第2話 なぜかクラスカーストど底辺の女子生徒と高確率で遭遇する①

 私は北条翼。光玄坂学園高校の1年。

 もともと地方に棲んでいた私は高校生を気に上京して、この学園へとステップアップを果たした。

 私の性格はとにかく暗い……、と言うべきなのだろう。

 中学校時代からそうだったのだけれど、友だちを作るということ以前に人間関係という面において、私は苦手としているのである。

 あ、ちなみに根暗だとかそういうわけじゃない。

 自分は中学校時代からもどちらかというと、周囲からも可愛いと言われてきた。

 だからこそ、周りから色々と声を掛けられることが多かった。

 もちろん、告白されたことも何度かあった。

 とはいえ、自分が単に容姿の可愛さで、告白されているってことは分かっていたし、それを妬む子たちからのイジメも繰り返されてきた。

 正直、こんなに面倒なことに巻き込まれることを望まない。

 では、どうすればいいか。

 周囲との関係を自ら断てば、そんな面倒ごとに巻き込まれることもなくなる。

 中学校時代は大人しく、かつ根暗な感じに学年が上がるごとに変わっていった。

 ついには、どうすればスクールカーストの底辺になれるのか、とばかり考えるようになり、勉強だけはするけれど、周囲と遊んだりするということだけは断っていた。

 だから、高校にステップアップを果たしたからと言って、そこの部分が大きく変わることはなかった。

 とはいえ、さすがに朝のアレはやばかった……。

 まさか、お隣りさんがクラスメイトだったとは知らなかった。

 いつも通り、6時に目を覚まし、軽くシャワーを浴びた後に、お弁当を作るとその残りものと焼いたパン、昨日夕食ついでに作って冷蔵庫保存してあったサラダでサクッと朝食を取る。

 少し甘めのカフェオレが私の身体にしみわたり、細胞の眠りを覚ましてくれる。

 低血圧な私は早めに起きないとこうやって体を動かすことができない。

 朝食を取り終えると、食器をシンクで洗う。

 と、カレンダーに目が留まる。


「あ、今日って火曜日か!」


 そう。今日は燃えるゴミの日!

 私は慌てるようにシンクの生ごみを集めて、燃えるゴミの袋に放り込み、封をする。

 入学と当時にこのマンションに移り住んだわけだが、どうも、このマンション、ゴミの収集時間が早いように感じる。

 サラリーマンに合わせているの?

 それとも、ゴミ収集所から近い?

 理由は知らないが、行政のご都合で早めに出さないと、ゴミだけが取り残されてしまうのである。

 私は着の身着のまま、ドアを開ける。

 太陽を見ると、再び寝させてくれと細胞が言ってきそうになる。

 私は「ふわわ……」とあくびをする。 

 別に知り合いに会うわけじゃないからどうでもいいや。

 いつも、そんな感じだ。それがルーティンだったから。

 それがどうして、今日に限って、あんなことに——————。


「お、おはようございます!」


 私は挨拶のされた方に目をやる。

 と、そこには同じ学園で同じクラスメイトの藤原くんがいるではないか!?

 私は一瞬にして、頭が真っ白になりかける。

 ちょ、ちょっと待って!? どうして、彼がこんなところにいるの?

 え? 彼もゴミ出し?

 てか、ドアが開いているってことは、そこの部屋の住民ってこと!?

 どんどん与えられる情報が、ピースとなってパズルを無理やり埋めていこうとする。

 正直、どうすればいいのか分からない……。

 ここではどうするのが正解なの?


「お、おはよぉ………」


 私の答えは単純明快だった。

 軽く挨拶を返すと、そのまま小走りをして、エレベーターに乗り込んで、「閉」ボタンを連打した。

 ごめんなさい。

 さすがにこの姿を見せるわけにはいかないです。

 だって、この素の姿は、学校でもひた隠しているのだから。

 とはいえ、今の格好をエレベーターの鏡で見返してみる。

 朝のシャワーで少ししっとりと濡れた黒髪にダボッと来たパーカー……。

 黒髪はありがたいことに顔を覆っているようになっている。


「あれ? そう言えば、藤原くん、私のことに気づいていたって反応じゃなかった……」


 再び、重要なピースがパズルをくみ上げ始める。

 私のことに気づいていないのであれば、そのまま流すことも可能だ。

 できれば、このまま何事もなく終わるのが、大人しく高校生活を送る私にとっては好都合な選択肢なのだ。

 よし! そうしよう。

 エレベーターを降りると、ゴミステーションまで行き、金網付きの重い扉を開き、他の物同様にゴミを並べておく。

 部屋に戻って急ぎ様、通学の準備をしようと振り返ると、そこには息を切らした彼がいた。

 うわぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!?!?!?

 思わず声を上げてしまいそうになる。

 口から飛び出しそうになった心臓を何とかもとに戻すことで必死になった。

 でも、髪で顔はほとんど隠れているので、バレることはなさそうだ。

 とはいえ、この息の切らし方から言うと、私がエレベーターで先に降りてしまった所為で、彼は階段で降りることを余儀なくされたのだろう。

 さすがに5階からの階段ダッシュは、身体にも来るものがあると思う。


「ご、ごめんなさい!」


 私は大きく頭を下げると、そのまま部屋に戻ることにした。

 エレベーターで一足先に駆け上がり、ドアを閉める。

 念のために施錠も怠らない。

 もしも……、もしも、彼が強硬手段に出た場合のことを考えると最善策としては、施錠も必要だった。

 私は久々に走ったこともあって、息を切らしながら、玄関にうずくまる。

 彼もきっとこんな感じで息を切らしていたのだろうか………。

 私は罪悪感のなかで、小さく反省をしたのであった。

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