ゆーれー彼氏に殺される?!
センセイ
ゆーれー彼氏
私、冬本美咲。
「──好きです、付き合ってください」
「……え?」
中学2年生の、春。
昼休みに屋上に呼び出されて、私は……幽霊に告白された。
「……ええ〜っ?!?!」
****
告白して来たのは、6年の頃に死んだはずの……涼くんだった。
「あ、足……あしあし……!」
最初は涼くんに似てる誰かかと思ったけど……彼、足が無いんです。
「ひぇ〜?!」
私は思わず腰を抜かしそうになって、その場にぺたりと座り込む。
涼くんはよく見ると透けて見えるし、やっぱり幽霊なんだ……。
……でも、何で今更?
3年も経った今化けてくるのもそうだけど、それよりも……
「今の……告白?」
確かに、「好きです」って言ったよね……?
「付き合ってください」とも言ったよね?!
「何で?!」
「何でって……」
私が聞くと、涼くんは当たり前の様に答えた。
「みさきの事が大好きだからだよ」
そう言ってニコッと微笑む涼くんは、あの時からちっとも変わっていない……って、そうじゃなくて!
「だから……って、どういう事?!」
「ん?」
「だって、幽霊……でしょ?涼くん……」
「……そうだよ?」
涼くんは、自分が幽霊である事に何も不思議に思わないみたいだった。
それどころか、当たり前の様にそこに居るし……告白までして来るし……。
「……涼くん」
「なに?」
それに……
「私の事、好きだったの……?」
今まで告白された事なんて無かった。
男勝りな性格で髪もボサボサだし、お節介を焼きすぎて……友達と言うよりお母さんみたいって言われるばっかりで、まさか同級生にそんな事言われるなんて、思いもしなかった。
……たとえ、幽霊だとしても。
「うん。みさきの事、好きだよ」
だから、正面からこんな事言われると……。
「ま、待って!タンマタンマっ!!」
「ん?」
「ちょっと落ち着かせて!!」
どうしよう。
涼くんの事、恋愛として見た事無かったけど、やっぱりそんなに真面目に言われると……。
「え?何?ドッキリ……?」
「ドッキリ?」
「だって……」
思わず声に出してしまって、涼くんに笑われてしまう。
「幽霊使ったドッキリなんて、誰も思いつかないでしょ。……それでも信じられない?」
例え向こう側が透けていても、足が無くても、そう言って笑う涼くんはどうしても死んでいる人だとは思えない。
「ほんとに透け……え?」
私がお決まりの様にお腹の辺りをすり抜けようと手を伸ばすと……柔らかいものに触れた。
「え??」
触れ……る?
幽霊なのに?
え……??
「……みさきちゃん」
涼くんが呼ぶ声に見上げると、
「涼く……」
「大好きだよ、みさき」
涼くんは柔らかい笑顔のまま、涼くんのお腹の辺りで止まっている私の手を掴んだ。
やっぱり、触れるんだ……。
……って、そんな事を思っていたら、
「だから……死んで?」
涼くんは私の手を掴んだ手を、勢い良く屋上の柵の向こうへ引っ張った。
「え……」
勢い良く体が向こうへ乗り出して、重心ががくんと傾く。
……落ちる。
校庭で遊ぶ友達がスローモーションに見えて、反射で目に涙が溜まる。
私、死ぬの──?
「っ……!」
考えてしまって、怖くなってぎゅっと目を瞑ると、
「冬本!!」
大きな声が聞こえ、反対側に体が引っ張られる感覚と共に、私は大きく後ろに倒れ込んだ。
「冬本!大丈夫か、冬本!!」
「海斗、くん……」
何が起こったのか、最初はよく分からなかった。
でも……段々分かってきた。
今私の事を呼んでくれている海斗くんは、私が屋上から落ちそうになっているのを助けてくれた。
……そして、私を屋上から落とそうとしたのは……涼くん。
「どうして……?」
まだ心臓がバクバク言って凄く怖かったけど、思い切って振り返ってみると、
「……冬本?どうした……?」
……涼くんは、もう何処にも居なかった。
****
「……本当に?」
「本当!本当だよ!」
放課後、海斗くんに呼び出されてまた屋上に行くと、びっくりする程詰め寄られる。
「本当に、自殺しようとしたんじゃないんだってば!」
……そう。
私は海斗くんに、自殺しようとしていた様に見られてしまったらしい。
ってことは……海斗くんには、涼くんの事は見えていなかったのかな。
「自殺しようとしなきゃ、あんな体制……普通なる訳無いだろ?!」
「きゃっ……」
海斗くんは大声でそう言って壁を強く蹴る。
私は思わずびっくりしてしまって、その場にしゃがみ込んでしまう。
「!わ、悪い……」
すると、海斗くんは途端に申し訳無さそうになって謝ってきた。
「う、ううん、大丈夫……」
私も驚き過ぎてしまったかなと思いながらも立ち上がると、心配そうにしている海斗くんと目線が合った。
「……でも、ちゃんと理由を聞くまでは……帰せないから」
最近はあんまり話さなくなっちゃったけど、海斗くんは幼稚園の頃からの幼なじみだから、こうやって凄く心配してくれる。
だからあんまり心配はかけたくなかったんだけど……幽霊に引っ張られたなんて言っても信じて貰えないだろうし、逆に心配させてしまいそうだから、言えなかった。
「……ごめんね。でも本当に……自殺しようとした訳じゃないんだ」
細かく言い訳しようとしたら嘘だってバレてしまいそうだったから、あえて何も言わないでいつものドジだと思ってもらおうと笑ってみた。
……が、やっぱり誤魔化してるのが伝わってしまったのか、明らかに心配される。
「って!そもそも私が自殺する訳無いでしょー?!こんなに毎日満喫してるのに!」
「ふっ……ま、そーなんだけどね」
とりあえずこの空気に我慢できなくなって大袈裟に騒ぐと、やっと海斗くんはそう言って笑ってくれた。
「……でも、しばらくは見張らせて貰うから」
「それで疑いが晴れるなら……いいよ」
「ん。……じゃ、帰ろ」
「うん」
やっと海斗くんからの許しが出て、私達は帰路に着いた。
久しぶりに一緒に歩いた通学路は……最後に歩いた小学生の頃より、ずっと短く感じた。
「わぁ……懐かしいなぁ、海斗くんの家」
「ん。送ろーか?」
「ううん、すぐそこだし大丈夫!」
海斗くんの家は、私の家へ行く道の、手前の角を曲がるとある。
遊びに行かなくなってからは正面から見る事も無かったので、見るだけでもあの時の思い出が蘇って来そうな程懐かしい。
「ね、覚えてる?ここら辺でおうちごっこしてさー…」
「無駄話しない。早く帰らないと冬本の母さんに言うよ?」
「ひぇー……それだけはっ……!」
「……冗談。じゃ、またな?」
「ん!」
油を売っていたら、軽く脅されてしまった。
私はすぐさま片手でピースして、
「また明日!」
と声を張り上げてから、小走りに通学路に戻った。
それにしても、海斗くんとはしばらく遊んでなかったけど……あんまり変わってないみたいで安心した。
海斗くんとは4年の頃、私が一回家庭の事情で引っ越して行ってしまってから、疎遠になってしまっていた。
その後1年生の終わり頃にまた越してきた時にはびっくりする程見た目が変わっていて、髪も染めていたからびっくりしたけど……ちゃんと優しいままで良かった。
「……」
少し遅くなったからか、下校する人や部活帰りの人とも鉢合わせなくて、通学路はしんとしている。
「……来ない、か」
一人きりになったからまた涼くんが現れるかと思ったけど、そんな事も無かった。
(何だったんだろうな……)
触れたり、落とされそうにならなければ、夢や幻かとも思えたけど……やっぱりあれが気のせいなんて思える訳も無かった。
(しかも、告白まで……涼くんって、私の事好きだったの……?)
化けて来て告白して、それなのに殺そうとしたりして……どうしてなんだろう。
ずっとこのモヤモヤが続くのは、ちょっと嫌だな……。
「お、帰りかい?みさきちゃん」
……そんな事を考えながら歩いていたら、お隣のおじいちゃんに話しかけられた。
「おじいちゃん!お掃除ご苦労さま!」
私のお隣のおじいちゃんは、なんと神社の神主さんで、私のうんと小さい頃からずっとそこに暮らしている。
それこそ、神社の境内でよく海斗くんと遊ばせて貰ったり。
……そうだ、神主さんのおじいちゃんなら、涼くんの事……何かわかるかも。
「おじいちゃん、ちょっといい?」
「おぉ、どうしたぁ?」
「……ちょっと、聞きたいこと」
おじいちゃんは不思議な人だった。
小さい頃……海斗くんとかと遊んでた時なんかに、ちょっとでも怪我したりするとすぐ気づいてくれるし、私がお母さんと喧嘩しちゃったりで泣いていたら、すぐ見つけてくれて話を聞いてくれたりしてくれた。
「おみかんあるから、とりあえず入り」
だから私にとって、なんでも話せる人と言えばおじいちゃんだったし……もしかしたら信じてくれるかもって、思ってしまったから。
「……お邪魔します」
***
「3年前死んだ、同級生の幽霊?」
「うん……」
最初は幽霊が見えたって言おうとしただけだったんだけど、おじいちゃんが優しく頷きながら聞いてくれるから……結局全て話してしまった。
おじいちゃんは私の話を馬鹿にすること無く、全部真剣に聞いてくれた。
「それは……悪霊かもなぁ」
「悪霊?」
「そう。……ちょっとみてみようか」
「みる……って?」
私が聞き返すと、おじいちゃんは「ちょっとまってな」と立ち上がって、どこかに行ってしまった。
……おじいちゃんが居なくなると、この部屋はちょっと怖い。
変な形の置物がいっぱいあるし、沢山の白い服を着た人の写真があるし……。
でもそう思うのも、おじいちゃんが居る空間が穏やかで優しいからかもしれない。
「おまたせ」
「おじいちゃ……えっ?!」
そんな事を考えていたら、おじいちゃんが戻って来て……あの写真の人と同じ、白い和服みたいのを着ていた。
「どうしたの?その格好……」
「ん、一回みてみようと思ってね」
「みる……」
もしかして……霊視、みたいな?
「おじいちゃんって、何者なの?」
「ん?」
恐る恐る聞くと、おじいちゃんは、
「ただの老いぼれた霊能力者だよ」
と、いつもの笑顔を浮かべた。
「れい……」
「驚いたかい。……ま、ちょっと呼んでみようか」
「呼ぶ?涼くんを?……そんな事、出来るの……?」
まだよく分かっていない私の前で、おじいちゃんは手で何かの印をきったりしながら答えた。
「呼び出せるよ。君に憑いてるのならね」
「わっ!」
その瞬間、強い風が吹いたような感覚がして思わず目を瞑ると、
「何事……?」
「涼くん!」
おじいちゃんに片手を捕まれ、ふわふわと宙に浮く涼くんの姿が現れた。
「……みさき、誰?このおじいさん……」
「涼くん、やっぱり居たんだ……!」
おじいちゃんの凄さよりも先に、涼くんがまた現れた事に感動してしまって、軽く飛び跳ねてしまう。
「みさきちゃん、ちょっと来てごらん」
「ん?どうしたの、おじいちゃん」
そんな事をしていると、おじいちゃんに呼ばれる。
「こいつに引っ張られたと言ったけど、今は触れるかい?」
私が目の前に行くと、おじいちゃんはそう言って涼くんの手首を握ったままその手をこっちに伸ばしてきた。
「えーっと……あれ?」
涼くんの手の上に自分の手を乗せようとしてみると……すり抜けた。
「何で?!前は確かに……」
「……こいつのせいだろうなぁ」
前お腹を触った時も、手を引っ張られた時も確かに感覚があったのにすり抜けてしまって混乱していると、おじいちゃんは冷静に言った。
「幽霊はな、触ろうと思った時に触れる様に自身を変化させれる者も居る。こいつはそれが出来る方だろう」
「?……じゃあ何で、おじいちゃんは触れるの……?」
「ん、わしら霊能力者は、触ろうと思えば触れる様になっとる」
「へぇ……」
おじいちゃんが幽霊の話をするなんて滅多に無かったから、何だかこんなに色々言われると驚いてしまう。
……それと同時に、さっきから何も喋ってくれない涼くんが、気になってしまった。
「……涼くん、手」
「……なに?」
「手……触ってみて」
私がそう言って手を伸ばすと、捕まって居ない方の手を、「ん」と言いながら軽く乗せてくれた。
……今度は、ちゃんと感覚がある。
「……おじいちゃん、涼くんは悪霊なの?」
私は……今触れている涼くんが悪霊だなんて思いたくなかった。
そんな願いからつい聞いてしまうと、おじいちゃんは難しそうに口を開いた。
「悪霊では無いが……いずれそうなってもおかしくないだろう。……いや、それよりも厄介な存在かもしれんな」
「……厄介って?」
悪霊では無いという言葉でホッとしたものの、厄介って何だろう。
私が聞くと、おじいちゃんは続ける。
「こいつが悪霊なら、わしが祓えば良いが……悪霊で無くて君を殺そうとしたのなら、だいぶタチが悪い」
……そうだった。
涼くんが悪霊じゃなかったとしても、私を殺そうとした事は変わらないんだ。
「涼くん、どうして私の事を殺そうとしたの……?」
「……」
私が聞いても、涼くんは何も答えようとしない。
でも、きっと……なにか理由があるハズなんだ。
「涼くん!」
「……みさきには、分からないよ」
私が問い詰めると、そんな事を言われた。
私には分からない……?
そんな事言われたって、まぁ、確かに分からないかもしれないけど、でも……。
「私、バカだけど……分かってあげたいの!……お願い!」
私が必死でそう言うと、涼くんは小さく息をついてから、ようやく答えてくれた。
「……みさきが好きだからだよ」
……え?
「ど……どういう事……?」
「ほら。分からないでしょ?」
「だって……!」
普通、好きな人には生きて欲しいってのが普通じゃないの……?!
私が混乱してしまっていると、おじいちゃんが割って入ってきた。
「なるほど。悪霊にならない訳だ」
「お、おじいちゃん!どういう事……?」
「なぁに、簡単な事よ」
おじいちゃんは涼くんの手首を離さないまま、一言言った。
「こいつは……殺すのが目的じゃない。ただ君と同じ世界に居たいだけだ」
***
「つまり……涼くんは私に同じ幽霊になって欲しいから、私に死んで欲しいって事?」
「そう。分かった?」
「分かったけど……分からない。死んじゃったらもうおしまいなんだよ?」
「でも、僕はここに居るよ」
「そんな事言ったって……」
涼くんの言いたいことはわかったけど……だからと言って私はまだ死にたくないし、涼くんに殺されるのも嫌だ。
「……死ぬのは嫌だけど、私に出来る事なら手伝うから……それじゃダメ……?」
「……」
そんな事を言ってみるものの、涼くんは何も答えない。
「みさきちゃん、君に出来る事は……こいつを……そうだな、成仏させてやる事だ」
「……成仏?」
「そう。……つまりは、こいつの未練を無くしてやる事になる」
涼くんの未練?
あっ……。
「つまり……私が涼くんと付き合えば良いって事?」
「いや、そこまでとは言わんが……」
「そうだよ」
私がそんな事を言うと、やっと涼くんは口を開いた。
「俺はみさきを連れて行きたいと思ってるけど、みさきがそんな事思わないくらい、俺の未練を無くしてくれるなら……それでもいいと思ってる」
涼くんの顔は真剣だった。
……ん?
これって、もしかして……。
「あ、気づいた?……殺されたくなければ俺と付き合ってね、みさき」
……。
「えぇ〜っ?!?!」
***
「良いのか?みさきちゃん。無理にこいつと付き合わなくても……」
「良いんです!殺されたくは無いけど、涼くんは成仏させてあげたいし……」
「……そうか。なら、何も言わんよ」
おじいちゃんは少し心配そうだった。
私は心配させないように、おじいちゃんから貰ったお守りを見せる。
「大丈夫!これがあるから!」
これは、おじいちゃんがさっきくれたもの。
これを付けている間は、幽霊に触られない様になるらしい。
「……みさき」
そして、そんな物をおじいちゃんに貰った理由は……。
「涼くん……」
「よろしくね?……改めて、彼氏として」
……そう。
私は結局……涼くんと付き合う事になったのです。
「でも……良いの?私で……」
今更だけど、付き合うとなると……何だか急にそう思ってしまって、つい口に出してしまう。
「あはは、僕にそんな事言う?……みさきこそ、初カレ幽霊だけど、いいの?」
すると案の定……涼くんに笑われる。
……ん?
「な、何で初カレって……」
「……あ、やっぱり?良かった〜」
「あっ……!」
恐ろしく呆気なくカマをかけられてしまって、がっくりと膝を落とす。
この調子で、成仏なんかさせられるのかなぁ……。
「……ねぇ、みさき?それ外さない?」
「ダメー!外したら涼くん殺そうとするんだもん……」
「……しないよ」
そんな事を思っていたら、早速命を狙われそうになって慌てて首を振る。
「だって……みさきに触れたくて。ダメ?」
「う……可愛く言われたって、ダメなものはダメですっ!!」
「ちぇ〜」
……危ない危ない。
つい許可してしまいそうになる。
「とりあえず……夜の間は、こいつはわしが預かるよ」
「えぇ〜?」
「……良かったぁ。ありがとう、おじいちゃん!」
おじいちゃんの一言に、思わずホッとする。
いくら幽霊とはいえ……お風呂とか覗かれたら、たまらないもん。
「みさき、僕の事信用してくれないの?」
「うっ……で、でも……ごめんねっ!」
「小僧、信用と使って強要しちゃいかん」
「……はぁい」
幽霊だからか、涼くんはおじいちゃんには強く出られない様で、途端に大人しくなった。
「……よし、外まで送ろう」
「えっ?いいよ!隣だし……」
「そうともいかん、ここらは危険だ」
「……分かった」
言われてみると、いつの間にか日が落ちてしまっていた。
私はおじいちゃんと涼くんとの3人で外に出る。
「わっ……まだちょっと寒いかも」
「……みさき、風邪ひかないでね」
「う、うん……。涼くんもね」
「ふっ、僕は風邪ひかないよ」
ずっと浮いてるのに、もう幽霊と話してるとは思えないくらい普通に話せてしまっている。
「……仕方ない。朝になったら涼を取りにくればいいが……但し、絶対に涼と居る間はそれを手放さない事。良いね?」
「はーい。おじいちゃん、涼くん、また明日!」
「また明日」
「みさき、またね〜」
私はおじいちゃんの言いつけをしっかり頭に留めながら、2人に向かって手を振って家へと帰った。
「……涼?」
それを聞く者が居るなんて、考えもせずに。
****
「涼ってあの涼?そこにいんの?」
「えっ……」
次の日。
支度をしてからおじいちゃんの所に向かうと、おじいちゃんは涼を捕まえながらいつもの様に家の周りを掃除していたので、私はしばらく話してから涼くんを引き取った。
……そんな時。
「じいちゃんまで、何してんの?」
いきなりそんな事を言って、神社の裏から顔を出したのは……海斗くん。
……え?何でここに……?
「こら、海斗!お前またこんな所で……」
「だって、家に帰んのヤなんだもん」
「……?どういう事……?」
確かに海斗くんともよくここで遊んでいたけど……海斗くんっておじいちゃんとこんなに親しい感じだっけ?
……と、そんな事を思って固まっていたら、余程分かりやすかったのかおじいちゃんが笑って説明した。
「こいつ……海斗は、わしの孫だ」
「……孫?!?!」
えっ……そうだったの?!
でも、思えば確かに……海斗くんは神社によく居るイメージだった気がする。
「……そんな驚くか?」
「そりゃそうだよ!おじいちゃんのとこ、最近も良く来てるけど……海斗くんに会うこと無かったもん」
「あぁ、そうだな。あそこから見てたよ」
海斗くんは上……鳥居を指さして言う。
「えっ?!危ないよ?!」
「登り慣れてるからいーの。でも、案外気づかないモンだね」
「こら海斗、そんな所に登るんじゃない」
「いてっ」
海斗くんは自分でバラしておじいちゃんにこずかれている。
それが面白くてつい笑ってしまっていると、
「……みさき?」
後ろから、涼くんが不満そうに話しかけてきた。
「なに?」
「……彼氏の前で、他の男と楽しそうにしないでくれる?」
「あっ……ごめん、つい」
そうだ。
すっかり忘れてたけど……私はもう彼氏の居る、彼女……なんだ。
「今度からは気をつけるね?だから……」
「……ん、いいよ。許してあげる」
「良かった……」
涼くんが成仏するには、彼に満足して貰わないといけない。
だからこれからは……気をつけないと。
涼くんは幽霊で、他の人には見えないんだから。
……あっ。
「……で、冬本はさっきから何と話してるの?」
考えていたそばからやってしまった。
おじいちゃんには見えるから油断してたけど……海斗くんには、涼くんは見えないんだった。
「えっと……!これは……っ」
「……海斗にはわしから言おう。みさきちゃんは涼と先に」
「えっ……?」
「ちょ、じいちゃん……どういう事?」
「……説明するから、ちょっと来い」
どうやら、おじいちゃんは助け舟を出してくれたらしい。
「……分かった!おじいちゃん、ありがとう!……行ってきます!」
「冬本……?!」
「おぉ、行ってらっしゃい」
ちょっと心配だったけど……おじいちゃんを信じて、とりあえず登校する事にした。
「ふぅ……何とか逃げ切ったね」
「……」
「……涼くん?」
「みさきちゃん、こっち」
しばらく走った所でそんなことを言いながら息をついていると、涼くんに端に来るように言われてしまった。
「何?……こ、殺そうとしないよね……?」
「今は大丈夫、触れられないし。……それより早く」
「……?」
とりあえず信じて近づくと、涼くんは見てごらんと道の方を指した。
「みさきちゃんは分かりやすすぎだし、警戒心無さすぎ。……今だってほかの人がいる中で僕と喋っちゃってるし、喋ってなくても僕の方ばっか見てたら変に思われちゃうよ?」
確かに……ちょくちょくとはいえ人の居る中で喋ってしまったら、変に思われるかもしれない。
「……しょうがない。慣れるまでは、屋上とか人の居ない所に居る様にするから」
「ご、ごめん……」
「いいよ。……みさきちゃんのそういう正直な所、好きだから」
「えへ、ありが……」
お礼を言いかけて、少し固まってしまう。
涼くんは彼氏で、彼氏からの『好き』は友達からの『好き』と違って……。
「あ、りが……とう」
「あはは、何それ」
意識してしまうと、思わず声がカチコチになってしまう。
そんな様子だから涼くんにも笑われてしまったけど……こんなんで私、大丈夫なのかなぁ……。
「……みさきちゃんは、そのままで居てね」
「ん?……うん」
そんな調子だから、涼くんの言葉の意味を知るのは……だいぶ後になってからだった。
****
「冬本さん、……西園寺君が」
「あっ……ありがとう、ゆずちゃん」
昼休み、涼くんの待つ屋上に行こうとしたら、同じクラスの榎本 柚ちゃんに声をかけられる。
その言葉に扉の方を見ると……そこには海斗くんの姿があった。
「あっ、海斗くん、涼くんがね……」
「……あいつの話題はあんまり出さない」
「えっ……ごめん」
「良いから、こっち」
早速伝えようとしたら、そうやって怒られてしまう。
そしてそのまま廊下の端まで引かれて来ると、やっと海斗くんは止まった。
「あいつの名前、知れ渡ってるから……あんまり人前で出さない方がいい」
「どうして?」
「……いいか?それ、絶対あいつの前で聞くなよ」
「……?」
最初はよく分からなかったけど、海斗くんの困った様な顔であっ…と気づく。
そもそも私が涼くんの事を聞いたのは引っ越し先でだったから……もしかしたら色々ウワサになっているのかもしれない。
だって、クラスメイトが死んじゃってる事なんて……そんなに無いもんね。
無神経になっちゃう所、いい加減直さないと……。
「……ごめんね、分かった」
「ん。……で、あいつがどうしたって?」
「あっ、えっとね……今屋上に居るの。私がみんなの前で話しかけるといけないからって」
「……よし。じゃあちょっと屋上行くぞ」
「う、うん!」
私が理解したのを海斗くんも分かってくれたのか、今度はすぐに屋上に向かう事になる。
幸いな事に話していた場所は人通りの少ない階段近くだったので、不審がられる事も無いまま屋上にまっすぐ向かえた。
「冬本」
「ん……?」
そのまま屋上の扉を開けようとしていた時、不意に海斗くんに話しかけられる。
返事をすると、海斗くんは私の耳元でコソッと言ってきた。
「俺、涼の事見えないから」
「?……うん、知ってるよ」
「……だから、涼が見えたら指さして」
「おっけー!」
「ん。……じゃ、開けるぞ」
そんな風に小さな作戦会議みたいなのをやってから、海斗くんは勢いよく屋上の扉を開けた。
眩しい陽の光に包まれて、涼くんはより一層透き通って見える姿でそこに居た。
「……なんでこいつも?」
入って来た海斗くんを見て、涼くんは少し不満そうだったけど……しょうがない。
「涼くん!」
私はすぐさま涼くんの方を指さして、彼の名前を呼ぶ。
「えっ、何……」
「……涼」
私がいきなりそう声を張り上げたから、涼くんは少しびっくりしてしまうけど、その隙を与えず海斗くんが涼くんの方を見て口を開く。
「涼、そこに居るんだろ?」
「……」
涼くんは海斗くんの方を見はするものの、何も答えない。
まぁ……答えても聞こえないってのもあるだろうけど。
そんな中でも海斗くんは、構わず私の指さしていた方を見ながら続ける。
「とりあえず……冬本は死なせないから。何かする様なら、俺が祓うから」
「……」
「もちろん、まだ俺にそんな力は無い。だけどお前が祓える様になった時、まだ冬本を殺そうとするんなら……俺は容赦しない」
「……」
ハッキリと言い切る海斗くんの言葉に、涼くんの顔はどんどん不満げになっていってしまい、私は慌ててしまう。
そのまま睨み合う様になってしまった二人を交互に見ていると、急に涼くんはこっちの方を向いて口を開いた。
「みさき、こいつ……どっかやってよ」
「えっ……」
「だって、僕とみさきの間に入ろうとしてくるんだよ?……カレカノの間にさ」
「そ、それは……」
私はチラッと海斗くんの方を見る。
海斗くんは、そんな私をちょっと不安げな表情をして見返してきた。
……確かに、涼くんは彼氏で、私は涼くんの彼女なんだけど……。
海斗くんはただ私を助けようとしてくれてるだけで、邪魔しようとしてる訳じゃ無いから、やっぱり追い払っちゃ……ダメだ。
「涼くん!」
「……何?みさきちゃん」
「海斗くんはそんな人じゃなくて……!私の大切なお友達なの……!」
「……」
「お願い、涼くん……」
「……」
涼くんは、まさか私が言い返してくると思わなかったのか、ちょっとだけ焦った様にしながらふわふわと浮かんで考え込む。
私がその様子を願う様にじっと見つめていたら、やがて涼くんは大きなため息をついて、こっちに近づいてきた。
「……分かったよ」
「ほ、ほんと……?!」
「うん。……彼女の頼みだもん」
「!……ありがとう!涼くん!」
……良かった。
やっぱり涼くんも、ちゃんとまっすぐ話せば分かってくれるんだ!
これなら、私の事を殺そうとするのも、いつかきっと……。
「ただし!」
「……えっ?」
「僕と一回デートね」
「う……うん!分かった……!」
……条件付きだったけど。
でも、きっと海斗くんとも仲良くなれるハズだから……きっと!……うん!
「じゃあ涼くんと海斗くん、握手ね」
「「えっ」」
「えっ、て……これから一緒に居ることが多いんだから、握手しないと……」
涼くんと海斗くん、どっちもにびっくりされて慌てて説明すると、今度はどっちもに大きなため息をつかれてしまう。
……えっ?
私、何か変な事言ったかな……?!
「……分かった分かった。みさき、あいつに手こっちに伸ばさせて」
「涼くん〜!!」
私がしゅんとして小さくなっていると、涼くんの方からそう言ってくれた。
途端に元気を取り戻し、私は海斗くんの方を見ながら涼くんの方を指さす。
「海斗くん!あっちの方に向かって、握手の手してみて」
「握手……こう?」
私が言うと、海斗くんはゆっくりと手を伸ばす。
それに向かって涼くんもふわふわと近寄って、その手と合う様に手を伸ばした。
「わっ!何だ……?!」
その途端に涼くんが触れる様にしたのか、海斗くんは突然の手の感覚に驚いている。
「ってか……痛っ!強く握んな!!」
「涼くん!」
「……はいはーい」
でも、やっぱり涼くんは敵意がまだ剥き出しみたいで、そんな風に海斗くんに意地悪したりするけど……。
「わっ!」
「うおっ……冬本?!」
「みさき?」
「涼くん、海斗くん」
私は二人の手の繋いだ所に飛び込んで、その握手しているのを両手で包み込む。
「これからよろしくね!二人とも!」
まだまだ問題は山積みだけど……。
とにかく、私は殺されない様にしながら、涼くんを無事に……後悔無く成仏させてあげられるように、頑張らなくちゃ。
せっかく中学生になったんだし……行事も色々満喫しないで死んだら、それこそ怨念で私の方が悪霊として化けて出ちゃいそうだし。
「……はぁい」
「ん、分かったよ」
二人はあんまり乗り気そうじゃなかったけど、とりあえずそんな風に答えてくれた。
「で、みさき……デートはどこにする?」
「えっ……今?」
「当たり前でしょ、この後すぐ行くから」
「この後?!」
「嘘ついたの?やっぱり殺した方が……」
「わーっ!行く!行くから!」
「冬本……?」
……こんなんでほんとに私、涼くんに殺されないで居られるのかなぁ……。
ゆーれー彼氏に殺される?! センセイ @rei-000
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