第551話 信長の計略と上杉包囲網なるか?
天正元年 四月四日 京都 大使館
発 在能番所(能登所口湊) 宛 権中納言
秘メ 立花殿 出立 畠山殿 合力 越中へ 向カフ 秘メ ○三三○
秘メ 第四艦隊 出港後 帰港セズ ナホ 天気晴朗ナリ 秘メ ○三三一
発 越前堀江館 宛 権中納言
秘メ 一揆 鎮圧ノ為 桂田殿 出兵 然レドモ ソノ 勢 加賀マデ 及ブ 秘メ ○四○一
発 第二師団 宛 権中納言
秘メ 我 飛騨 吉城郡 杉原村 ニテ 会敵 複数 大隊 規模 失 秘メ ○四○二 卯三(0600)
「ちょっと待て? どういう事だ?」
純正のもとには、各地からの情報が逐一入っている。加賀は他国であるから伝馬などは存在しない。能登、越中もしかりである。
しかし、能登においては三月のはじめに畠山氏と通商・和親条約が結ばれた。
その時、半ばなし崩し的に安保条約が締結されたため、信号所の設置が先行して行われたのだ。
武田や織田の領国においても、信号所の設置を先行させている。
全方面と緊密な連携が必要だった為、純正は総司令部を京都においた。しかし、それで本当に良かったのだろうか?
能登の七尾の方が良くはなかったか?
それとも越中に自ら赴いた方が良かったのではないか?
すぐにどうこうできる事ではないのに、情報の遅さにイライラしていた。
「道雪が全軍を率いて越中に向かったのはわかった。全軍そろって軍議の後であろう。然れど第四艦隊が戻ってきておらぬのは、何故じゃ?」
純正の問いに直茂が答える。
「弥生の月(三月)に畠山と盟約を結んだ後、謙信との
「つまり?」
「何者か、おそらくは上杉の船手による、なんらかの妨げに会うたのではないかと考えまする」
「船手(水軍)か……。加雲には会敵したら
加えて、と純正は続けた。
「道雪殿は南下したとの事だが、七尾に兵はいかほど残っておるのか? 修理大夫殿(畠山義慶)が道雪殿に与して越中へ向かったのであれば、少ないはずだ。家老の方々にも用心召されよと伝えておくように」
「はは」
情報省大臣の藤原千方が返事のみで答える。
「それから、一揆が加賀にまで及ぶとは如何なる事だ? 一揆勢が加賀まで広がるのはおかしいであろう? いざこざから始まったなら、加賀に広がるはずはない。何を言いたいのだ?」
「は、なにぶん通信にて、短く打ち任せて(簡単に)を旨といたしますれば……」
「ああ、それはもう良い。(携帯、いやせめて電話、いやいや電信でもいいや。なんとかならんかな……)」
「殿、いま何と?」
「いや、何でもない。お主はいかに思う?」
「は、これをそのまま釈(解釈)すれば、鎮め抑えるための勢が加賀まで及んだ、と見るのが然るべしかと存じます」
「鎮圧軍が、加賀まで? ……それは兵部卿殿(信長)もご存じ、許しているのか? 加賀に攻め入っていることになるのだぞ?」
「そ(それ)は、それがしには分かりかねます。
「あるいは、なんじゃ?」
「……」
「なんじゃ? 申せ!」
「申し
「ばかな! 左様な事があろうはずもない!」
「御屋形様、お気を鎮めてくだされ」
同席していた黒田官兵衛や宇喜多直家が間に入った。
「御屋形様、今一度お考えくだされ。われらは何故、なにゆえ上杉と争うのでしょうか?」
「何を今さら。越中の
官兵衛の問いに純正が答える。
「静謐? むろん大義は然うでありますが、第一は織田を抑え、上杉を抑える事ではございませぬか?」
官兵衛の答えは、何度も純正と家臣団との間で交わされてきた議論である。
織田・武田・上杉・北条等の諸大名がこれ以上力をつける事なく、かつ小佐々の国力をあげて二番手・三番手との差を広げる事。
それこそが、今後の国家戦略の大綱なのである。それは純正も納得している。
「すまぬ。然うであったな。兵部卿殿とて戦国に生きる大名である。次は加賀を取り、上杉との一戦を考えて北に目を向けるのが道理であろうな」
「然に候。然りながら、このまま争いが大きくなれば、織田と加賀の、ひいては越中の一向宗門徒との争いにつながりまする」
「うむ、そうなっては謙信につけいる隙を与えてしまうの。避けねばならぬ。よし、兵部卿殿には先だって文を出しておるが、もう一筆書こう」
「それがよろしいかと存じます」
直家の提言に純正が答えたのを受け、直茂がまとめる。
「そして今ひとつ」
「なんじゃ、まだあるのか?」
「は、御屋形様が、まずそれはないであろうと考える事にござる」
「?」
「そこに敵は付け入りまする。例えば、然うですな。此度(こたび)のような一揆であれば、民は飢え、朝夕事(日々の生活)にも困りて一揆を起こすのです。幸いにして小佐々家中の領国においてはございませぬ。然れど……」
「なんじゃ?」
「人の欲とは際限なきものにて……衣食足りて礼節を知る。然れど同時に、衣食が足りれば、色や遊興にふけるものが出てくるのもまた、
「新たな
「左様にございます」
「うむ、あい分かった。心にとめておくとしよう。次は第二師団であるが……」
「わずか一日、いや一度の打ち合い(戦闘)にて三百から千ほどの失とは……いささか」
清良や庄兵衛、弥三郎がざわついている。
「これは、予想はしておったが、兵の失も然る事ながら、恐らくは休む間もなく掛かって(攻撃して)おるのであろう。士気の低下が気になるな」
「は、せめて兵糧や矢弾の他、タバコや甘味などの荷駄を増やしてはいかがでしょうか?」
「うむ、賢光も覚悟はしておったであろうが、信濃路でも同じような事が考えられるな。銭はかかっても構わぬから、織田と武田の領内で調達できるのものは調達し、送るといたそう」
「左衛門大夫様(直茂)、その……あのように御屋形様に仰せで、あの……発言の責を問われる事は考えぬのですか?」
清良と弥三郎、三人が直茂に聞いた。
「庄兵衛、良く聞きなさい」
直茂は笑みをたたえ、諭すように答える。
「御屋形様が、わしが
■能登 七尾城
「見よ! なんじゃあれは!」
戸口湊と沖合の能登島の間に百を超える軍船が現われたのだ。
七尾城にてその報せを受けた長続連、遊佐続光、温井景隆は、眼下に見える光景にあ然とした。
■陸奥 会津郡 黒川城
「物見の知らせによれば、揚北衆も引き連れ、謙信はほとんどの兵を越中へ向かわせておるそうではないか。わしは腹を決めたぞ。われらの所領には海がない。北海の幸を得る千載一遇の機会となろう」
「は、南の宇都宮も動けぬとの事。今をおいて他にはございますまい」
■出羽 置賜郡 米沢城
「殿、大宝寺殿とは、最上に睨みを利かすことで、岩船郡の笹川より北で如何かと働きかけましたら、色よい返事が貰えましてございます」
「うむ、まだ見ぬ地であるが、北海を有す地を得る事の利は大きい。最上が抑えられれば、なんの恐れもなく越後へ向かえるわ」
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