第182話 京都大出店と硬貨紙幣大流通作戦
永禄十一年 四月 小佐々城
先日の緊急戦略会議で出た不審者の件だが、女は豊後、数名の休暇から戻ってない者は薩摩出身とわかった。無駄だとは思うが、豊後の大友と薩摩の島津に質問状を送る。
女と数名の男が忍びとして草の者と接触し、実行を指示したのなら、見つかりにくいのもうなずける。しかし、豊後と薩摩、これをどう説明するか?まさか連合戦略?
ひとまず返事待ち。
「当方いっさい預かり知らず」
返事は目に見えているんだけどね。
さて、肥前と従属・同盟国で行っている撰銭令だが、順調だ。昨年の十一月に結んだ対馬鉱山の操業も上手くいっている。大串の鉱山はもちろん、毛利との貿易も順調で、その支払によって銀を手に入れている。
充分な金と銀があれば撰銭はもちろん、硬貨鋳造も紙幣発行も問題ない。あとは信用の問題だ。
京都に、出店する。
そばの値段を三文にして、おつりを五十円わたす。渡された相手はなんだかわからないから聞いてくる。その五十円と二文でそばが食べられる。なんだか得した気分だろう。それを全部の業種でやる。
味噌・醤油・塩、酒、反物、干物、甘味屋、あらゆる業種の店だ。そして同時に撰銭も行う。レートは同じ。石けんも売ろう。値段はもちろん、やり方や出店の有無は道喜や宗湛、宗室と相談する。
一文を百円として、五十円硬貨や十円硬貨、そして五円と一円もつくる。
いや、どうだろう?今の最低単位が一文だから、いきなり百分の一まで最低単位を引き下げるのもどうかと思う。
ひとまず撰銭を行い、硬貨は五十円までにしようかな。紙幣は十文がざっくり千円だから十文札にしょう。百文が一万円で百文札、そして一貫文札。これくらいでいいだろう。十万円札が出来た感覚だね。
紙幣と言うより、最初は小佐々のお店で使える金券みたいな感覚だろうな。しかし使える店が増えてくれば、それが価値を持ってこないかな?
もうなんだかね、輸送が大変なんですよ。重いしかさばるし。別に他の店の邪魔になる事はしない。ただ、お札と新しい硬貨、それから永楽銭以外の硬貨や破銭、私鋳銭が使えるお店。それだけの違い。
え?それでも客が集まるって?そこは文句言われてもね・・・。大名直営店の強みと言うか、ああ別に鐚銭持ってきてもいいんですよ。使い道に困っているだろうし、両替もできる。そしてゆくゆくは吸収合併する。敵対的買収じゃなく、友好的買収ね!
別に成功しなくても、ていうかこれに失敗ってあるんだろうか。品は良い物を適正価格で売って、鐚銭が集まらなくてもそれはそれ。ただの商売の利益になるだけだし、何の問題もない。
なんだろうな。キャッシュレスではないけど、ペイペイやクレジットカードの感覚。そのうち普通になるでしょう。
逆に商品や値段が同じでも、鐚銭が使えるとなると、家に眠ってた?銭を持って買い物する人は増えるはず。今で言うところの消費を増やして景気を上げる、的な政策だね。それを為政者ではない俺がやるだけの話。
これで割を食う人いるかな?いないはず。じゃあやらない理由はないよね。将来的な貨幣経済の基盤をつくる。ゆくゆくは、俺なしでは経済がまわらない様に・・・なるかな?そうなれば軍事力オンリーじゃなくてもいい気がする。
そのためには、なるべく南蛮や琉球への支払いには銀を使わずに、対価の商品で物々交換でいきたい。銀の世界レートと日本レートが相当ズレていたみたいだから、それも是正したい。
生糸を国内生産して、安定した品質の物を流通させれば、そもそも銀の支払いが必要な中国の絹糸や絹製品を買わなくて済む。そのために桑畑をつくり、蚕の繭から生糸をつくり絹織物を生産しようと試みてきた。
明の書籍に載っていた機織り機を、農商務省(当時殖産方)の曽根九郎次郎定政が研究して国産化に成功している。繭から生糸を紡ぐ方法も五年間試行錯誤して、繭をお湯で温めて、竹で作った箸でからめて糸を取り出し紡ぐ方法をみつけた。
糸車?六角形?八角形?のくるくる回るやつも製造中。
かなり根気のいる作業になるが、ひとつの繭から十町ほどの生糸がとれる。生糸そのままでも売れるし、絹に加工しても売れる。何事も継続は力なり、本当に頑張ってくれました。職人さんもありがとう。
砂糖に関しては特産で『肥前糖』(仮称)を販売して、売れ行きは上々だ。もっと販売数を増やして輸入しなくても済む様にすれば、金銀の流出を抑えられる。
金や銀が枯渇して困るのは江戸時代に入ってからなんだけど、レートが倍以上違って、馬鹿みたいに騙されている感じがしないでもない。だから全部ではないけど、少なくて済む様に。
さあ、早速実践的な計画に入ろう。
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