第178話 琉球をどうする?!

同年 四月 内城 島津貴久


南蛮船の誘致に失敗し、鉄砲火薬を手に入れるのが難しくなった。しかもここ数年火薬の値があがっている。鉄砲は作れるとしても、火薬がなければ始まらない。そのためには琉球とのつながりが必須なのだ。


だからわしは琉球の尚元王とも誼を通じ、交易を行ってきた。


「琉球が肥前の小佐々と通商条約を結んだと?それも自由通商だと?馬鹿な!」


琉球は我らへ使臣を派遣しているではないか。永禄二年(一五五九)春、尚元王は使節として天界寺登叔と世名城良仲を送ってきた。その三年前、弘治二年にも、使節として建善寺月泉を派遣してきたのだ。


そういう流れを経て、中断していた国交が正常化したばかりではないか。


これまでの琉球国内の事を考えれば、倭寇がのさばる東シナ海を渡り、尚元王を冊封する使節は数百人にのぼった。その歓待をするために、諸外国の商船を「那覇港に安全に停泊させなければならない」との理由で印判を求められたのだ。


琉球はそれ以外の船は取り合わない、従わない場合処分する、と。


安全を期するために厳重警備、そして身元確認が必要だったのだ。そういう理由で印判の有無で公式船か否かを確認していたのだ。


わが島津でさえ朱印状のない船は出入りできぬというに、小佐々が許されるとは。確かに小佐々の領国は三国守護の日向・薩摩・大隅には含まれぬ。しかしこれを黙認してしまえば、伊東や肝付をはじめとした国人衆が結束を強めかねんではないか。


それに安全面にしても、われらより小佐々を信用すると?

示しがつかぬ。


現に大隅の国人衆で伊東と誼を通じる者も多い。志布志湾西岸を治める肝付氏や禰寝氏、伊地知氏などと連携して、伊東氏は日向から大隅への海上に、勢力を拡大している。われらとしては、対外的に立場を認めてくれる琉球の存在は大きい。


だからこそ、琉球が認める三国守護は我々だけでなくてはならないのだ。日向の伊東は、われこそは三国守護にふさわしいと言っているそうではないか。現に油津や外浦にて琉球と貿易を行い利を得ておる。


これ以上やつらを増長させては、われらの三州支配に支障が出ようというもの。言語道断だ。しかし、いずれにしても琉球の意図をしっかり見極めなければ。ここにきて小佐々と、しかも印判もなしに自由交易する利はなんだ?


明の海禁政策が緩和され、自由に商人が海を渡って行き来できる様になった。


もちろん交易相手は多いに越した事はない。そして障害となる倭寇も、完全になくなったとは言わないが、明の嘉靖の大倭寇の時期にくらべれば弱まった。だから小佐々とだけ自由貿易をするのか?しかしそれでは理屈が通らん。


われらとて、南蛮と自由に交易ができれば、それに越した事はない。しかし国家として、われらの立場を認めてくれる琉球国王としての存在が必要なのだ。


われらが三州を統治するのに、やはり名分・格式は必要なのだ。


「琉球には正式に詰問、いやそれでは厳しいな。質問状として送ろう」


わしは文書に書く文言を考えた。

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