猫に話しかける男

猫に話しかける男

ぼんやりとパソコンの画面を眺めていたら、おかしな音がした。

人の声のようだった。


私は仕事中、パソコン内の通話ツールを使って客と話すことがある。

着信に気付かないまま繋がってしまった?

慌てて各ツール、各ページをひっくり返すように開くも、怪しいことはない。


気のせいか、隣の家からの声か。

またしばらく作業を進めていると、やはり何か聞こえてきた。


私はとっさにパソコンの音量を最大に上げた。


「……はい、ですのでよろしくお願いいたします。」


丁寧な、若い男性の声。

それっきり、パソコンの中の男は話さなくなった。



昼時、猫に餌をあげようと階段をくだる。


猫の姿は見えない。

いつも通り仏間でくつろいでいるのだろう。


案の定猫は仏間に敷かれた座布団に、肘をつくようにしてこちらを眺めていた。

あまり仏間にいることが多いから水を置いていたが、口をつけていないようだ。


このままでは猫が干からびてしまう。


水で指を濡らして目の前に見せたが、猫は鼻を鳴らしてそっぽを向いた。


新しい水に替えて、ご飯を持ってきてあげよう。

立ち上がって猫の鳴かない静かな仏間を出た。


そのとき聞こえた、男の声が。


ゆっくり振り返ると、猫は目をまん丸にしてこっちを見ていた。


「違う、私じゃない。」


虚しくも人間の言葉は通じず、猫は縦横無尽に家中を駆け回る。

エンジンが搭載されているみたい。


庭に人が入り込んでしまったか。

仏間のカーテンを開けてみたが、そんな様子はない。


猫に話しかけるような、ずいぶんと優しい声だった。

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猫に話しかける男 @morning51

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