砂漠の雪
よろず。
Code1「ユキ」
砂塵が乱れ舞う視界。
過去の見栄えは今、見るも形もなく。
紅い塔も空の町も多くの高層ビルも倒壊し、60%は
ただただ砂とガラスの片が視界を過ぎる。
そんなことより私の姿形は、何も知らぬ者から見れば不審者同然だろう。
弾丸のような速度で舞う砂やガラスの為に防塵装備と防弾装備をし、背には巨大な銃を担ぐ。
本当にただの不審者だ。
だが、それもこれも今の地球の環境が原因だ。
海は枯れ、氷塊も消え、大地と植物は焼けたのだ。
なお、地球の呼びは変わり、ラジオがひしゃげた声で高らかに唄う。
「ニューデザート」
私が踏み込む毎に痕跡がポッカリと空き、砂を舞わせ、再び運ぶ風が穴を埋める。
「こちら指示塔、状況報告を要請する」
既に慣れた英語で指示される。
「こちらユキ、空前の大荒れで視界は最悪、GPSを辿った指示を要請する」
私も慣れた言葉遣いで通信に応える。
「了解。それではナビゲートを開始する。目的地まで残り200m。目の前に赤い塔がないか?」
「あぁ、今ちょうど塔にいる」
「そしたら、そのまま今向いている向きにしばらく進んでくれ」
「了解」
会話が終わるとイヤーポッドの通話ボタンを押したまま向いている方向に歩みを進める。
踏み出す毎に積もり積もった
ここからも長い道のりなので、すこし皆さんに私についてお話しいたしましょう。
私の名は、
宇宙都市『オオワシ』に普段は住んでいる。
いや、普段というほど家にはいないか。
私の仕事は、見ての通りニューデザートでの捜索だ。
捜査団体『
つまり、
依頼の主な内容は、薬の運搬だとか物資の調達、鉄などの建材の収集、それから依頼が1番殺到する人探しや死体拾いだ。
灰砂の中から生きた人間を見つけるのは、至難の技だ。
視界の悪い環境で常人ではすぐに狂ってしまうだろう。
道もあてもなく途方もない。
遂に辿り着いたかと思えば、もぬけの殻だったり既にそこが墓場になっている場合もある。
そして、1番厄介なのは辿り着いた先が戦場になっていることだろう。
私はそんな依頼はさっさと切り上げてしまうようになった。
戦うなんて無駄なのだから……
砂嵐が止み始めた頃、足元の感触が硬く変化する。
積もった砂を払い退けると、金属製の扉が現れた。
劣化し重たい扉をゆっくり開ける。
そうしてできた穴にラダーを下ろして中に入る。
中は少し砂っぽく、防塵マスクを外すと、途端に咽せた。
一旦、入って来た扉を閉じて建物内の探索を始めた。
暗い建物内に私のブーツの音が響く。
生活感のない建物内に呼ばれた私にしてみれば、
そう少し私が嫌そうに目を細めていると、発砲音が暗闇に響く。
私はそれを咄嗟に身体を逸らして避けた。
「誰だ!」
闇の奥から男の声が聞こえる。
「私は砂鴉の降下隊員。依頼であなたと物の回収に来ました。Mr.
「誰からの依頼だ?」
そう言って、拳銃を私の額に突き付ける。
私はそれに動じず、懐から依頼書と契約書を出す。
それを見ると、仮月は少し落ち着いたような表情で私に向き直す。
私は書類が仮月の前から退いた瞬間、巨大な銃の銃口を仮月の顎に突き付ける。
かなり怯えるような身振りをする仮月の右手から拳銃を取り上げる。
「信用してもらえて良かったです。では、物の方はどちらに?」
「ああぁ、それは少し離れた場所にある」
「そうですか」
「お母さん……怖いよ……」
男の背後から声がする。
「大丈夫よ。よしよし」
「あの人達は? 依頼書になかったですし、殺してもいいですか?」
「あぁ! やめてくれ」
「どうしてですか? 私の受けた依頼には、彼女らの存在は明記されていませんでした。Mr.仮月と物をオオワシに回収するだけなら彼女らは遂行の妨げです」
「なら、私からその依頼に追加させてくれ。勝手だが、私と妻と息子の回収に訂正してくれなぁ? 頼むよ」
私は少し考えるが、頼み込む仮月の姿を見て縦に首を振る。
「わかりました。ご家族も責任を持って回収します」
「あぁ、ありがとう」
「では、管制に予定変更を伝えて来ます。その後、物の方の回収に行きましょう」
「あ、あぁ」
そう言って、通信が可能な場所を探して建物を出た。
「と、言うことです。予定より人数が増えるので、昇降機の生命維持装置の追加をお願いします」
「りょ〜か〜い。それよりさ〜ユキは、何でそんなに毎日毎日ニューデザートに
「そうね。夢かな」
「ハハッ何それ〜」
「それよりコトネは、怠慢です。仕事中なのに今もスナック菓子とビールをデスクの上に置いてるでしょう? それに先程も私が砂嵐の中で迷っていたのを助けたのは、予備管制指示塔ですけどあなたは何をしてらしたのかしら?」
「そっそれは……え〜っと」
「とりあえず、仕事はしっかりとして下さい。今回のは、人命も関わりますからお願いしますね? コトネ」
そう言って通信を切り、建物に戻った。
「もうすぐ砂嵐が発生するので回収は明日にしましょう」
「そうか分かった。そうだ隊員さん」
「私のことは、ユキで良いです」
「ユキさん。今日は泊まっていきなさい」
私は少し考えるが、首を縦に振る。
「それでは、お言葉に甘えて」
「ご飯できましたよ〜」
仮月の奥様が食卓に料理を並べる。
「わぁ〜、美味しそう! いただきま〜す」
「ちょっと待って〜! 色葉、手を洗った?」
「洗った〜」
「おお、今日もとても美味しそうだね」
「ふふっ、そう? ありがとう」
「ユキさんも一緒に食べましょう」
「は、はぁ……、では、いただきます」
私は卓に着き、目の前に置いてあるスープを小さなスプーンで口に運ぶ。
「どうかしら?」
「はい。これはとても……、なんと表しましょうか」
「あら? お口に合いませんでしたか?」
「いえ、表現の枠に留まらない程とても良い味です」
「ふふっ、それは良かったわ。沢山あるからどんどん食べて」
そうして、私は仮月家の皆さんと卓を囲んだ。
食事の後、私は書斎を訪れた。
「すみません。Mr.仮月、お聞きしたいことがあります」
「何だね?」
「明日回収する物とは何ですか?」
「あぁ、それはだな。兵器だ」
「兵器……ですか」
「君は知っているか? 悪魔の技術を」
「あぁ、聞いたことがあります。人を
「そう人を
「その姿を見て悪魔と呼称されている訳ですね」
「そうだ」
「ああ、あなたが上に呼ばれている理由が何となく理解できました」
「ほう?」
「戦争ですね? いや、敵を圧倒するのであれば戦争ではなく侵略、統制、支配または、殺戮」
「そう、そうだ! 私は宇宙全土を掌握する!」
「その手始めにオオワシを……っと言うことですね?」
「ご明察だ」
「私はあなたとご家族と物を上に運んだらそれ以上はないので今のうちに夢見心地に浸っていて下さい。それでは、明日もありますから私は休みます」
そう言って、リビングのソファに横になると、瞳の中を渦巻く暗闇が私を眠りに落とした。
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