女友達と付き合う(振りをする)ことになった

色海灯油

第1話 友達から恋人へ

「ねえ隼人はやと。私たち付き合っているらしいわよ」

「えっ何急に。そうなの?」


 下校中、隣を自転車で併走するクラスメイト、速水真希はやみまきからそんな話を振られた。


 おかしいな。


 僕は告白をしていないしされた記憶も無い。


「今日友達から『真希と佐久間君っていつから付き合ってるの?』って聞かれたんだけど」

「うん」

「付き合ってないって答えたら『またまた嘘でしょー』って言って聞かなくて」

「あーそういえば僕も前に似たようなこと言われたかも」

「誰から?」

「友達とか後輩達」


 僕は運動部に所属しているんだけど、真希はそこでマネージャーをしている。数日前の部活動で休憩中に聞かれたんだった。


 もちろん付き合ってないって答えたけど、聞き入れてくれなかったな。ついには同級のチームメイトが『こいつに聞いてもはぐらかされるから無駄だぞ』と後輩達に語る始末。

 その後の練習が厳しくて忘れていた。


 もう部活内では僕と真希が交際しているというのが常識になっているようだ。

 違うけどね?


「もう周りには何を言っても無駄そうね」

「そもそも何で恋人に間違われたんだろ?」


「友達がいうにはね、登下校一緒にしているのをよく見るそうよ」

「そっか、なら仕方が無いかー。カップルで揃って登下校は定番だもんね。僕も憧れるよ、彼女と楽しく登下校なんて。他には?」


「別の友達がいうにはね、いつも楽しそうに会話しているんだって」

「別にそれは関係ないような気がするなー。普段部活のこと以外だったらどうでも良いことばっかり話しているし友達との会話と大差ないよね。他には無いの?」


「さらに別の友達がいうにはね、休日にイ○ンで買い物しているのを見たんだって」

「なら仕方ないね。休日にショッピングデートなんて定番中の定番だよ。彼女と服を買いに行って試着室から出た姿を見て『可愛いよ』なんて言ってみたいなー。……なんかミルク○ーイみたいになってきたな」

「通りで少し寒いのね。ダメよ隼人、お笑いの才能が無いのにボケるのは。あれは面白い人がやるからこそなの」

「最初の振りをしたのは真希だからね? それにまだ10月だよ」


 来週から11月に入るけど。


 それにしても登下校と休日デートか。

周りからそう見られているみたいだけど、僕らにその意識は全く無い。


 というか登下校にしたって帰りは同じ部活で帰る方向も同じだから。登校はたまたま鉢合わせるだけだけどさ。

 休日イオ○に行ったのだって友達の誕プレを一緒に買いに行っただけだ。


 そんなこんなで僕らは付き合っているわけでは無い。あくまで友達だ。

 ただまあそういう噂が嫌かどうかと問われたら回答に困るかな。

 しつこく聞かれるのは勘弁だけど噂だけならいつかは無くなるだろうし。


 あ、でも僕に彼女がいるっていう噂があったらいざ彼女が欲しくなったときに困るかも。

 今好きな人いないけど。


 僕が考え事をしている間、真希も同じように何かを考えていたようでしばしの沈黙が流れている。その沈黙を破るように、真希が口を開いた。


「ねえ隼人」

「何?」

「私といるの嫌?」

「全然。物凄く気楽にいられる」


「じゃあ私たち、付き合お?」

「うん。……え?」


 さらりと告白してきたぞこの人。物のついでみたいに言うのやめてよ。

 人生で初めての告白がこんな流れ作業みたいなのは嫌だ。


「ダメなの?」

「ダメっていうか……何というか、その……」

「わーんふられたー。しょっくー」

「棒読みすぎない!?」

「どうして今日1番のリアクションが今なのよ」


 だって、ねえ? 告白があまりにも自然すぎたし。

 驚く前に疑問が勝っちゃったから。



「それでどう? 私と付き合うのは。付き合うといってもあくまで振りだけどね」

「付き合う振り?」


 思わずそう聞き返してしまう。あんなにさらっと告白してきたから驚いたけど、やっぱり本気の告白では無いみたいだ。



「そうよ。周りから付き合ってる付き合ってないって言われるのはちょっと面倒だからさ。いっそのこと付き合っていることにした方が楽かなって」

「偽物の恋人なんてもう時代終わりじゃない?」

「いつの時代にそんな風習があったのよ」


 二次元の中では結構メジャーです。最初は双方仕方なくだったけどいつしかそれが本当の恋心に変わるんだよね。

 さすがにまだ時代遅れではないか。最近もそれをテーマにした物語あったし。


「ともかく! 私もだけど隼人も『恋人欲しい』って言ってるでしょう?」

「うん」

「でも好きな人はいないでしょ」

「それは、まあそうだけど」

「じゃあ私と付き合ってる振りをして、彼女が出来たらやりたかったこと、もしくはやりたいことを練習すれば良いのよ」

「それは良いかもね」


「それに」


 真希は1度言葉を区切ってこちらを見る。彼女の大きな瞳が細まり、口角が上がっている。物凄く綺麗なドヤ顔だ。

 脇見運転は危ないよ。

 そう注意する間もなくビシッと言われた。


「振りとはいえこんなに可愛い子と付き合えるのは嬉しいでしょ?」


 …………なんと返事をしようか。真希が可愛いのは全面的に同意するけど。クラスの中では充分上位に入ると思う。


 真希はスラリとしているし、彼女の明るい性格に黒髪のボブカットはよく似合っている。顔立ちも整っているし肌も綺麗だと思う。


 だけどズボラなところとか、面倒くさがりな所とかも色々知っているからなぁ。

 反応に困るというか。


「なんか言いなさいよ」

「まきさんちょうかわいいっす」


 果てしない棒読みだった。さっきの真希と良い勝負。


「でもまあ良いよ。やろうか、恋人の振り」

「ん、じゃあよろしくー」

「こちらこそよろしくー」


 こうして僕らは晴れて恋人(の振り)となった。


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