スプーン

スプーンは

水たまりを作る道具なのだと

勘違いしていたころ

スープをテーブルの上にたくさんこぼして

よく叱られていた


机の上にできた水たまりは

意図できない丸みに落ち着き

ただなめらかに

天井を映していて

そこを覗き込むと

反転したこの部屋の

とてつもない静寂が出口なのだと

信仰してしまいそうになる


生涯見ることのできない地形が

耳の中にはあって

外からやってきた音は

みんなそこを滑るから

体の中は

思ってもみなかった響き方でいっぱい

僕はそれを観測する

機能の止め方を知らないから

積まれていく輪唱を

すべて読み上げてしまって

体の中は

あまりにうるさい

だからスプーンで

水たまりを体に移して

はやく溺れて欲しかった

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