第678話 西山君の波紋 (3)

おはよう天海君、中間テストの結果どうだった?って言うかごめんね、このところ学校に来れなくって。クラス替えの挨拶も天海君一人だったから妙な雰囲気になっちゃわなかった?まぁ、俺が永遠のGクラス、Gクラスのぬしって事は結構知られているから今更って感じだったんじゃない?


「やぁ、おはよう佐々木君。お仕事ご苦労様って言うかやってくれたね。ここはいい仕事をしてくれてありがとうって言うべきなのか、やり過ぎじゃこのボケって言うべきなのか迷う所だよ。」


え~、俺必死に考えて多くの人間を動かして頑張ったんだけど?持てるコネを全て駆使したって言っても過言じゃない良い仕事だと思うんだけどな~。


「いや、凄いコネだと思うよ。佐々木君の影響力って半端ないんだって事が改めて分かったよ。」


”ガラガラガラッ”


「おはよう親友、朝からごめんね。ちょっと親友に聞きたいことがあったんだけどいいかな?」


ん?どうしたの康太君?如月さんもおはよう。何か康太君が凄い疲れた顔をしてるんだけどどうしたの?


「はい、康太君は先ごろの西山夫妻出産騒動の鎮静化の為に色々動いておられたものですから少々お疲れが。」


えっ、康太君西山君の為に動いてくれていたの?どうもありがとうね。なんか俺がミスしたばっかりに悪かったね。


「いや、親友にはいつも世話になってるからね、気にしなくてもいいよ。それに西山夫妻の事は彼の学校じゃ有名だったし、いずれ同じ様な騒ぎに発展していたと思うから。

政府としては未成年でも十六歳以上の性交渉自体は推奨してるし、教育機関での制度もすでに整っている。只、今迄その制度を使おうって言う男性が少なかっただけでね。今回の騒ぎはそんな現状に一石を投じる意味で政府機関でもかなり注目され始めていたんだ。その為国営放送でのドキュメント番組を制作できないかっていう話しにまでなっていてね、僕はその流れをどうにか方向転換出来ないかと動いていたんだけど、なかなか難しくて。このままでは西山夫妻は政治家たちに食い物にされ大人の事情に巻き込まれちゃうからね。

それをわずかな期間でこんな方法で解決するなんて、本当親友には頭が下がるよ。

その経緯を詳しく聞かせてもらえないかい?いいから全部吐け!


お、おう。先ずは落ち着こう。あ、ごめん、席を借りるね。それじゃ三人とも座って話しを聞いてくれる?

今回何が起きたのか、そして俺が何をやったのかを順序立てて話すね。

まず今回何が起きたのか。それは言わずもがな西山夫妻の出産だよね。かわいい男の子と女の子の赤ちゃんでした。写真は後でお見せします。

で、その事を木村君と後輩の林に報告していた所に陸上部の兵頭が乱入、あまりの衝撃にフリーズ。それを切っ掛けに話しがどんどん広がって次第にお祭り騒ぎになっちゃうんだけどそれはとりあえず置いておきます。問題はその騒ぎがあっという間に広がってしまった事、それも全国レベルで。SNSのトレンドワード、”高校生カップル出産”とか”おめでとう西山君”とか”幻想生物現る”とかが占めちゃったから。

西山君たち、ガッツリ特定されてましたし。

そんで起きたのが女子生徒の出産結婚熱の再燃、前にひろし君が恋人宣言した時の奴のぶり返しだね。形は結婚出産に変わってるけどやってる事は同じ。でも今回は規模が違ったんだよね、ひろし君の時は幸い学園内の騒ぎで治まったんだけど、今回は全国規模、しかも国の思惑も絡んでいるから国営放送まで出てくる始末。西山君からヘルプが入ってね、取り敢えず彼の元には弁護士先生に向かってもらって男性保護法を盾にマスコミ関連をシャットアウトしてもらいました。

そんで後はひろし君の時と同じ、知らないから妄想し暴走する、ならば教えてあげればいい。

ご協力いただいたのは毎度おなじみ関東テレビ様と浅田プロダクション様、配役はスタジオS&Bのアイドル部門と俳優部門、松平芸能事務所のベテラン俳優陣。スポンサーとして化粧品メーカーやブライダル企業、自動車メーカーなんかも参加してくださいました。銀座の高級クラブのコネが存分に役に立ちましたとも。関東テレビさんにはかなり無理を言っちゃったんだけど、バトルフィールド逃走王スペシャルにSaki様として出演する事で話しを付けました。この分は友情出演になるけど安いもんです。

で、突貫撮影のスペシャルドラマとしての緊急放送、前回の「君に贈る愛の唄」よりも厳しいスケジュール。

やり遂げましたよ、スペシャルドラマ「彼と彼女と彼女の物語」。

主演・東山卓也・・・松代大地

主演・斉藤美智子・・・久須見蘭

主演・後藤久美子・・・後藤唯奈

木島先輩・・・吉村智也

絵美子先輩・・・夏川きらら

逃走部顧問・・・西城英雄


凄いラインナップでしょ?スタジオS&Bの総力を掛けたと言っても過言じゃない。お陰で視聴率凄い事になっちゃって、スポンサーサイドからはえらい喜ばれました。

ってどうした康太君に天海君、動き固まってるんですけど?


「佐々木君あの番組って君が一から作り上げたの?」


いや~、流石にそれは無理だって。企画立案は俺だけど脚本家の先生が燃えちゃって一晩で話しを書き上げてくれたのが大きかったかな。彼女鬼ごっこ同好会のファンだったらしくって俺たちの事を良く知っててくれたんだよね、話しが早い早い。西山君の事も知ってたみたいですごい感激してた。で、俺も口頭取材に一晩付き合った形。後はこんな無茶な企画に参加してくれたスタッフのみんなや海の宿・潮風亭の皆さん、ほか多くの方々の協力が無かったら不可能だったよ。それに最後に西山君直筆のメッセージ。

”僕たちの幸せがより多くの幸せに繋がる様に。全ての子供たちが笑顔で暮らせる、そんな世の中になる事を祈って。”

あれ良かったよね~。”このドラマは事実をもとにしたフィクションです。”っていうテロップも最高。ただの作り話じゃないんだって事が伝わったんならOKでしょう。


「ねぇ親友?前に”君に贈る愛の唄”の時にも言ったよね、親友の本気は半端ないって。

今回短期間で作ったドラマとは思えないクオリティーで目茶苦茶本気で演じちゃったよね?」


そうだね~、西山夫妻の将来が掛かってたからね、本気度は当社比一・五倍はあったかな?


「周りを見て見ようか?」


ん?みんなおしとやかでお美しい雰囲気ですが何か?


「現実逃避は止めようか親友。みんな聖女みたいになっちゃってるの、新婚さんの奥さんみたいな柔和な笑みを浮かべるの、時々ウフフって笑うの。どうするのよこれ。」


周りを見るとにっこり微笑みを返してくれる女子生徒たち。

・・・ごめん、やり過ぎたかも。


”ガラガラガラッ”

その人は長い髪を靡かせ柔和な笑みを浮かべ入って来た。

「はい、皆さん席について下さい、朝のHRをはじめます。

あら、高木康太君ですね、お久し振りです。もうHRが始まりますよ、ご自分の教室に戻ってくださいね。」(ニッコリ)


「「「・・・・・」」」

これは完全にやり過ぎたと一人反省モードに入る佐々木大地なのでありました。

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