第47話 後藤家嫡男の誕生と暗雲

「殿、至急お知らせしたき儀がございます」


 なんだ? いい話か悪い話か?


「武雄後藤家、嫡男誕生の由にございます」


「なに?」

 

 俺は声に出してしまったが、何かを心の中でぐっと押しつぶした。それは感情を押し殺すとかではない。歴史通りに動いている確信を感じたからだ。


 今のところ、沢森の地名の謎と横瀬浦、小佐々氏の寄り子が相当儲けている以外は、歴史に大きな変動は、ない。……これからか。


 後藤惟明は松浦隆信の次男で、平戸が相神浦との間で優位に立つために、後藤氏に養子に送っている。確か一昨年、永禄三年(1560年)だ。


 しかし歴史を知っている俺は考える。来年、対龍造寺で戦があり、有馬・大村他連合軍が負けるのだ。


 相神浦松浦は平戸に対抗するため、後ろ盾として有馬氏の息子を養子にしていた。しかし有馬氏の勢いが衰えると、援軍もなく平戸に対抗できなくなり、降伏してしまう。


 これは神代勝利に頑張ってもらって、龍造寺を抑えるしかない。


 それから、嫡男誕生で自分の身が危うくなる事、将来的には龍造寺の拡大とともに後藤氏が屈服、自らが追放される未来、そういう不安を煽って火の種をまいておくのだ。


 家中がぐちゃぐちゃなら、横瀬浦を襲う暴挙にはでないだろう。


 龍造寺が神代氏と対等の勢力のままなら、有馬連合軍の杵島郡侵攻も起こらないだろう。負ける事がなければ、相神浦に援軍を送る事もできる。


 ただ、最悪有馬が動けなくても、俺たちが加勢するけどね。五島灘、角力灘を制覇する野心がある平戸を、これ以上南下させる訳にはいかない。


 おそらく飯盛城を攻めるのなら、陸海同時作戦でいくだろうから、もしそういう事態が発生しても我ら海軍が平戸の水軍を抑える。母上の悲しむ顔を見たくはない。


 俺は、親父と母上がイチャコラしているのを見るのが好きなのだ。


 惟明は貴明に反旗を翻す。貴明は耐えられず、やむなく敵対していた龍造寺と和睦して助勢を乞う。これで結局惟明は負けて平戸に戻るのだが、後藤の龍造寺屈服が決定的になる。


「引き続き人をやって後藤家中を探らせよ。龍造寺が巨大化すれば居場所がなくなる。タダでさえ嫡男の誕生で立場が危ぶまれるのに、いっそう厳しくなる。そう焚きつけよ。必ず家中が割れる」。


「ははっ」

 

 と言って千方は気配を消した。

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