第194話 時 来たれり
九月 小佐々城 小佐々弾正大弼純正
「ほう。大友が動いたか」。
俺はニヤリとした。やはりこの機に動くか。さもありなん。ここで動かなければ毛利を九州から一掃できないであろうからな。
「皆を呼べ。会議を開く」。
小姓が重臣を呼びに行った。主要な閣僚と陸軍、海軍の上級指揮官、そして国衆の駐在武官がオブザーバーとして参加する会議が始まる。
「さて、大友が動いたわけだが、直茂よ、どれほどだと思うか」
戦略会議室長の直茂に聞く。
「は、されば今の大友の国力ですと、どう見積もっても二万が限度かと」。
「なるほど。二万か。ではその二万をどうする?」
治郎兵衛に聞く。
「ではまず、豊前松山城を落としにかかるでしょう。長年争ってきた地でございますから、まず間違いないかと。そうして落とした後に門司、その勢いをもって小倉を落としに行くのではないかと考えます」。
「それがしも同じにございます。おそらくは半数の一万はかけるかと」。
と庄兵衛。
「残りの一万はなんとする?」
「は、さらに半数、もしくは三つにわけ、長野城、香春岳城、城井谷城の抑えとするのではないかと考えまする」。
「なるほど。では主力の一隊と別働隊二ないし三の多方面で侵攻してくるだろう、との見解か?」
皆を見回す。どうやら、みな同じ考えのようだ。
「お待ちを」。
待ったをかけたのは海軍第三艦隊司令の長崎純景だ。常任ではないが非常任で会議に参加している。
「どうした?異論でもあるのか?」
珍しく発言したので皆が驚いている。
「異論ではありませんが、補足を」。
「申せ」。
「は、さればこたびは大友にとっても、大戦にて負けられない戦いにございます。ですから、大友単独にて動くとは考えにくいのではないでしょうか」。
「どういう事だ?」
俺は聞き返した。
「はい、大友はわれらがすぐには参戦しないと考えているでしょう。しかし麻生・杉より救援要請があれば、介入すると考えているのではないでしょうか。であれば、当然大友単独での戦は難しい。そこで、例えば北肥後の国衆や阿蘇を使ってくるのではないでしょうか?」
「北肥後・・・ならば小代や内古閑を攻める、と?」
「はい。充分可能性はあるかと」。
「しかし小代に内古閑はわれらの味方ぞ。明らかに宣戦布告ではないか」。
「はい。ただ隈部などが勝手に攻めた、のであれば大友に傷はつきますまい。勝てば官軍と申します。負ければ切り捨て、勝てば適当に扱う、その恐れがあるのでは、と考えまする」。
「ふむ。千方よ、その辺りの情報はあるか?」
「は、大きな動きはありませんが、豊後・肥後・筑後の国境にて人の動きが活発になっているのは確かにございます。明確な情報ではございませぬが、あり得ない話ではないかと」。
「あいわかった。ではそれも加味して考えよう」。
「まず第一軍、宗像殿、立花殿、原田殿、兵五千にて宗像殿の笠木山城にて待機。後詰めとして本軍三個大隊三千で北部筑前軍とする。大将は立花鑑載殿」。
「第二軍、秋月殿、高橋殿兵五千にて秋月殿の益富城にて待機。後詰めは三個大隊三千にて南部筑前軍とする。大将は高橋鑑種殿」。
「第三軍、筑後衆。蒲池殿、西牟田殿、星野殿、草野殿、兵四千にて後詰めの三個大隊とともに星野殿の妙見城で待機。豊後方面軍とする。大将は蒲池鑑盛殿」。
「第四軍、肥前衆。筑紫殿、神代殿、純家、兵七千にて後詰め三個大隊。筑後制圧軍とする。大将は筑紫惟門殿」。
「第五軍、治郎兵衛は、口之津に四個大隊を集結させ待機」。
「義太夫、海軍は第二・第三艦隊をもって全力で第五軍の輸送にかかれ。筑紫乃海すべての商船、漁船を徴用し最速で高瀬津の湊へ輸送できる様にしておけ。金は惜しむな」。
「豊前の杉殿、筑前の麻生殿より救援の願いがあるまでは、絶対に動いてはならぬぞ。敵の先手が攻撃を加えたとの報があれば即時攻撃に移れる様にしておけ」。
「救援要請の報あれば、第一軍は鞍手~田川口より香春岳城を攻めよ。第二軍は鞍手~田川口だ。第三軍は豊後に侵入して日田城を攻めよ。第四軍は筑後の大友方の城を落として制圧した後、状況にあわせて豊前侵攻軍もしくは豊後侵攻軍に合流せよ」。
「第五軍は筒ヶ岳城ならびに内村城の救援に向かえ。攻められているなら敵を殲滅し、そうでないなら城方と情報を共有せよ。そして敵が領内に入っているなら同じく殲滅するのだ。あっちこっちについては離れしている連中だ。お家のためとはいえ、ちょろちょろされてはかなわぬ。ただし、降伏は認めてやれ」。
「五条どの、黒木どの、三池どのは残って北肥後の国人に目を光らせていただきたい」。
「言うまでも無いが、これは第一目標だ。達成したならば各個に大将が判断し、戦闘を継続せよ。よいな」。
「皆、なにか質問はあるか?!」
「よいか!われらの命運はこの一戦にかかっておる。各員が一層奮励努力して、必ず勝つ。抜かるなよ!」
北部九州の覇者を決める戦いが始まった。
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