普通じゃん。
ー 予想外ってことが、予想通りなんだけど。
ー 済みません。
ー あの山、三千メートル級なのよ。ちょっとじゃないでしょ。
ー いや、そうだけど穴開けるのは端っこだし。
ー はいはい。
それを聞いた領主ボーフェンは恐る恐る言った。
「それは、お戯れではなく……本当のことでしょうか? しかし、仮に出来たとしても、わが国はそれに見合うものを御用意出来ません。毛ガニをあるだけお渡しするくらいです」
「ああ、それで結構ですよ。将来こちらにも利益のある話ですし、友好の印と取って貰えれば結構です。ついでにウニとかもあると嬉しいけど」と調子に乗って食いたいものをリクエストしてみる俺。いや、あくまでサンプルですよサンプル。これから直接隣国として取引するわけだしね。
「海産物なら、いかようにも」とボーフェン。
「そうですか、じゃぁ、移動の途中で穴を開ましょう」
「お主が言うと、『このボタン、付け直しましょう』くらいに聞こえるのじゃ」とヒュペリオン王。はい、その通りです。貰った力なんで、出し惜しみしません。
「自治領代表を建国式にお連れするコース上なので、ついでです」
「つ、ついでですか」とボーフェン。さすがに、どんな顔をしていいのか分からないようだ。
* * *
翌日、自治領主と役人はまだ半信半疑のようだったが、建国式への参加は問題ないとのことだったので代表団を組織してもらい出発となった。もちろん、毛ガニはあるだけ全部貰った。
出発して一時間ほどで、オルメス山の麓に到着した。山体に穴を開けるので、神聖アリス教国側にも用意が必要とういことで、俺はひとっ飛びして反対側にリリー街道と接続する門を用意した。まぁ、岩を溶かして固めるだけだが。
トンネルの両側に出入口の門を用意した上で穴を開ける。門に神石を嵌め込んでおくと、エナジービームを打つときターゲットを決め易くなって楽だと言うことも発見した。いろいろやってみるもんだな。
今回はイエルメス山の水道と違って大きな穴なので、円柱状にビームを展開して切り出す。筒状の岩を抜き取ればトンネルが残る訳だ。クッキーの型抜きみたいなものだ。巨大で長いけど。
「まず、岩を切り出します。エナジービーム、シリンダー」
ジジジジジジジzzzzzsssssーーーーーッ
「ぎゃ~~~~~っ」
「うわぁ~~~~~」
「ええええええっ?」
「じゃ、抜き取りますね。近くまで来るので気を付けて」
ーーーーーssssszzzzzずずずずずずずずずボボボー〇ッ
直系十メートルほどの円柱状に切り出された岩石が、溶岩をまき散らしながら抜き出された。
「なんじゃと~~~~~」
「おおおおお~っ」
「まさか」
「そんな」
「あ、ありえません!」これ、ネムだろ? 見てないけど。
抜き出した、岩には石炭が含まれていたようで、燃えていたので急速冷却をかけた。
「こんなもんでしょ。あ、あの燃えてた部分は石炭っていう燃料なので掘り出して暖房に使うといいでしょう。資源として輸出も出来ますよ」
「は、はぁ」と領主ボーフェン。一応、返事はするが固まっている。
領主以下ナディアス自治領の面々も、同様である。何が起きたのかも正確にわかっていない。普通の状態で見たものなら忘れない事も、パニックになると忘れてしまったりする。脳が、記憶を拒否しているかのように。仕方ない。あとで、もう一度教えてあげよう。
「じゃ、仕上げに平らにします。エナジービーム」
円柱のままでは道路として使えないので、下半分を溶かし直して平らにした。これで、かまぼこ型トンネルの完成である。
「はい、完成。向こう側はリリー街道に繋がっているので、冷えたら整備するように連絡しておきます。あ~、このトンネルの名前何にしようかな~。リリー・トンネルでいいか?」その言葉で、リリー再起動。
「ん? うむ。リリー・トンネルでいいじゃろぉ」俺は、出口の門の上部に『リリー・トンネル』とビームで書いた。
これを見て王様も再起動。
「お? おおお、走ってみたいのじゃ」早速、目を輝かせる王様。
「あ、王様、直ぐには無理ですよ。熱いし、中は真っ暗です」
「ちょっとだけ、ちょっとだけ走れぬか?」
「父上、わがままを言ってはいかんのじゃ」とリリー。が、自分も走る気満々な目だ。
「じゃ、ちょっとだけですよ」仕方なく俺は言った。
内部を冷やして壁面を明るく照してあげたら、王様は嬉々として神魔動乗用車を走らせるのだった。当然のようにリリーも。やっぱりか。少し遅れて近衛自動乗用車隊もついて行った。お前ら、遊びに来てないか?
* * *
「リュウジ様。これで、我がナディアスの未来が開けました。すべてリュウジ様のおかげです。深く感謝します」とボーフェン。
ん? ちょっと扱い変わったか? というか、いつの間にか復活していた。思えば、この時代に、このサイズのトンネルって驚異的だよな。
その後、俺はトンネルの件をセレーネに連絡した。そのままだと危険だし、整備計画を立てる必要があるからだ。空気穴とかも必要かも? まぁ、それはゆっくりでいいだろう。
* * *
その夜。
「ねぇ、リュウジ。あんた、やり過ぎたとか神力使うの自重するとか言ってなかったっけ?」俺のベッドに座ってアリスが言った。
「あ~、そういえば、そうだな。けど、神界特別措置法を回避するまではいんじゃないか?」
「そんなこと、言っておったのか」当然のようにリリーもいる。俺の部屋のベッドは大きい。
「ああ、健全な発展のためにとか思ったんだよ。今思うと、余計なお世話というか、無駄な努力だった気もするなぁ。俺のやっていることが理解できるなら、その世界に残る。それだけなのかも」
「そうかもね。私たちは手出ししなかったから、あまり考えなかったけど」とアリス。
「これからは、変わりそう?」
「そうね~、エネルギー革命起こっちゃったから変わるかも。でも、やったとしても、うまくいくか疑わしいわね。少なくとも新米の私には無理ね」とアリス。その後、ちょっと考え事をしているようだった。
* * *
翌朝、このあと水の確保が難しくなりそうなので、近くの水源で水を補給した。人数も多いので大量に必要だからな。飛行船のタンクを浄水で満杯にした後、俺達は蛮族アブラビの住むという南西方面へ向けて出発した。
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