Code4「アスタロト」
「8番ハッチ開放」
暗闇に眩い太陽光が差し込む。
「登録コード3YA256T射出」
白いカプセルが宇宙空間に放り出される。
放り出された勢いのまま大気圏に突入し、カプセルは空気を押しつぶし発熱する。
そのうち厚い雲の層を超えた先に砂の大地が姿を現す。
かつての文明全てが消え去ったこの星こそが私の仕事場だ。
依頼完了まで体力を温存するため私はカプセルの中で眠っている。
しかし、そんなものは警報音に一瞬にして掻き消された。
カプセルに衝撃が走る。
私の搭乗しているこの乗り物は格安な降下機材の為、外を確認する術は自らしかない。
私は目覚めと同時にひとつボタンを押す。
すると、降下機材は卵が割れるようにパージする。
私はすぐに索敵と臨戦の体勢に移行する。
地平線には影がない。
地上の兵器とも思えない火力。
その瞬間、私の脳裏に浮かんだ考えから頭上に視界を移す。
その考えは的中だった。
頭上から誘導ミサイルが2発接近している。
私は背負っているスラストライフルを使って1発を撃墜させ、1発を回避する。
すぐに背後から斬り掛かってきた敵を再び避け、スラストライフルを使って距離を取りながら攻撃を与える。
先程通り過ぎた誘導ミサイルが再び向き直して私に向かって来たのを察知して回避しようとするが、敢えて防御した。
案の定、敵は私に斬り掛かる為に接近してきた。
私は爆煙の中から飛び出して大剣を敵に振り翳す。
敵は、それを察知したのか上に飛び上がる。
自由落下に身を任せる私は敵が去った方向に身体を向けて攻撃できる状態を整える。
再び上空から誘導ミサイルが接近する。
今度は2発共ども撃ち落とす。
しかし、爆煙の先から敵が飛び出てくる。
その姿はまさしく猛禽類だ。
私の右腕を力強く脚で握り、更に降下が加速する。
「一緒に来てもらおう」
敵は、全身に装甲を纏い、機械音のような声で私に話しかける。
抵抗する私に敵は言う。
「無駄だ。エンド・コマンド機構の装備は常人程度では、傷一つも付けられない」
その言葉を聞いて私は腕を変貌させる。
「これなら?」
グシャラボラスは、脚に向けて手を振りかざすがそれを避けようと敵は振り回す。
しかし、それが仇となる。
グシャラボラスが貫いたのは敵の誘導ミサイルが搭載された左肩。
「あんたの主砲は潰したよ?」
「貴様! 貴様が噂に聞いた悪魔の技術か!!」
そう感情を露わにしながら私を掴んだ脚を振り払うように離す。
「待ちなさい……よっと!」
私は左腕を前に突き出し、装甲の塊に向けてデモニウム骨格ワイヤーを放つ。
ワイヤーが接近していることに気づいた敵は回避する。
戦闘慣れしているのか単調な動きでは読まれているようだ。
しかし、それすらも私は上回る。
回避されたワイヤーとは別角度から接近したワイヤーが敵の下半身を斬り落とした。
血肉が重力に引かれて砂の大地の上でペシャンコになる。
「あ……ぁぁ……」
息の途切れるような機械音が上半身から溢れる。
装甲の隙間から黒い燃料と血液が混じった液体がドロドロと流れ出す。
伸ばしたワイヤーを敵の上半身とスラストライフルに巻きつけ引き寄せる。
スラストライフルで落下速度を落とし、黒く染まった砂の大地に降り立った。
「何者なんだ……」
「何者かなんて関係ない。このまま死に行く貴方にはもっとも関係ないこと」
胸部装甲に「RAMIEL」と印字されたソレを黒砂の大地に置き、私はその場を去った。
そうして私は今日もこの砂の上を歩く。
踏めば踏むほど、進めば進むほどに足元の砂は、私を沈めようと重くなる。
「
『
「
『
その直後、真上から降下機材が降ってくる。
咄嗟に回避し、攻撃体勢を取る。
降下機材から銃口が飛び出す。
銃声が響くと同時にグシャラボラスがあの時のように蠢くのを感じる。
「また……か」
降下機材の装甲がパージしたその中には私と似た姿をした人物が同じように臨戦体勢を取っている。
胸部に「ASTAROTH」と刻印がある。
「アスタロト、こいつも同じか」
身体の中の
ステップを踏むように銃弾を避け、こちらも威嚇射撃を数発撃つ。
すると、相手の身体から無数のワイヤーがまっすぐ伸びる。
私は避け、グシャラボラスは腕でワイヤーを砕いた。
黒曜石の結晶が飛び散るようにバラバラと砕ける。
私はアスタロトに急接近し、腕を振り上げた瞬間、先程の降下機材から砲撃が放たれる。
「厄介だな」
私は吐き捨てながら回避する。
しかし、私は砲撃に気を取られ、相手に死角を取られる。
背後からアックスが飛んでくる。
もちろん、これはデモニウム製の強靭な素材で出来た武器だ。
このようなもので作られた武器は、どのような装甲も貫き、またこのような素材で作られた装甲は、どのような武器の攻撃も反響させる。
そして、私たちデモニコアが体内にあるものは、骨格が全てデモニウムに置き換えられ、更にいずれ身体全体がデモニウムに置き換えられるそんな新時代の呪いと言っても過言ではないだろう。
飛んできたアックスを避けようと体を捻る。
しかし、死角からの攻撃を避けるのは難しく、本体は避けられたが、右腕に突き刺さる。
「痛え……」
そう言いながら、右腕に突き刺さったアックスを一本引き抜く。
引き抜いた後からは、黒い欠片がパラパラと地面に落ちる。
「なぁああ!!!」
私が脚にグッと力を入れて蹴ると、砂が爆発したかのように飛ぶ。
赤黒い痣が身体に広がり、視界が真っ赤に染まる。
地を蹴った勢いのままアスタロトに跳躍蹴りを喰らわせる。
アスタロトは、踏み込んで耐えるが、勢いに負けて吹き飛ぶ。
負けじとワイヤーを再び伸ばしてくるが、私は大剣を呼び出し、全て叩き斬りながらアスタロトに急接近する。
目の前まで接近した瞬間、再び砲撃が飛んでくる。
「煩い!」
そう叫んで私は持っていた大剣を降下機材に向けて投げつける。
更にアスタロトの背後から尾のように太く長いワイヤーが私に向けて振り下ろされるが、私は高く飛び上がり回避する。
そして落下の勢いのまま巨大なメイスを振り下ろした。
砂煙が晴れるとアスタロトだったものがそこには佇む。
顔から腹まで私の振り下ろしたメイスが肉を引きずり、身体が潰れて凄惨な姿をしている。
メイスを少し持ち上げると潰れた肉に食い込んだ部分が肉を千切る生々しい音を立てる。
さっきまでピンと張られていたワイヤーも私がメイスを振り下ろした場所が丁度、デモニコアの位置だったらしく力無く緩んでいる。
メイスをその場に置いて私は再び砂漠を歩き出す。
「ユキ……ユキ……」
声が聞こえる。
私は寝起きの目を擦りながら耳に装着している通信機の通話ボタンを押す。
「コトネこちらユキ感明送れ」
「ユキこちらコトネ感明よし。感明送れ」
「感明よし」
「了解」
そんなやりとりをしながら朝食のレーションを取り出す。
「今回の任務は?」
「また確認してなかったの?」
「確認はした」
「はぁ。今回は、敵艦の偵察。精密には、敵の出現ポイントの偵察ね。ここいらは、艦長が代わってから特に他の
「あっ……」
「あって何?」
「昨日、2人殺した」
「えぇ……」
「まぁ次は殺さないから。……多分」
「た、頼むよ?」
昇る湯気が少し揺れる。
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