第104話 大友義鎮とコスメ・デ・トーレス
永禄八年 二月 豊後 府内館 大友義鎮
「なに?肥前の大村民部大輔の件を放置せよと?」
宣教師コスメ・デ・トーレスの言葉には少し驚いた。
「驚いたな。てっきり小佐々を討つ様に要請がくるかと思っておったが。」
「かの者はキリスト教徒ではありませんが、われわれの布教に寛容です。また、彼の地の民は皆温厚で、キリスト教徒に対する偏見も差別もありません。」
「なるほど、布教がし易い訳だな。この府内と比べてはどうだ?」
なんと答えるだろうか。
「ははは。豊後様の御領地以上に布教がしやすいところなどありませぬ。」
いつもいつもにこやかだ。本心なのか、偽りの仮面をかぶっておるのか。いずれにしても、この者があのフランシスコ・ザビエルの後任であれば、間違いのない事なのだろう。
「おだてるのがうまい。聖職者には見えぬな。ははは。それで、今日はそれだけか?そうではあるまい。」
「はい。実は肥前での布教についてなのですが・・・。佐賀の領主、龍造寺を豊後様のお力で何とかできませんでしょうか?」
龍造寺か。痛いところをついてきおるな。確かに頭の痛い存在ではあるが、おととし少弐政興を擁立した際も、有馬・大村に動いてもらったが負けおった。
なかなかに戦上手だ。さて、その龍造寺をどうしろというのだろう?
「なんとか、とは?」
「はい、領民のわれわれに対する態度が違うのです。有馬様が治めている南肥前や小佐々様が治めている西肥前は全く問題ありません。五島の領主は温厚で融和的です。松浦も小佐々様の勢力下にありますし、悪いと言っても大村領くらいです。それでもまだ、領主の大村様が入信されているので、今のところ、われわれの命にかかわる事はありません。ただ・・・。」
「龍造寺の領内ではそれがあるかもしれない、と?」
「はい。あの者、最初はキリスト教にも好意的で、布教の許可もすぐに取り付ける事ができました。」
「うむ。それで?」
「はい、これは領主の皆様全員同じだと思いますが、ポルトガルとの貿易目当てで言っている場合もあるのです。もちろん、それが悪いと言っている訳ではありません。それにより、われらも利益を得る事ができるのですから。」
なぜだ?少しだけ言葉にトゲがあるぞ。暗に入信してくれと言っているのか?今は領内をまとめるのが大事。領主自らがなってしまっては、争乱の火種になりかねん。
「うむ。」
「ただ、貿易船の寄港がすぐに決まらず、検討が必要だとわかると、態度が一変したのです。あれほどあからさまに豹変したご領主様も珍しい。そこで、六カ国の太守である豊後様に、何とかしていただけないかと。」
なるほど。クギを差して布教しやすい様にしてくれ、というのだな。確かにあやつは最近やりすぎておる。領土拡張の野心が見え過ぎじゃ。いずれにしても、何らかの方法で、あやつがこれ以上のさばらない様にしないとまずい。
さて、どうするか。有馬・大村は、難しいだろう。大村はもとより、有馬も往時の面影はない。領しているのも高来郡と藤津郡の一部のみだしな。
・・・そうだ。替わりに小佐々使ってみるか。
石高は少ないが、交易で財を成し、軍備を整えていると聞く。周りの領主も小佐々の勢力下にある者も多い。よし、小佐々に文を書いてみるか。
「あい分かった。なんとかしてみよう。」
「ありがとうございます。」
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