第18話
病院を出た後、私たちはすぐに暦の働いていた美容院に駆け込んで店長から家の場所を“教えて”もらった。閉店ギリギリだったからもし着くのが数分遅れていたら今日中に決着をつけることは出来なかったかもしれない。
暦の部屋であの痛ましい日記を読み終えて、この埠頭に辿り着いた。初めはなぜ彼女がこの場所を選んだのか分からなかった。けれど静かに海を眺める彼女の姿を見て確信した
この人はただここに来たかっただけなのだ。私達のことなど然程考えていなかったのだろう。
「…こんばんは、暦」
「こんばんは、ゆーちゃん」
呼びかけると暦は振り返り本当に嬉しそうに微笑んだ。艶やかな黒い髪には少しの乱れもなく、表情には少しの虚飾も見てとれない。五人もの人間を死に追いやった殺人鬼にはとても見えなかった。
「ここに来れたってことは…えへへ。日記読んじゃったんですね。いけない子たちだなあ。まあ読んでほしかったから置いたんですけれど」
クスクスと笑う。あんなに酷いことが書いてあったというのに、まるで気にしていないようだった。
「二人も私みたいに不思議な力が使えるんですね、仲間が出来て嬉しいです」
「…どうしてなの?」
「なにがです?」
まるで分からないといったように目を丸くする。その仕草に憤りを覚えた。あれだけのことをしたというのに。
「…なんで人を殺したかって聞いてるの!」
「うわっ。急に声を荒げないでくださいよ。びっくりしちゃうじゃないですか」
ビクリと体を震わせる。演技でやってるのか、それとも本音なのか、判別がつかなかった。
「うーん。教えてあげてもいいんですけれど…それだけじゃあつまらないしなあ…」
悩ましげに首を傾げた。何秒も唸ってからようやく口を開く。遊んでいるつもりなのだろうか。
「じゃあまず、ゆーちゃん達が話してみて。なんで私が犯人って分かったのか。自白は推理の後って相場が決まってるんだから」
「…そんなこと」
「日記を見せてあげたんだから、それくらいいいでしょ」
少女のような無邪気さと大人の怪しさが同居したような振る舞い。その魅力にはなにか抗しえないものがあった。
「…映画館で怪物が現れた後、私達は色々調べたの、あちこち駆け回って。それで二つのことが分かった。アナタの怪物はアナタが傷をつけた相手しか殺せないこと。アナタが初めて殺したのは相川さんじゃなくて神田さんだったっていうこと」
神田と口にした瞬間、暦の眉がピクリと撥ねた。
「…そこまで分かったんだ。大変でしたね?」
「…神田さんと藤田は自分たちが傷を負わされたことをちゃんと気づいていた。直接切りつけられたり、手紙に仕込まれた剃刀で怪我させられたりしたんだから」
藤田、その名前を口にしたとき神田さんの時とは比較にならない程顔を歪ませた。果てしない憎悪とその裏に恐怖を感じる。殺した今でもトラウマは拭えていないみたいだ。
その様子に舌を止めかけたが、今更踏みとどまるわけにはいかない。
「問題は私を含めた他の四人。私達は自分がいつ怪我したか気づいてなかった…。私たちに共通の知り合いなんていない。なら傷を負わせたのは赤の他人っていうことになる。けれど普通はそんな人間に切り傷を負わされるような隙は見せないし、第一そんなことがあったら忘れるはずない」
暦の顔を睨むと、彼女は少しバツの悪そうな顔をした。
「でも、美容師のアナタならそういう状況を簡単に作れるよね、暦」
『刃物を持った赤の他人に近寄らせるなんて信じられない』、確かそんなことを言った覚えがある。あれは半分冗談だったけれどこの事件においては核心を突く言葉だった。
「殺された人達は皆女で、若い人ばかり。アナタの働いているあの店の客層にドンピシャ。皆アナタに髪を切らせたんでしょう?その間に傷をつけた」
「待ってくれ唯。髪を切っている間に手の甲なんか切ったら普通気づくんじゃないのか?」
ずっと黙っていた翼が口を挟んだ。純粋に疑問に思っているのか、暦を犯人だと思いたくないのか、彼の表情には困惑の色が浮かんでいた。
「…普通なら気づくと思うよ、普通なら」
あの時のことを思い出す。シャンプーをかけられている間急に瞼が重くなった。心地よさからそうなったのだとあの時は思っていたが…
「…暦、アナタが私に飲ましたあのジュース。薬が入ってたんでしょ?」
口にしたとき果物らしからぬ独特の苦みを感じたことを覚えている。砕いた錠剤か粉薬が入っていたのだろう。他の人たちも私と同じようにまんまと彼女の盛った毒を呷っていたわけだ。
暦は何も喋らない。ただ黙ってこちらを見つめるだけ。肯定ということだろう。
「…それだけじゃない。傷の位置。他の人が手の甲だったのに私だけが首だったのは、私が手袋を外さなかったから。アナタが手袋を外すようしつこく言ってたのは傷をつけるためだったんでしょ?」
暦としては手の甲の方がやりやすかったはずだ。髪を切っている最中はクロスで腕が隠れているからバレずに傷をつけるのは容易い。首筋に傷を入れるときは内心焦っていただろう。
「…え?確かにどこを切ろうか迷ったけど…暑そうだなと思っただけで、そんなつもりはなかったんだよ…」
暦はパチパチと眼を瞬かせて、気弱そうな声を出した。この期に及んで白を切ることに怒りを覚えたがあることに気づき、一瞬で血の気が引いた。
生まれつき人の悪意や嘘は大方見抜ける。だというのに暦からはウソの気配を感じない。本気で言っているのだ。
この女が今まで何人もの人間に気づかれることなく傷をつけることが出来た理由が分かったような気がした。
美容師として客の体をある程度自由に出来たから、睡眠薬などの小細工を使ったから、それもあるが、本質的な理由ではない。
人を気遣う気持ちと危害を加えようという気持ちが同居している。そのどちらも嘘ではない。この矛盾した精神構造こそが女の武器だったのだ。
美容院を出た後、手の甲に傷がついていることに気が付いた人間も中にはいたのかもしれない。けれど私同様暦を疑うことはなかっただろう。彼女は自然体で人を傷つけられる才能の持ち主なのだ。
「ああ、そんな誤解で気づかれちゃうなんて、私運がないな…悲しいです」
「…ううん。アナタはもう一つミスを犯してたよ」
「え?」
「早乙女さんが襲われたあの日、アナタはこう言っていたよね?『黒くて大きな人影が一瞬見えた』って」
「…?」
やっぱり気づいていなかったみたいだ。ひょっとすると自分の怪物が他人に見えるかどうか本人も分かっていなかったのかもしれない。
「アナタは知らないだろうけど相川さんが殺された日の夜、大勢の人があの怪物を目にすることが出来たのは私の力が皆の心を繋げたから。あの夜に居合わせた人間以外で怪物を目にしたと言ったのはアナタ以外いなかった」
黒い怪物
「…それにあの時左手を庇ってたよね?翼のボールが当たった場所と同じ。怪物とアナタは痛みも共有してるんじゃないの?今だって…」
暦の腹部に指を指す。挨拶を交わす前から彼女はずっとお腹に手を当てていた。幻肢痛のような幻の痛みに苛まれているのだろう。
他にもおかしなことはあった。暦はあの夜コインパーキングで蹲っていたけれど、帰る時は歩きだった。車もないのになぜあんなところにいたのか、推測でしかないが放火魔が現場に戻るのと同じように自分の犯行を見届けたかったのではないだろうか。あそこのブロック塀を超えた直ぐ先で早乙女さんは襲われていた。
「…えへへ、全部バレちゃってますね。なにか…一つ、くらいネタバラしでもしようと思ったのに…これじゃあ話すことがないや」
言葉は途切れ途切れで、息も荒い。立っているのも辛いのか街灯にもたれかかった。だが、それはこっちも同じだ。左腕は使い物にならないし、頭だって何針も縫っている
「…なんで殺したのか、まだ聞いてないよ」
「…そう、でしたっけ?」
「ねえ、なんで?殺すならあの二人だけ殺せば良かった。…他の人がアナタに何をしたっていうの?」
どうやって人を殺したかは分かっている。でも、なんでこんなことをやったのかがまるで理解できない
藤田と神田の二人は彼女を貶め、辱めた。それは事実だ。殺意が湧いたってなにも不思議じゃない。
けれど、他の三人は一体なぜ殺されたのか全く分からない。深くは知らないけれど殺されるほど悪い人たちじゃなかったはずだ。それに
「…友達だって言ってくれたのに…ウソだったの…?」
おどおどしていて、不器用で、気が弱くて、だけどどこか明るくて、自分の仕事に誇りを持っていた彼女が好きだった。尊敬に近い感情すら抱いていたかもしれない。
「…嘘じゃないよ。私、今でもゆーちゃんのことが好きだもの。お人形さんみたいな綺麗な髪だし、初めて会った時から“気が合いそうだな”って思ったんだよ」
「だったら、なんで…こんなこと!?」
やはり彼女の言葉に嘘はなかった。それがますます私を混乱させる。
「…好きな人がいなくなっちゃったの」
「は?」
突拍子のない発言に思わず間抜けな声が漏れた。そんな様子は気にも留めず暦は話を続ける。
「いっぱい私に優しくしてくれて、私を傷つけるヤツらから守ってくれた。大好きな人だったのに、急に会ってくれなくなったの、喧嘩なんて一度もしてないのに…」
熱に浮かされた声だった。恋する少女のようにも、情欲に溺れた女のようにも聞こえる不思議な声が歌うように言葉を紡ぐ。
「…なに、言ってるんだ?」
「言われたんだ。『キミはいい人だから一緒にいちゃいけない』って…それで私考えたの。いっぱい考えたんですよ、それで分かっちゃったんです」
狂気に満ちた声は止まらない。溢れんばかりの歓喜を抑えるように自分の体を抱きしめている。
「いい人だから一緒にいちゃいけないなら悪い人になればいいんだって。だから一杯人を殺すことにしたんです、ほら簡単でしょ?」
隣を見やると彼は口を開けたまま言葉を失っていた。理解が出来ないのだろう。その様子を見て暦は心底不思議そうに首を傾げた。
「?なにかおかしなこと言いました?」
「…無茶苦茶だ。そんなことで戻ってくるわけなんて…騙されてるだ―」
「は?あの人のこと何も知らないくせに。私に嘘を吐いたことなんてただの一度もないの。ふざけたこと言わないでよ」
藤田の名前を出したときすら見せなかったほどの怒りを込めて翼を睨みつけた。睨まれているのは私じゃないのに肌を刺すような鋭い怒気が伝わってくる。
「…元に戻すためにはなにをやってもいいの?」
「当たり前です。大好きな人が振り向いてくれるならなんでもするよ、ゆーちゃんなら分かってくれるでしょ?」
「…」
否定は、出来なかった。翼の心が私から離れるのを恐れて記憶を消したことだってある。他の人間だって巻き込もうとしていた。私が彼に同じことを言われたとしたら、人殺しにだって手を染めてしまうかもしれない。
「…いつまで続けるの?」
「あの人が帰ってくるまで」
「…私も殺すの?」
「邪魔をしないなら見逃してあげたっていいですよ」
翼の顔に視線を向けると、彼と視線が合った。止めるべきとも、逃げるべきとも何も言わない。ただいつものように私をまっすぐ見つめるだけ。自分で決めろということか。
「ゆーちゃんには怪我させちゃったけど、私も翼君に同じくらい叩かれたわけだし、痛み分けで終わらせません?」
このままこの場を去って無事に過ごせたとしても、二人一緒に笑って過ごせるとは思えない。何より翼に他人を見捨ててまで助かろうとするところなんて見せたくなかった。
「…暦、やっぱりこんなこと見過ごせない」
暦は瞬き一つほどのほんの小しの間だけ悲しそうな顔をして、また笑顔に戻った。
「…じゃあ、どうするの?私を殺す?」
「…ううん。でも、人殺しはやめてもらう」
私の力なら暦を傷付けずにこの事件を終わらせられる。『傷をつけた相手に怪物を送り付けて殺すことが出来る』という記憶自体を消してしまうか、それか“人に傷をつける”という行為が出来ないようにするか、方法はいくらでも思い付く。
暦はもう五人もの人間を殺してしまったけれど、罪に問うことは出来ない。直接手を下したのは彼女自身じゃなくてあの怪物なのだから。
被害者の遺族や親しかった人達は彼女のことを知ったら裁くことを望むだろう。命で償え、と要求する人だっているかもしれない。
それでも私は殺したくなかった。暦だって穢される前は普通の、いや、それ以上に優しい人だったはずだ。あの日記にも誰かを憎むようなことは一言も書いていなかった。あんなことをされたというのに加害者たちにすら恨み言を言わず、自分のせいだと言い続けていたのだ。たとえ今は狂い果ててしまったとしても。
「…暦、お願いだから動かないで」
私の意図を察して翼がゆっくりと暦に歩み寄る。いくら怪物を出せると言っても、この距離なら翼の方が速い。事前に手を繋いで彼にも姿が見えるようにしてる。彼が押さえている間に触れればそれで全てに片が付く。
「それは、困るなあ」
暦はゆったりとした動きでなにかを自分の首筋に突き立てた。お茶でも淹れるかのように日常的でゆったりとした自然な動作。そのせいか私達も反応が遅れた。
「注射器…?」
街灯の僅かな光がそれを照らしていた。中には黒々とした墨のような液体が入っているのが見える。
「えへへ。これ、あの人が置いていったの。不思議な感じ。これを持ってるとなんだか安心する」
心臓の鼓動が早まる。内臓に氷を詰められたような怖気が走る。違法薬物かと一瞬思ったが、そうじゃない。見るだけで伝わってくるこの圧迫感、この世のものではないようにすら思える。
プルプルと震える手で注射器を血管に押し当てている。それが恐怖によるものではないことは熱に浮かされたような表情から読み取れた。
なにかまずい。あれを注射して何が起こるかは分からないが、きっとここにいる誰にとってもよくないことであるのは間違いない。
「翼…!早く取り上げ」
黒い怪物がいつの間にか目の前に現れていた。大槌のように鋏を降り上げている。地面に叩きつけられた瞬間コンクリートが砕け、その破片が高速ではじき出された。
破片が私の体を砕く直前、もの凄い力で引っ張られた。宙に浮いたような感覚がする。翼が私を抱えて飛び跳ねたと何拍も遅れて気づく。
ひとまず危機を乗り越えたけれど、まずい。距離を取られてしまった。あの攻撃は私を殺すためのものではなく、注射をする時間を稼ぐためのものだったのか。
「…っ!やめて!こよ」
制止の声も空しく、液体は暦の首に注がれた。あの黒い液体がどくどくと血管の中で脈を打っている光景を幻視する。
「――あ……グゥ!……ィ…ア゛ぃ、ッあ゛」
ガラス製の注射器が地面に落ちて砕け散る。暦が悶え苦悶の声を上げる。まるで体の中で別の生き物が暴れ回っているみたいにのたうち回っていた。
「暦!暦!しっかりして!」
そばに寄って、彼女の身体を押さえる。放っておいたら怪我しかねないほどの暴れようだ。
とてつもない力で腕を振り回していたから、翼の力を借りなくては止めることが出来なかった。何を投与したかは分からないが、ただならない様子だ。
一分も経たない内に、動きが止まった。電池が切れたように突然。
目を見開いて、口からは涎を垂らしている。身体のどの部分からも力と熱が抜けていた。これではまるで…
「…暦?」
身体を揺すっても何の反応もない。呼吸も止まっている。死んでいる、そうとしか思えない状態だった。
「…え、嘘でしょ」
悲しい、という感情よりも驚きの方が大きかった。こんなにあっけなく終わってしまうなんて。
身体が震える。恐ろしいまでに重たく、冷たい喪失感。人の死を間近で見るのはこれで二度目だけれど、全く慣れそうにない。ただ茫然とすることしか出来なかった。
「…唯、救急車を呼ぼう。もしかしたら、助かるかもしれない」
そうは思っていないことが口調から伝わってくる。けれど、私たちにそれ以外出来ることがないのも確かだった。
「…そうだね。翼」
立ち上がって翼と向き合う。暦が言う“あの人”というのが誰なのか、あの薬がなんだったのか、結局分からずじまいになってしまったが、これで終わったんだ。後のことはゆっくり休んでから考えよう。
「…」
もし、ほんの少しでも彼女に幸運があれば、あんな力に目覚めなかったら、もっと早く出会えたら、仲良くなれたかもしれなかったのに。
そんな有り得ないイフを想像して、振り返った。短い間だったけれど、私はこの人のことが好きだったのだ。せめて目くらいは閉じさせてあげないと。
「え?」
倒れていたはずの暦がどこにもいない。注射器の破片だけを残して消えてしまったと。
辺りを見渡している間にヒュンと鋭い音が聞こえた。それとほぼ同時に体が倒れ、何かが爆ぜたような轟音が埠頭に響き渡った。
「唯、大丈夫!?」
「なんとか!ありがとう!」
また助けられたみたいだ。翼が私の下敷きになっている。こんな状況なのに体が密着していることにドキドキしてしまった。
振り向くと私たちの真後ろにある倉庫の壁に大きな穴が空いていた。大砲でも撃ち込んだようなありさまだ。
「一体、何が…?」
疑問はすぐに解決させられた。矢のような速度で黒い髪の束が穴の方向に伸びていって、倉庫の中から何かを取り出す。それは、あの大きな鋏だった。
髪が戻っていく先を目で追うと、黒くて大きなあの人影が街灯の上に立っていた。
その姿は以前よりひと回り以上大きく、煙のように揺らいでいた輪郭もはっきりしていた。
顔の辺りを注視してみると、白い肌が覗き出ていた。見覚えのある小さな顎と細い首。
「…暦?」
怪物は何も答えず、高く跳びあがり夜の闇に消えていった。凄まじい跳躍力だ。足場にした街灯はその頭を圧し折られ、機能を失っていた。
存在感だけでなく、その力も増しているみたいだ。
一体どこに行くつもりだというのだろう。このまま姿を眩ますのか、それともまた誰かを殺すつもりなのか。
「…唯はここに残っていて、オレが止めに行く」
「え?」
「キミを抱えたまま追いつける自信がないし、骨が折れているんだから安静にしていないと」
「…でも、私達は一緒って…」
彼は曖昧な笑顔をしてすぐに顔を背けてしまった。公園で別れたときと同じだ。
「唯はもう十分頑張ったよ。謎を解いたのは全部キミなんだから。最後くらい花を持たせてくれ」
顔を背けたまま彼は私の頭に手を当てた。割れ物を触るような、撫でるとすら言えないような力加減。
「…ごめん」
地面を抉るような音とともに翼は姿を消してしまった。また、置いていかれたのだ。
さっきまでひっきりなしに続いていた轟音は消えて波の音だけが続いている。静けさは自分が舞台から下ろされたことをなによりも明確に伝えていた
「……… 〜〜〜〜!!!バカ!!嘘つき!!」
初めはいつものように寂しさと喪失感で胸が一杯になったが、最後には怒りの方が上回った。
謝ればなんでも許されると思っているのか、あの男は。前に約束を破った時もまったく反省してなかったし。
「く〜〜〜〜〜!!!」
こうなれば何がなんでも追いかけてやる。幸い暦がどの方向に行ったかは感覚で分かる。それを辿れば彼女を追いかけている翼も捕まえることが出来るはずだ。
「よし!すぐに……」
そこで気づいた。いくら位置がわかると言っても、私の足では何年かけても追いつけない。車はおろか自転車すら持っていないし。
「…どうしよう」
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