第237話 出陣 宗義調

九月五日 戌三つ刻(2000) 金石城 宗義調


小佐々殿から文が参った。

『益々秋深き候、讃岐守殿の健勇、常々仰がんと存じます。


遠慮なく申し上げます、我が配下宗像氏貞が、※戸次道雪、※臼杵鑑速の二者に対し窮地に立たされております。彼らは筑前の岳山城を討とうとし、我が手に余る事態となっております。


是非とも讃岐守殿の力を借りたく、援軍の派遣を切に願います。我々が共に手を取れば、道雪、鑑速の軍勢を必ずや退けましょう。また、我が海軍も出陣しますゆえ、壱岐の郷ノ浦にて合流いたしましょう。


何卒、我が願いを聞き届けたくお願い申し上げます。一層の盟友としての友情を深め、共に繁栄を享受いたしましょう。敬具』。


ふふふ。弾正大弼様にここまで言われて援軍を出さねば、武門の恥であるな。


「壱岐六人衆にはこのまま陣触れをだせ!われらも急ぎ支度をいたし、郷ノ浦へ急ぐといたそう」。


正直に言えばわれら宗家には、いつ服属の命が来てもおかしくない状況であった。対馬と壱岐を領しているとは言え高はそれほどない。米が取れぬゆえ海産物と朝鮮との交易にて算出する他ない。そう考えると十万石がいいところだ。


しかも朝鮮との交易に影響が出れば、それが即国運を左右する弱小国。それにも関わらず、弾正大弼様は服属せよとは言って来ぬ。なにか考えがあるのか、それとも・・・。


そう言えばわれら壱岐対馬と同じ様に、五島の宇久殿や武雄の後藤どのも同盟関係のままのようだ。いずれ、服属を迫られる事になるやもしれぬが、決して強要される事はないのではなかろうか。


そもそも盟とは対等なる立場にて、お互いが利を持って組むもの。今この時、われらに利はあっても弾正大弼様に利があるとは思えぬ。朝鮮との交渉ですら、われらを服属させてやらせればいいのだ。


こう言えば売国奴と思われそうだが、普通はそうであろう。やはりなにか、常人では図り知れぬお方なのであろうか。ともかく陣触れを出して、壱岐行の船を日の出に出したとて着くのは申一つ刻(1500)。


それからの陣触れであれば、翌日の午三つ刻(1200)に終わればいいであろう。対馬の衆も明日昼前に出立できれば、風が良ければ日没までには郷ノ浦に着こう。


状況によっては北部の勝本の浦、もしくは付近の大島の漁港や神田浦、小崎浦にて停泊すれば良い。二海里(1.852km)もない。


弾正大弼様より早く郷ノ浦へ着けばよいが、ただ、着かなくてもわれらが急ぎ駆けつけた事がわかれば、お怒りになることもないであろう。

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