警視庁魔獣対策室 狼刑事と目覚めの賢者

ヨシビロコウ/角川文庫 キャラクター文芸

 かつて剣と魔法の時代があった。世界には人間の他にもエルフやドワーフといった亜人たちと、彼らの安寧を脅かす魔王が存在していた。

 しかしあるとき、王命を受けて一人の男が立ち上がった。男の名はライザス・ルーゼシオン。彼は亜人の仲間たちとともにあまの戦いと数奇な冒険をくぐり抜け、ついには魔王を打ち破ったのだった。そして人々は彼を勇者とたたえ、世界は歓喜と感謝の声で満ちあふれた。

 だがそんな中、仲間の内で一人だけ浮かぬ顔をする者がいた。エルフ族随一の大魔法使いであり、賢者の名を冠する男である。

 男は知っていたのだ。たとえ魔王の肉体を一時いつとき滅ぼせたとしても、その魂は永遠に不滅であることを。いつの日かそれはよみがえり、世界には再び暗黒の時代が訪れることを。

 彼は来るべき魔王再臨に備えて自らに魔法をかけ、誰に知られることもないまま、ひっそりと己の身体を冷たい木棺の中に封印することにした。

 それははるかな眠りの旅――常人には想像もつかぬほど長い、いくつもの時代を越える悠久の旅路だった。

 やがて時は流れ、勇者らによる魔王討伐から700年後の未来。

 武器としての剣は銃やミサイルへと置き換わり、えいの象徴だった魔法が科学へとその座を譲り渡した時代。

 人口の大多数を占める人間と少数民族である亜人とが共存する日本では、近年廃れていたはずの魔法による犯罪や、かつてモンスターと呼ばれていた魔獣による被害が増加し始めていた。

 そこで東京都警視庁はそれらの事犯に対応するため、刑事部の捜査第六課(通称:魔法課)内に、魔獣の捕獲・駆除に特化した専門の捜査室――『警視庁魔獣対策室』を設立した。

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