ウィリアム=バンガードの華麗なる一日

 私の名はウィリアム、迷宮都市を治めるバンガード家の入り婿だ。


 私は今、目の前の書状に頭を抱えている。

 ……どうしてこうなった。


 迷宮が暴走し、心身ともにボロボロになりながらようやく鎮静化に成功して帰ってきてみれば、問題が山積みで待っていた。

 住民の保護から、瓦礫の撤去、人材の手配などなど、都市の再建に必要な事は山のようにあった。

 そんな中で、バンガードには決定的に足りない物があった。

 それは、復興のための資金だ。

 概算で金貨一万枚。

 あっちこっちに、資金の借入れをお願いしてみたが、額が大きいだけに中々思うように集まらなかった。


 ……いや、なぜ資金が集まらないか理由は分かっている。

 一つは、一度鎮静化した迷宮が、今後も金の卵を産み続けることが出来るか分からず、貸すのに躊躇があること。

 一つは、モロー伯爵が裏で手を回している事が理由だ。


 そして、今、目の前にある一枚の書状の送り主は、そのモロー伯爵だった。

 中身など、開封しなくても分かっている、復興資金の貸出しと、そのついてだ。


 八方塞がりとはこの事だろうか……

 貴族としての影響力は、迷宮が暴走した事で急速に衰えた。

 そして自慢の武勇も、バンガードの復興には何の役にも立たない……


 …………ああ、あの頃はよかった。


 この苦境の中で逃避するかのように思い出されるのは、学園での輝かしい日々の出来事だった。










 私は、今でこそ王国貴族の末席に名を連ねているが、もともとは平民の出である。

 母が言うには、私の父は貴き血を引く方だそうだが、本当かどうかは定かではない。

 もしそうだったとしても、認知されでもしない限り貴族の端くれと名乗る事はできない。


 まぁ、どこにでも転がっている、良く聞く話の類いだ。


 さて、私には幸いな事に、武芸の才能があったらしい。

 幼い頃からその片鱗を見せていたそうで、十を過ぎる頃には、並みの武芸者では歯が立たないほどの腕前になっていたらしい。


 十三の時、母の奨めで、栄えある王国学園の試験を受け、その門を特待生としてくぐる事が許された時、私はようやく自身の才を自覚した。


 学園での生活は楽しかった。

 才能が開花していくのが実感できたし、様々な事が学べた。

 そして何よりも最愛の人と出逢う事ができた。


 そんな学園生活を語る上で、外すことのできない人物がいる。

 辺境の地からやって来た麒麟児ルドルフ=ファーゼストその人だ。


 学園には、多くの貴族の師弟が通っており、特待生の平民と言う肩書は、それらの視線を集めた。

 優秀な人材であれば今の内に唾をつけておこうと言う、品定めをするような視線と、自分以上に優秀な平民を疎ましく思う視線だ。


 学園に通い始めた当初は、それらの視線に辟易としていたが、ある時を境に、ピタリとなくなった。


 そう、ルドルフ=ファーゼストとの出会いがそれらを変えたのだ。


 初めて会ったルドルフは、口が悪く、我儘で、自尊心が高く、平民を見下す最低な男だった。

 私も、厄介な男に目を付けられたと頭を抱えた物だが、彼と付き合っていく内に、その印象は全く違うものへと変わっていった。


 初対面では散々罵倒をされたのだが、それ以来、不思議と付き纏うような視線はなくなった。

 それからも、彼が何か騒動を起こす度に、私の周りにはいろんな人が集まるようになったのだ。


 私が、自身の才能に胡座を掻かずにいられたのも彼のお陰だ。

 剣術試験の時も、教師でさえ圧倒するような私に対して、何度も何度も立ち向かってくる姿を見せた。

 実力では歯が立たないと分かっているのに、何度も立ち上がるその姿には、恐怖を覚えると共に、どこか憧憬の念を抱いたものだ。


 おまけに一対一以外での状況では、全く歯が立たなかった。

 集団戦闘や、野外演習など、様々な要素が絡んでくる戦いになると、彼は無類の強さを発揮する。

 あれはそう、機に敏感というか……チャンスを物にするのが非常に上手いのだ。


 特にあの時の演習では、ぐうの音もでなかった。

 赤組、白組に別れて、野外で実戦を想定した集団戦闘の演習を行ったときの話だ。

 私達が陣地で強固に守っている時に、たまたま地震が起きて陣地のすぐそばの崖が崩れたのだが、まさか崩れた崖と一緒になって奇襲してくるとか……もう、何をどう考えればそんな事が可能なのか全く分からない。

 完全に脱帽だ。


 それ以来、野外演習なんかではなりふり構わないことにした。

 泥団子を投げまくって、泥まみれにした時なんかは傑作だったな。はははっ。


 こうして、私は彼から様々事を学んだ。

 その頃には彼の印象はすっかり反転していて、言動がちょっとキツい奴という風にしか感じなくなっていた。

 中身が一致してないことなんて、知らない奴はいない。

 過去の英雄風に言うならツンデレというヤツだ。


 彼に助けられたという人の話も両手両足ではきかないくらいだ。


 かくいう私も、彼には頭が上がらない。

 ……最愛の妻、アイリス=バンガードとの仲を取り持ってくれたのが彼だったからだ。

 彼の協力なしに、彼女と結ばれることは無かっただろう……


 あれは、卒業まで残り一年程となった時のことだ。

 その頃になると、授業自体は殆どなくなり、それぞれが卒業後の進路に応じて様々なアクションを起こす。

 貴族の家に仕えるなら、その家の事を勉強したり、実際に働いてみたりするし、魔術師になるのであれば、専攻する分野を決めたり師事する人を見定めたりと言った具合だ。


 私は、戦闘分野で比類なき成績を修めていたが、他の分野もかなりの好成績を残していたため、進路に関しては選びたい放題だった。


 だが、私は迷っていた。

 想いを確かめ合ったアイリスと結ばれる方法が全く分からなかったからだ。


 彼女は迷宮都市を治めるバンガード家の一人娘、彼女と結ばれるということは、バンガード家の次期当主になるということに他ならない。

 平民の私が、いくらアイリスと両想いだからと言って、それだけでなれるものではない。

 更に間の悪いことに、アイリスには他の貴族との縁談が舞い込んできていた。


 どうする事もできず、無為に日々が過ぎていく中、私は藁にもすがる思いでルドルフに相談をしてみた。


 彼は一言、「冒険者になれ」と。


 冒険者の中でも最上級である、Sランクになれば貴族同等の地位を賜る事ができる。

 実際に領地や利権があるわけではなく、ただの名誉職ではあるのものの、それでもの地位である。

 それだけで、私がアイリスと結ばれるための障害は殆どなくなるのだが……


 勿論、それに見合うだけの功績がなければなれるものではない。

 私の実力であれば不可能ではないだろうが、今はあまりにも時間が足りない。


 だが彼は、こう付け加えた。


「Aランクになれれば方法を考えてやろう」


 Aランクならば、なれないこともない。

 なるための条件は、迷宮の100階層の突破。

 普通に考えれば、無謀としか思えないが、不可能ではない。


 なるほど、短期間でAランクになれれば、Sランクになれる可能性を示せる。

 そこにファーゼスト家の口添えがあるならば、尚更である。


「卒業式が楽しみだな」


 そう言って彼は去っていった。


 …………つまり、リミットは卒業式までの約一年。

 それまでは彼がなんとかしてくれるということなのだろう。


 私は、それからバンガードの迷宮に潜り続けた。

 昼夜を問わず、寝食を忘れ、ひたすらに潜り続けた。

 魔物をひたすらに屠り続け、とうとう百階層を突発した時、私は「剣鬼」の二つ名を持った立派なAランク冒険者となっていた。


 それから急いで学園に戻ると、卒業式までギリギリの日数となっており、慌ててルドルフを探したが、彼の姿はどこにも見えない。


 ……いや、彼の事だ、何か意味があるに違いない。


 そう思い、私は最善を尽くすべく、今度はアイリスを探した。

 彼女の姿は簡単に見付ける事ができたが、予期せぬ人物とも遭遇することとなった。


 彼女の父親だ。


 荒れくれ者ばかりの迷宮都市を治めるだけあって、彼女の父親はかなりの武威を誇っており、私の事も知っているのか、最大限の威圧を放ってくる。


 一触即発の空気。


 だが、私には迷宮で鍛えた胆力がある。

 堂々と彼女の父親の前まで赴くと、彼女と結ばれたい旨を伝えた。


  答えは「諾」


「娘に悪い虫が付いたと聞いたが、付いたのが竜ならば話は別だ」


 そう言った義父の、なんとも言えない顔は今でも覚えている。


 悪い虫か…………はははっ、一体誰にそんな事を吹き込まれたのやら。

 ここにいない、誰かさんの顔を思い浮かべながら、喜びを噛みしめる。


 そして、彼が姿を見せない理由に、なんとなく見当が付いた。


 最愛の人ぐらい、自分の手で掴み取れ!


 きっと、彼はそう言っているに違いない。

 叱咤されなければ求婚もできないなんて、全く情けない話だ。

 ……彼には一生頭が上がらないようだ。


 後で聞いた話だが、アイリスも彼には相当発破をかけられたらしい。


 幸せだった。

 何もかもが上手くいき、栄光をこの手に掴んだはずだった。


 それが何故……何故こうなってしまったのか…………








 目の前の書状の内容に、現実に引き戻される。


 書状の主、モロー伯爵は、あの時アイリスとの縁談の話に上がった相手だ。

 私がアイリスと結ばれた事で面目を完全に潰され、元々アイリスに執着していたことも相まって、何かと目の敵にされていたのだが、今回バンガードの壊滅の報を受け、ここぞとばかりに報復してきたのだ。


 そう、各所に根回しをして、バンガードの支援をしないようにしていたのもその一貫だ。


 そして極めつけは、書状に書かれていた、資金の貸出しの条件だ。


 それは、アイリスの身を差し出すというものだった。


 くそっ、あいつまだアイリスに執着してやがったのか。

こんな手で、アイリスを奪いにくるなんて……


 怒りで身を焦がしそうだ。


 だが何よりも、何も出来ない自分が許せない。


 私が手に入れた力は、アイリスを守るための物ではなかったのか?

 私が鍛えた力は、領民を守るための物ではなかったのか?


 悔しさで、頭が埋め尽くされてくる。


 …………こんな時……こんな時、あいつだったらどうするだろうか?


 ふと、そんな事が頭をよぎった。


 そして気が付くと、私はペンを走らせ、一枚の書状を書き上げていた。


 宛名はルドルフ=ファーゼスト。

 散々世話になった、旧友の名前だ。









 そこからの行動は早かった。

 バンガードの事はアイリスに任せ、私はルドルフの元へと向かった。

 馬を潰す勢いで走らせると、幾日もしないうちにファーゼスト領へとやって来ることができた。


 荒れ地ばかりで、何もない領地。

 最果ての辺境とは、こうも厳しいものかという現実を見た気がした。

 こんな領地で、あれほどまでの資金力と影響力を持つルドルフの凄さが、改めて分かってくる。


 彼の屋敷の前まで到着をすると、家令のヨーゼフが出迎えてくれた。

 馬を預け、屋敷の中へ入ると、客間へと通される。

 部屋の中にあった品の良い椅子に腰かけるとこれまでの道中の疲れがどっと押し寄せてくる。


「準備が整いましたらお呼び致しますので、今しばらくお待ち下さい。それまでは、ごゆっくりお寛ぎ下さいませ」


 そう言ってヨーゼフが退出すると、湯と水を持った侍女達が入れ替わる様にして、入室してきた。


「お飲み物をどうぞ」


 侍女がグラスに水を注いで渡してくれたが、余程喉が渇いていたのか、一気に飲み干す。


 旨い。果汁が入っているのか、微かにする柑橘類のさっぱりとした香りが、疲れた体に染み渡る。


「失礼致します」


 もう一人の侍女が、湯で濡らした布で、身なりを整えてくれる。

 それだけでも、たまった疲れが幾分か解れてきた。


 たった数分のもてなしではあるものの、旅の汚れと疲れが和らいだ事に気が付き、改めてファーゼスト家の侍従の質の高さを知る。


 旧友との面会に赴く前に、多少なりとも疲れを癒すことが出来たのは、正直ありがたかった。

 しばらく、侍女にされるがままにしていると、やがてヨーゼフから声がかかる。


「お待たせ致しましたウィリアム様。ルドルフ様がお待ちです。どうぞ、ご案内致します。」


 そう言って私はヨーゼフの後を追って、食堂までやってきた。


「ウィリアム様をご案内致しました」


 ヨーゼフに続いて部屋に入ると、そこには懐かしい旧友の姿があった。

 変わってないな。

 やや幼さの残る顔立ちは、記憶の中のそれとあまり変わっておらず、どこか安心をした。


「やぁ、ルドルフ久しぶりだね」


「相変わらず暑苦しい体だな、貴様には多少窮屈かもしれんがとにかく座れ。移動で疲れただろう、まずは英気を養え。」


「君も相変わらずだね。ここはお言葉に甘えさせてもらうとするよ」


 はははっ、毒を吐かずにはいられない所は全く変わってないや。

 旧友の相変わらずの様子に気が抜け、肩の力が抜けたような気がした。


 お互いが席に座ると、静かに現れたメイドがグラスにワインを注いでいく。


「旧友との再会に、乾杯!」


「乾杯!」


 あのファーゼスト家の侍従が働く厨房から、料理が次々と運ばれてくる。

 長旅で酷使した体は、その魅力に勝てなかったようで、あれよあれよという間に、それらはお腹へと収まっていく。


 余程疲れが溜まっていたのだろうか、無心で食べ続け、我に返ったのはデザートまで食べ切った後だった。

 心なしか、ルドルフが呆れているように見えるのは気のせいだろうか?


 お腹が膨れた事で、ようやく気持ちも落ち着いてきたのか、早速本題を切り出すことにした。


「なぁ、ルドルフ。どうか君の力を貸してもらえないだろうか?」


 焦っても仕方の無い事ではあるものの、いつまでもアイリス一人に負担を掛けるわけにはいかない。

 内容については、予め書面で知らせているので、いきなり切り出しても問題はないはずだ。


「手紙の件だな。貴様の言う通り、金貨一万枚もの金額を貸せるのは私ぐらいのものだな……」


 王国有数の金貸しであるルドルフに対して、金貨一万枚という額に関して心配はしていない。

 流石のモロー伯爵も、ファーゼスト家までは手が回せないだろうが、あいつがアイリスに執心していることも、ルドルフは知っているはずだ。

 ここで、金を貸すということは、モロー伯爵との関係を悪くする。

 それを押してまで、力を貸してくれるのか、それが心配だった。


「……いいだろう、貸してやろう」


 だが、私の心配は杞憂だった。


「ルドルフ!」


 やはりルドルフに頼って正解だった。

 学生時代から散々借りを作っておきながら、その上このような依頼を受けてもらって、厚かましい事この上ないが、彼以外にはもう頼る相手がいなかったのだ。

 本当に、一生彼には頭が上がらない。


 ……だが、彼はそこにこう付け加えてきた。


「但し、返す時は五万枚にして返せ」


 その瞬間、静寂が訪れる…………


「………………なっ」


 信じられない。

 ルドルフが、まさかこのような事を言ってくるなんて、まったく考えていなかった。


 利息は二割だ。


 例えばの話だ。

 復興までおおよそ六年の歳月を想定しているのだが、この時点で、利息に利息が付いて、借金は金貨約三万枚にまで膨れ上がっている。

 そこから借金を返そうと思ったら、もの金貨を返済をしなければならない。


 そんな事、無理に決まっている。


 つまり、そもそもこの借金はの借金なのだ。


 こういった場合、貴族の間では様々な利権を担保に借金をする事が多い。

 モロー伯爵の付けた、アイリスの身を差し出すという条件は、事実上バンガードの全てを差し出せと言うことに他ならないのだ。


 モロー伯爵に任せる位なら、ルドルフに全てを託したい。

 そう、決意してここまでやって来たというのに……


「ルドルフ、君は正気か!?」


 この男は、相変わらず私を叱咤してくる。


「…………別に私は貸さなくてもいいのだ。この条件が飲めないのなら他を当たりたまえ」


 金貨五万枚が、アイリスとバンガードの値段だ。払えるだろう?

 彼はそう言っているのだ。


 迷宮都市が正常なら二、三十年で払いきれる額だ。

 つまり、その間は、ファーゼスト家の紐がついているということであり、モロー伯爵も手を出すことはできない。


 アイリスとの仲を取り持った時といい、今回の事といい、彼は私が諦める事が余程気に食わないらしい。

 自分の手で掴み取れと、また叱咤してくれているのだ。


「……お前という奴は…………本当にお前という奴は…………」


 いいだろうルドルフ、君から私達の人生を買わせてもらおう。


「…………してくれ」


 何十年かけても払い切ってやる!

 そして私達の人生に、たった金貨五万枚という値を付けた事を後悔させてやる!


「ん?よく聞こえなかったのだが、はっきり言ってもらえるかな?」


「……その条件で貸してくれ」


 全身を震わせ、手を固く握り締め、はっきりと聞こえるように声を絞り出した。


「君ならそう言うと思っていた。ヨーゼフ契約書を持ってきたまえ」


 彼はそう言って、嬉しそうな声を上げた。


 涙が零れないないように私が必死に堪えていると、ルドルフがそっと近付きペンと契約書を差し出してきた。


 私は何も言葉に出来ないままペンを走らせていく。

 涙が堪えきれずに書類へと零れ落ちる。


 昔と変わらない旧友の優しさが、嬉しくてたまらなかった。

 だが、彼はただ金貨を貸すだけでは許してくれないらしい。


「ヨーゼフ、そういえば最近手の空いた者が数人いたな?金貨一万枚もの大金の運用だ、我が家の者も数人付ける。お互いに力を合わせてバンガードを復興しようじゃないか」


 ルドルフは、一体どれだけ私に涙を流させれば気が済むのだ。

 彼は、何でもこなすファーゼスト家の侍従を幾人も付けると言い放った。

 これからの復興の中で、絶対に必要になってくる人材だ。


 ルドルフの力添えに、胸の奥から熱いものがまた込み上げてくる。


「……くっ」


 クシャ


 サインをする手に余計な力が入ったのか、手元の書類が、音を立ててシワを作る。


 だが、そんなことよりも、私はルドルフに期待されている事が嬉しかった。

 また自分の手で幸せを掴み取れることが嬉しかった。


「ヨーゼフ、ウィリアムはお疲れだ。彼は明日からも大変だ、今日はゆっくり休んでもらえ」


 ルドルフはそう言って会談を打ち切った。


「かしこまりました。それではウィリアム様、お部屋にご案内致します」


 ヨーゼフに案内されて、客間まで戻ってくると、今までどこかで張りつめていた緊張の糸が、音を立てて切れる。


 これでもう心配することは無い。

 あとはやれることをやるだけでいい。


 ベッドに横になると、安心したのかすぐにでも睡魔が襲ってきた。

 うとうとと微睡む中、ふいに王国法の第9法が思い浮かんだ。


 ルドルフは、私とアイリスの人生に金貨五万枚もの値を付けて売り払った。

 あきらかな違法行為である。

 そんなことを考えて、笑みを浮かべる。


 はははっ、そうかあいつは悪党だったのか。


 そのまま私は、眠りの底へと沈んでいくのだった。


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