第149話 北肥後の五人

同年七月 小佐々城 小佐々純正


『永禄九年十一月より北肥後における外交報告書』


隈部城 隈部親永

 有能だが金に汚い 賄賂で登用も 清濁併せ呑む


菊池城 赤星統家

 武門の誉れ 信義にあつい 自尊心が高いゆえに間違いも犯す


隈本城 城親賢

 中道派 一番阿蘇・相良の影響受ける 悪く言えば風見鶏


内村城 内古閑鎮真

 とらえどころのない 合理主義 非情な面あり


筒ヶ岳城 小代実忠

 辛抱強い 民衆思い 質素倹約 質実剛健


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以上が報告書となります。


「なるほど。その方から見て、どうだ?誰が一番与し易いか?」

利三郎が豊後へ行っている間、資を呼んで尋ねた。


「されば、一番は隈部でござりましょう。知行もしくは銭をみせれば簡単かと。しかし、銭でなびいた者は、銭で転びまする。形勢不利とみるや相手に転ぶのも早うございます。」


「なるほど。逆に一番難しいのは誰だ?」


「はい。隈本城の城は煮え切らない御仁にて、最後の最後に有利な方についております。結果的に敵からも味方からも評価をえず、領地も増えも減りもしておりませぬ。」


「なるほど、ではそこは一番最後でよいな。」


「菊池城の赤星は武門の家柄を誇りに思っておりますゆえ、そこをくすぐればようございましょう。しっかりと大義名分を掲げ、『赤星殿のお力が必要です』と訴え続ければよろしいかと存じます。」


「ふむ。内古閑と小代はどうだ?」


「小代は、およそ戦国の武将とは思えぬほど、人のよいお方です。領民からの信頼も厚く、生活は質実剛健です。ここは領民の暮らし第一、そのためには小代様が強くなくてはなりません、と訴えましょう。もちろん物資の支援は惜しみませぬよう。」


「あいわかった。」


「内古閑に関しましては、利を第一に考えておりまます。隈部と違うのは、銭や物の蓄財だけではなく、家にとって、領民にとって、何が一番いいか。国益になるか?公の利のためには私の犠牲も時には止むなし、との考えにございます。」


「なるほど。では当初の目論見どおり、各勢力の楔となる内古閑を利をもって説得せよ。最終的には赤星から内古閑と小代の線を確立して、最後に城と隈部をおとす、これでいくとする。」


民の様子はどうだ?資に聞いた。


「はい。されば、筑前ほどではありませぬが、やはり物の値が上がっており、楽ではないかと。」


「なるほど。兵糧や銭の援助の申し出は来ておるのか?」


「はい。隈部は貰える物は貰おうと、銭も兵糧も要求しております。もっとも、いただけるなら有り難い、という程度です。赤星は『かたじけないが、貰うばかりでは道理に合わぬ。』と申しております。城は『なぜわれらがそのような事を?』と訝しがっており、内古閑は『援助はありがたい。ただし相互に利のあるものしか信じぬゆえ、そちらの要望も踏まえて約を交わそう。』と申しております。小代は『助かり申す。必ずこの恩は返します。』と喜んでおりました。」


「で、あるか。やはりそれぞれに考える事が違うな。」


「よし、では小代にはあくまで人として、道義的な理由で援助する、と伝えよ。そのかわり、われらが困った時はできる限りたのむ、と。」


「内古閑はそうだな、望み通り、たとえばわれらが入国するときの関銭を安くするとか、商いをするうえで融通を図ってくれと。書にしたためよう。」


「赤星は、まあ難しいところだ。たとえば万が一、百万が一、われらが大友と争う時は、大友に与しないか、われらに助力してくれ、でもいいな。あくまで、たとえば、だぞ。」


「隈部と城は状況にあわせてやるが良いであろう。海を隔てているとは言え、われらは隣国だ。まったく気にしていない事もなかろう。それに隈部は大友の息がかかっていようしな。」


あとの細かい事は利三郎と協議してつめてくれ、と俺は伝え資を下がらせた。


(いずれにしても北肥後は筑前の後だな。)

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