第9話 女神像事件発生

 翌朝、ニーナが朝食を作りに戻ったあと女神アリスから連絡が入った。


ー ピンポーン

ー それ、もういいから

ー で、調子はどうなの? なんで魔力使い切ってないの?。

ー 見てたんじゃないの?。

ー それが、神力が弱いから、うまくトラッキングできないのよ。おまけに、魔力使うと思いっきりノイズが入るし。


 どうも神力と魔力は相性が悪いらしい。


ー そうなのか。一応、昨日は全力で何発か魔法撃ったんだけど。

ー そうなの? ちょっと神力が引かれたみたいだけど、大したことなかったわね。


 ん? 認識が違うのは何故だろう?


ー 魔法は凄かったよ。ちょっとした山を突き抜けちゃったし。

ー えっ? ちょっとまってよ。それ、私があげた神力に迫ってない?。

ー いや、そこまでいってないだろ。あれの最大パワーは星を亡ぼすんだろ?

ー そ、そうよね。女神がぽっと出の魔力に負けるわけないわよね。

ー ぽっと出の魔力って。確かに、全然違うが。ただ、俺の魔力ってこの世界の魔力としてはちょっと非常識らしい。普通じゃないって。


ー どういうこと? あんた魔王なの?

ー なんでだよ。召喚しといてそれはないだろ?

ー ああ、そうよね。普通の人間を召喚した筈よね。

ー まさか、魔王の眷属になったとか? 魔王の魔力が流れて来てるとか?

ー だから、そんなものいないし。


ー 今さっき疑ったけど?

ー そ、そうだっけ?

ー まぁ、いい。で、気づいたんだけど、魔法の覚醒って共生の一種じゃないかと思うんだけど、どうかな?


ー ええっ? 共生って?

ー ああ、魔王がいないんだったら、魔力を生む何かが付着したのかなぁって思ったんだよ。それだったら、微生物かなって。

ー ああ、微生物と共生ってことね? それにしては、エネルギー保存則が成り立ってないんじゃない?


ー なんでニュートン力学知ってるんだよ。まぁ確かに、俺の場合おかしいかも。

ー でしょ? 絶対へんよ。

ー うん、俺から引き出したエネルギーにしてはデカすぎるんだよな。俺はぴんぴんしてるし。あ~っ、まさか。

ー なになに?

ー いや、違うか。

ー なんなのよ~。いま、考えを読みにくいんだから教えてよ。

ー やっぱりか。

ー いじわるね。

ー ははは。いや、その神力を食ってるのかなぁ~って? そんなわけないよな?


ー それだわ。

ー それかよ。

ー 神力を食ってるのよ。

ー ほんとかよ。でも、神力は大して消費してないんだろ?。

ー そうだけど、普通の魔力より強いとしたら神力が関係しているとしか思えない。詳しい事はわからないけど、その雑菌変よ。なにか、やばい気がする。これは神界に報告しないと。

ー いままで神界で知られてないの?

ー 誰も知らないのよ。ああ、前の担当神にも確認してみる。何か知ってるかも。


ー まぁ、仮説でしかないけどな。そんな雑菌、普通ありえないからな。

ー 少なくとも、普通の進化じゃないわね。

ー うん。あれ? じゃ、これでニーナを覚醒させたらヤバイか?

ー わからないけど。

ー もう諦めろって言おうと思ったところだし止めるように言っとくか。

ー そうね。それがいいかもね。

ー なんで嬉しそうなんだよ。

 そんな気がした。

ー べ、別に嬉しくないわよ。


ー ほんとかよ。で、魔力どうする? これに慣れちゃうのも問題かもな?

ー ううん、とりあえず、目的が果たせるなら魔力持ちでもいいんだけど。

ー いいのかよ。でも、あんまり魔力が強くなりすぎると、通信すら出来なくなるとか、予想外の展開もあるかもよ。

ー そう。それは困るわね。


ー それに、俺が当初の予定を忘れて、好き勝手生きるかも。

ー ちょっと、待ってよ。

ー まぁでも、俺が好き勝手生きられる世界は、今より良くなるんだろうけど。

ー まぁ、確かにあんたみたいに文明レベルの高い世界から来た人間が満足するなら、良くなるハズよね。

ー だよな。まぁ、心配してもしょうがない。


ー そうね。わかったわ。こっちも、ちょっと対策を相談してみる。神力はいつでも引き出せるけど……これは、大量に使われたら逆にまずいかも知れないから、一応リミッター入れとくね。

ー ああ、オッケー。それでいい。とりあえず神力使わなくても大丈夫だろ。


ー あ、それなんだけど。今度は神力を使ってみたらどうかな? そのほうが魔力を抑えられるかもしれないじゃない?

ー ん? 意識して出来るかな? わかった。試してみる。

ー お願いね。


 神力と魔力を使い分けるなんて本当に出来るのかな? まぁ、試してみるしかない。


 ベッドで思案していたらニーナが俺を呼びに来た。


「リュウジ、朝食できたわよ」

「なぁ、さっきから、表が騒がしいみたいだけど何かあったのか?」


 俺は、アリスと話しながらも宿の前の通りが妙に騒がしいのが気になっていた。


「ああ、なんだかよく分からないんだけど、教会がみんなを集めてるみたい。朝食食べたら、私も行こうと思ってるんだけど」

「教会?」


 教会って言うと、アリスの教会だよな? ちょっと、嫌な予感がする。


  *  *  *


 ニーナと朝食を取ると、さっそく街の教会へ向かってみた。

 教会は大通りを登った先の高台にあった。先日行った街を見下ろす広場の奥が教会になっていたのだ。


「結構、集まってるな」

「うん、教会前広場に集合だから、あれで全部だと思うけど。街の人間の半分近くは来てるかも」

「まぁ、手を離せない人もいるからこれが限界か」


 待っていたら、教会から神父を筆頭に何人か出てきた。


「皆さん、よくおいで下さいました。神父のモートンです。本日は、この教会始まって以来の問題についてご相談したくわざわざお越しいただきました」


 神父がそう挨拶した。それを聞いて群衆はざわついた。教会始まって以来とはただ事ではない。


「町長も来てるわね。後ろにいるのは、街の顔役よ」ニーナが教えてくれた。

「なんだろう? 戦争でも始まったのか?」

「そんな」


 群衆がひとしきりざわついたあと、神父は軽く手を挙げて静まるのを待った。


「まずは、こちらのご神体をご覧になってください」


 そう言って神父が手を振ると、大きな石像のカバーが外された。


「おおおおお、なんと」

「こ、これはどうしたことか」

「だ、だれがこんな酷いことをした!」


 そこには、ディストピアらしい女神像があった。

 その女神像を見たとたん大騒ぎになってしまった。

 昔の感覚とズレてるからな。今まで見慣れていたハズなのに、健美パラメーターを変更されて、いきなり酷い姿に見えてるようだ。中には泣き出す者までいる始末。


「これは、悪魔の所業に違いありません。いや、何者の仕業か分かりませんが、教会は決して許さないでしょう」とモートン神父。


 いや、許してやれよ。それ、やったの本人なんだから。いや、本神か。


「それはそれとして、我らが女神様をこのような姿のまま放置するわけにはまいりません」と神父。

「そうだそうだ」誰かの賛同の声。

「当然よ。ああ、おかわいそうな女神様」と女の声。


「そこで、町長や顔役に相談しましたところ、新しく女神像を建立することといたしました」

「うん、それがいいな」

「賛成だ!」

「すぐにやってくれっ!」

「早く美しい女神様に会いたいわ。こんな女神様、あり得ません」お前ら、言いたい放題だな。

「そうだ、そうだ」


 やっぱり、こうなったじゃねーか。しっかり女神像も修正しといてくれよ。ああ、個別には手を出せないんだっけ。じゃ、これ俺の仕事?


「ご賛同いただけた様でなによりです。そこで、我々としても女神像を作れる方を探していたのですが」そこで、神父は口ごもる。


「オットーどうだ? あんた匠なんだろ? あんたに出来なきゃ誰にも出来ねぇ」


 誰かが石工のオットーに声をかけていた。


「ああ、頼まれたんだけどよお、女神様だぜ。そんじょそこらの女とはわけが違うんだ。そんな女なんて見たことねぇんだ。いくら俺でも、見たことねぇもんは無理なんだ」


 そりゃ、そうだろうね。


「町一番の美女でもダメか? ほれそこにニーナが来てるじゃないか。頼んでみろよ」

「え、わたし?」


「モデルを頼めるか?」とオットー。

「えっ、とんでもない。ダメよ。わたしじゃ役不足よ。第一私がお祈りできないじゃない。自分にお祈りとか絶対嫌よ」そりゃ、そうだよな。


「あっ」


「なんだ、誰か思い当たるのか?」オットー、期待を込めて言う。


「リュウジ、アリスさんはどう? すっごく素敵だもの頼めないかしら?」

「っげっ。アリスかよ。アリスはだめだ」本人だもん。モデルに呼んだりしたら、神罰下っちゃうよ。


「アリスさんって、そこのリュウジさんが連れてた女性か?」とオットー。目ざといな。


「ええそう。リュウジの親族なのよ」

「あぁ、あの人なら最高だ。いや、マジで女神様かと思ったくらいだ」実はそうなんです。この親父鋭いな。


「ううん。けど、ちょっと遠くに行っちゃったからなぁ」


 めんどくさいことになりそうだし、何とか誤魔化そう。


「そうか、それは残念だな。せめて絵でもあればなんとかなるんだが」オットー、ひどく残念そう。

「絵でもいいのか? そうか、それなら……もしかすると、なんとかなるかも」


 そういや、スマホで写真撮れるんじゃね? チート能力で映像コピーとかも出来そうだし、なんとかなるか?


「本当か! それなら、ぜひ頼みたい」


 オットーは生き返った魚のように、俺を捕まえて言った。


「ま、まぁ、頼んではみるが、ちょっと時間はかかるかも」

「ああ、かまわない。準備もあるし、じっくり時間をかけて作るからな」


 オットーは、思いっきり嬉しそうだ。


「おお、素晴らしい。オットー師匠が納得できるのであれば申し分ありません。教会としても可能な限りお手伝いさせていただきます。勿論、十分な礼もさせていただきますので、どうぞよろしくお願いします」


 まぁいいか。とりあえず、神界からアリスの突っ込みは入ってないし。


「絵は、ちょっと時間をくれ。届いたら教会に持って行くから、それでどうするか正式に決めればいい」

「わかりました。そうしてもらえると助かります」


 あっ。本物の女神様の絵を、教会が蹴ったらどうしよう。

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