いつか君が愛した僕へ
花恋亡
視点
道を走る車の窓に見えるドライバーがハンドルを握らなくなってもう随分経つ。
ドライバーは目的地まで仮眠をとったり、読書をしたり、動画を観たり自動運転の恩恵を存分に堪能しているようだ。
未だ一部運送業などはマニュアル運転を推奨しているが、この国の事故率は驚くほど低下した。
技術は目まぐるしく進歩し、生活も変わり仕事も変わりいつか夢みた世界に着実に成りつつある。
信号待ちをしながら走る車を眺め自分には関係が無いことだとしみじみ思ってしまう。
旧時代品に成りつつあるチェーン式自転車が唯一の移動方法であり仕事道具。愛好家が一定数いるとはいえ、同業者は完全自立型や磁力型など自転車と呼ぶには新しくなり過ぎた(僕は心の中で他転車と呼んでいる)利器が相棒だ。
金が無い、一言で言えばそれまでだが中学卒業と同時に唯一の肉親の父が他界してからずっとこんな有り様だ。
中卒なんてこの世に自分だけしか居ないのではないか、そう思ってしまうほど世の人々は当たり前のように大学まで進学している。
施設に入ったらどうだという役所の提案を断り、決まっていた高校入学を辞退して、今の仕事を始めた。
自転車で注文品を代行して購入し届ける。いつだったかの世界的不況時に定着した業種だ。この働き方が有ってほんとに良かったと思う。それでも時代の進化と共に仕事量や同業者は減るばかりだ。
はあ、金が無い。
ため息ばかりで自分でも嫌になる。
信号機の点滅が始まる頃、後ろの茂みからなき声が聴こえた気がした。
か細くて、ちいさくて、弱々しく。
しかし確かになき声が聴こえた。
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