第270話 台湾成敗と島津戦略会議(陸軍編)
永禄十一年 十月二十五日 小佐々城
対島津戦略と台湾成敗を含めた南方戦略を考えるために、閣僚級会議を行った。まず概略の方針を定め、それにそって細則を決める必要があるのだ。今回は大臣だけで無く次官やその補佐も参加させた。より幅広い意見を聞くためだ。
「それではみな、今回の議題だが、前回の会議で決まった台湾成敗と、今後北上してくるであろう島津に対する戦略を考えるためである」
全員がうなずく。
「まずは陸軍、何かあるか」
「は、まずは兵力と編成において提案がございます」
陸軍大臣の深作次郎兵衛兼続が発言する。威厳のあるその風貌は、しばしば周りのものを緊張させる。
「申せ」
「まず兵力ですが、現在は一個連隊千名として三個連隊を一個旅団として運用し、別で独立旅団として五千名を京都所司代にあてております。これは合計で二万一千名です」。
「これを一個連隊千二百名、五個連隊一個旅団を三つ編成、すなわち一個師団とし、三個師団九個旅団体制で進めたいと存じます。総数で、五万四千名です」
おおお、という感嘆の声とともにざわめきが起こる。
「現在の二倍以上ではありませんか。どこにそのような余剰戦力があるのですか」
発言したのは内務省の波多志摩守である。物腰はやわらかい。内政畑ではあるが以前は波多家の重臣だったのだ。軍事に疎い訳では無い。それを言えばここにいる大臣や次官クラスは、重臣だったものが多い。
「はい、それには国人衆の兵をあてまする。さきの戦でも二万三千の兵力となりました。士族もいれば百姓武士もいたでしょう。その中で常備の兵として使えるものを選ぶのです。また、大友も傘下に加わりました」
「あわせれば五万四千には届くかと。さらにそれにより国人の兵を減らし、中央の兵を増やせます」
なるほど、という声が上がるとともに、
「しかし、それで国衆が納得しましょうや?」
と発言したのは佐志方庄兵衛だ。
「それは、納得してもらわなければなりませぬ。いつまでも知行地や自らが持つ兵にしばられておっては、強い軍はできませぬ。そもそも、我ら小佐々家中はひとつなのです。中央軍があるのに、なぜ大規模な兵力を国衆が必要とするのですか」
なるほど確かにそうだ、と純正は言った。
「今まで俺は、どうやって国衆を納得させて知行地を減らし、直轄地を増やしていこうかと考えていた。しかし遅々として進まない。逆だったのだ」。
「土地は自らの財産でもあるが、一族郎党を食わせ、家臣はそのまた家臣を食わせるために必要であった。しかしその家臣である士族や百姓武士を、我らが常備の兵として抱えれば、食わせるための土地は必要なくなる」
「そうすれば国人も自分たちの土地だけ、もしくは俸祿で仕えるようになる。よし、それでいこう」
土地を知行として与える代わりに俸祿として銭を与える、それが小佐々のやり方であった。しかし肥前でこそなんとか成立していたものの、服属してきた国人衆の知行に関しては、土地に対する帰属意識が強く、なかなか浸透していなかった。
そこでこの徴兵志願制を導入する事で、強制的に変えていく事が決定した。今までの国人は徐々に変えていくとして、これから服属してくる国人は全てこの方式でいくのだ。それから正確な統一基準のある検地も必要だ。
「それで、現在の五個軍団はどうするのだ?」
純正が治郎兵衛に聞いた。
「はい、まずはいったん統合し、その後三つに分割し、それぞれを一個師団とします。京の兵も同様です。そこに国衆の兵、士族を三等分、百姓武士を三等分、志願兵を三等分いたします」
「兵種に関しても騎兵と砲兵は専門技術が必要ですので、三等分して差異がないようにいたします。従来の兵制でも鉄砲の数が足りなかったため、完全な三兵制度ではありませんでした」
「銃歩兵以外は槍兵として帯刀しておりましたが、鉄砲と銃剣術は訓練が必要なため、歩兵全員に調練を施すようにいたします。すなわち現在の銃歩兵はそのままですが、槍兵と通常の兵に関しては鉄砲と銃剣の調練をさせる、という事です」
次郎兵衛はこうなる事を見越して、構想を練っていたようだ。会議に参加したメンバーから随時質問がなされるが、その全てに的確に答え問題点を解消していく。
「そして最後に、京都の旅団は千名増員するとして、離れているゆえ独立旅団としてそのまま運用します。門司に一個師団、そして阿蘇の堅志田城に一個師団、最後に日向路の朝日嶽城に一個師団配備いたします」
「これにて肥後路と日向路から島津に対抗可能です。また、当面門司の師団は戦闘が予想されません。そのため京都の一個旅団と台湾成敗の一個旅団を、門司の師団配属といたします。戦況をみて、旅団は各師団間で編成変えがなされるものとします」
よし、みな何かあるか? と純正が全員を見回す。質問、異論はないようだ。
「大蔵省、銭は問題ないか?」
金は天下の周り物。最後は必ず考えなければならない、金の問題である。
「問題ありませぬ。次郎兵衛殿がおっしゃった通り、国人衆からの追加の兵は、知行地を直轄地に変更すれば、そのまま米高が上がりますので、新たに算用を組む必要はありませぬ。よって十分に可能かと。鉄砲と大砲の算用は増えまするが、新たに領地も増えましたので、年貢も公事も増えまする」
支出が増えても税収が増えるとなれば誰も文句はない。陸軍の戦略会議は問題なく終わった。必要があれば随時追加で会議をするとして、次は海軍である。
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