Code6「ラグエル」
戦争が始まって3日。
ハクチョウから迫ったエンド・コマンドをオオワシの軍が必死の応戦をする。
エンド・コマンド達が持つレイピアが兵の血を吸うように散らせる。
1人また1人と殺されていく。
1人の兵が逃げ出そうと地を這うと目の前にエンド・コマンドが現れ、レイピアを振りかぶった。
その瞬間、目の前のエンド・コマンドはワイヤーに繋がれた何かに貫かれ、動きを止める。
辺りを見ると、次々とエンド・コマンド達が串刺しになっていく。
最後の1人を貫くと真っ直ぐ天に向けて立ったかと思うと、ワイヤーが大きく素早くうねりを起こす。
串刺しにされたエンド・コマンドの身体は、一瞬にして血肉片と化した。
ワイヤーの先の少し太く武器のようになった部分を目で追っていくと、1人の影に辿り着いた。
それは台上で宣誓をした女性だった。
瞳は、あの時テレビで見たものとは違い、瞳孔真赤に変色していた。
顔中に血の痕が残る。
それを見た兵は、正気を失い発狂した。
そうユキは、3日間戦場に赴き、敵の悉くを喰らい尽くしていた。
「クソッ!! なんなのよあの女!!」
「ウル、落ち着きなさい」
「落ち着いていられるもんですか!!」
ミカもその気持ちは理解できている。
しかし、これは戦争だ。
その気持ちを断ち切って戦わなければならなかった。
「では、次は私が行ってきます」
ナキが立ち上がる。
ミカは、ナキを止めようとするが、彼女は部屋を出て行ってしまった。
1人で次の戦場を探していると、コトネから通信が来る。
「コトネ?」
「ユキ! 上から!」
上を向くと、上からエンド・コマンドの大群がこっちに向かってきていた。
それを見て私は、ワイヤーを伸ばして敵の大半を一掃した。
「やはり、彼女達のデータに残っていた通り多勢に対しても単騎でそのほとんどを撃墜できるほどの腕利なのね」
サーベルを片手に持つエンド・コマンドが言う。
「私は、ラグエル。エンド・コマンド4ce……」
ラグエルが名乗っている間にユキは、尾を伸ばして攻撃を開始した。
「ごちゃごちゃうるさい」
飛んでくる尾をサーベルで受け流す。
骨が引き裂かれる生々しい音が響く。
(受け流すのにも腕一本持っていかれた!……こんなの人間の所業じゃない!)
「バッッッッッケモノめぇぇえぇえぇえええ!!!!」
迫りきたラグエルをユキは、軽々しく右腕で頭を貫いた。
巨大で強靭な右腕に貫かれた顔は跡形もなくグシャグシャに潰れた。
ラグエルの身体は、ユキに倒れ込む。
ユキは、その身体を抱きしめるようにして腕を回す。
その光景を見てウルは、怒嘆する。
一瞬にして上級のエンド・コマンドが潰された。
それにそれが自分の親友だったのだ。
ユキの腹が口のように割れて、身体を喰らう。
「ん……んん……はぁ……美味しかったぁぁ」
すると、再びユキの頭上から1人の天使が急降下してくる。
今度は避けずに攻撃を受ける。
怒りの一撃を受けた私は、オオワシの低階に落ちていった。
「……なさい。……きなさい。起きなさい」
その呼びかけで私は目を覚ます。
そこには、露出の高い女性がいた。
「あなたは、確か私を助けてくれた人?」
「そう! そうよ!!」
私が過去の記憶から思い出すと女性は喜ぶ。
「私はフユ。あの時は、逃すことしかできなかったけど、こうして再会できてとっっっっても嬉しいわ」
そう立ちあがろうとする私の顔を両手で包む。
「あぁ……よかった。本当に……嬉しいわ。私の最後の
その時、異様な雰囲気に背筋を凍らせる。
「い……、いや……」
「どうしたの? 怖気付いた表情をしちゃって。私が興奮しちゃうじゃない」
フユは、私に迫る。
「こ、こっち来ないで!」
私は怯えながらいつものようにワイヤーで応戦しようとするが、何故かグシャラボラスが現れない。
「あらあら、ここじゃデモニコアは意味ないわよ」
「……っどうして」
「ここはね。デモニコアを植え付ける研究施設の重要部なの。で、デモニコアの被験者が暴れてもここで食い止められるようになってるのよ」
私は立ち上がって暗闇に逃げ出す。
「あっ、ちょっと」
フユというあの人間に私は巨大な恐怖を抱き、暗闇の中を走った。
走って走って壁に辿り着いた。
「逃げちゃダメじゃない」
「攻撃が叶えば、逃げる必要なんてないわ」
そう言いながら壁を背中に付ける。
壁は柔らかく、少し体重をかけると身体がめり込む。
私の指が軽く触れると壁は少し脈動し、生暖かい露を垂らす。
「それにしてもあの時はビックリしたわ〜まさか裏切り者が術者の中にいてあなたを連れ出して逃げるなんて、裏切り者はすぐに捕まえられたけれど、ついにはこの十数年あなたを捉えることは叶わなかった……」
「私を連れ出した人?」
「そうよ。あなたを連れ出した人、今はもう人ではないけれど、あなたは覚えていないようね」
確かに私の中にこの研究施設にいた頃の記憶も連れ出された記憶も断片さえ存在しなかった。
「ソロは、あなたをどうして逃したのかしらね〜」
「知らないよ……そんなことも人も」
「それもそうね」
フユは、私ににじり寄り、肩を両手で掴むと壁の中に私を押し込んだ。
私が逃げ出そうともがいていると、肉と肉の間からフユのそれがつゆを垂らすのをみる。
まるでこの壁と彼女のそれが連動するかのような反応だろう。
しばらくすると、少しずつ彼女の手の力が緩まる。
その時の彼女の表情は、絶頂の頂に達したかのようだった。
私はそのまま肉壁の中に呑まれ、意識を失った。
「あら……お目覚めのようね。エンド・コマンドと言ったかしら」
「そんなことは関係ない。お前は私の同胞を幾度となく殺したのだ。私の
「あなたはどこからこの場所の話を聞いていたのかしら?」
「初めから最後まで一言一句逃してない」
「あらぁ、じゃあ私を殺すのは人違いってこと気づかなかった?」
「そんなの関係ない。あの忌々しい女の体裁を成してるなら関係なしに殺す」
「そう……なら。たっっっくさんもてなしてあげるわ。先に逝きそうなら好きに逝ってちょうだい……」
すると、フユの身体が変形する。
元のフユの体裁は残しつつ、巨大な悪魔とも天使とも見える。
そう彼女の刻印は、『LUCIFER』。
「悪魔の王、でも何故? ここではデモニコアは、使えないんじゃないのか?!」
「ここは
こうして向き合う2人は、まるで勇者と魔王だった。
肉壁の中は、暖かかった。
周囲の肉に全体重を預けて脱力する。
体液で衣服が全て溶かされる。
しかし、思いの外、中に圧迫感はなく、体液で私の身体は奥へ奥へと流し込まれている。
ふと、目を開けると、周囲に影が見える。
それは予想しなくてもわかる。
あれは私である。
いや、私と同じフユという女から創られ、人生にレールを敷かれて走った他のクローン達なのだ。
皆、裸体で縮こまるようにして肉の中をふわふわと漂流する。
私は、思考する。
どうしたらここを出られるのかを。
ここにいる沢山の私を救えるのかを。
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