違法建築

エレベーターより観覧車で移動したい

そんな日に限って

視線に引っ掛かる違法建築

肌のあまいにおいが

綿菓子のように細い線を吐いて

ゴンドラに絡みつく


私はそこに乗り込み

表札の位置を考えながら

ゆったりと動く影の

規則が崩れるのを見ている


それを縫い合わせる

作業員たちの

手先の軽さを見ている


彼らの小さな爪先によって

灰色は押し出され

散りやすくなった色彩はまとまる

思考と体

同じ高さで機能するように

内職は続く


ちょうど私の頭上の骨組みを這う彼は

誇りを持って言う

「ゆくゆくはこの場所の

脊髄の形に

沿うように育て上げたいの」


彼らの営みを捕らえる器官は

トラス構造だけではなく

体の奥か

あるいはもっと重層的に

私に覆い被さっていること

トーストを焼いて

もしくは雨からぬるさを盗んで

その日限りの

私の範囲を建設すること

大変繊細で

狭隘な作業だ


ゴンドラがくるりと円を描いて

地上に戻るまでの間

彼らを見習い

私は素早く

今日限りの所有権を

ひっそりと伸ばしているのです

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