第15話
ある日ふと、そこへらへんに生えている樹から樹液とかとれないかなーと思いつき、行動範囲内にあったいくつかの樹に石で傷をつけてみた……
というのも、以前からホトケノザもどき以外の嗜好品を考えていたんだけど……木の実はなっているのをみたことないし……
最近はちょっと贅沢になってきたのか花の蜜では前ほどは感動しなくなってしまった。
端から見たら……ちびっこが樹に傷つけて遊んでいるように見えてしまうが、わたしは結構真剣である!
本当は穴あけてストローみたいなのをさしておくんだっけ?あれ?それはメープルシロップか?
「まぁ、季節とかもあった気がするけど……」
カブトムシとかが集まるやつ……あれが樹液のはずだ!
どうか、樹を傷付けただけで、時期とか関係なく安全で美味しいのができますように!
◇ ◇ ◇
ポーション草チェックのついでに傷をつけた樹の樹液チェックもしていくと……プーンと独特な匂いが漂ってきた。
何の匂いだろ?
「どこから匂うのかなー……あ、あった!」
くんくんと匂いをたどっていくと……匂いはすぐそこの樹から漂っていることがわかった。
例の精霊様の鐘がある塔のすぐ側にあるひときわ大きな樹だ。どこか神秘的な雰囲気があって、最初は傷つけるのをためらったんだけど、なんとなく大丈夫な気がして心のなかで謝りつつ、傷をつけたのだ。
ちなみに、隷属の魔方陣だが……おばばさまは少し色が変わってきたように見えるけど、他のみんなはあまり変化がない。やっぱり、鮮明に想像できるかどうかが大きな差に思える。
「これ、この前傷つけたやつだ……」
ぐるっと樹のまわりを1周してみると……ひとつだけ樹液っぽいものを発見した。匂いはここからだと思う。
樹液はキラキラと輝いて、まるで私を食べてくださいと言っているようではないか!(言ってません)
早速、指ですくってなめてみる……え?毒?そんなのないって信じてる!あーん。
「うっま!!!」
うわ、甘いし美味しい!
これ、絶対ハワード好きなやつ!
でもなぁ……どうなんだろ?
またわたしだけ平気でみんなには毒とかいうことないかな?
これ、独り占めしちゃおうかな……ゾクゾクッ!
「な、なんだ!今の寒気はっ!?」
やっぱり、毒だった?わたしにもヤバいやつだったのか……あぁ、クラクラして……
「ん?全然平気だな?」
じゃあ、もうひとすく……ゾクゾクッ!背後からものすごい寒気が……
パッと振り返ると
「うぎゃぁあ!……ってハワード?」
え、えぇ!さっきの寒気はハワードのせい?いやいや、まさかそんな……部屋から甘味の気配を読み取ったとでも?
「って!こらー!わたしの指をなめないの!ってか、毒かどうかのチェックまだなんだからね!」
「……」
そんな、恨めしそうに見ない……
「え?恨めしそうに見てる!こっち見てる!!」
ハワードと目があってる!!
「みんなに報告しないとっ!」
「……」
ハワードは樹の方をじっと見つめている……樹液はさっきのひとすくいが最後だ。ちょびっとしかなかったのだ……決して最初のひとすくいをたっぷりとったとかそういうわけではないのだよ!
「ハワード、それ何日かしないと甘いのでないから……今日はもどろう」
もしかしたら、明日には少しくらい出てくるかもしれないけど、数日あれば具合が悪くなるものかもわかるはず……もし、食べても大丈夫と判明したときのために樹にいくつか傷をつけておく。
そして、ハワードの手を引いて部屋まで戻った。
「おや、一緒に帰ってきたね」
「うん」
「ハワードが突然走って出ていくから驚いたぜ!」
「ええ、走っていくハワードは初めて見たわ」
「そうだね」
え……まじで甘味の気配を読み取ったの!?しかも、全力ダッシュだと……
「それがね……樹から甘いのとれないかとおもってためしてたらハワードがうしろにいたの!」
「木から甘いの……」
「なんだそれ?」
「……それも精霊のお導きかい?」
「うん。樹にきずをつけておくと甘くてトロッとした汁がでてくるんだって!でも、樹のしゅるいにもよるみたい」
「す、すごいです!」
「でも、あれって食べてもだいじょうぶなやつかな?おばばさま、グウェンさんは甘い汁のこときいたことある?」
毒か毒じゃないか……それが重要だ。毒ならわたしが独り占め……ゾクゾクッ!……はできずに諦めることになりそう。
「俺は木から甘い汁がでるなんて聞いたことねぇな」
「残念だけど、私もないよ」
「心配なら、また俺が試してみようか?」
「いやぁ……それが、ハワードがなめちゃったんだよね」
「前にも同じようなことあったよな?」
「は、はい」
「あったわねぇ」
そうですね!あのときはホトケノザもどきの花の蜜でしたね!
「……様子見するしかないね」
「何ともなければいいのぉ」
みんなは心配そうにハワードを見ているが当の本人は素知らぬ顔だ。
「あ!そうだ!それよりもね!その時にハワードと目があったの!」
大事件だよね!
「「「えぇっ!」」」
「い、今まで、め、目があったことなんて……な、ないですよね?」
「「「「ない!」」」」
ハワードの大きな変化にみんなはなんだか嬉しそう。
「おい、ハワード!ちょっとこっち見てみろっ!」
「いや、こっちじゃハワード!」
「……はぁ。まずは調子が悪くならないか様子見するんじゃなかったのかい?ねえ、ハワード」
「そ、そうですよ!ね、ハワード」
「そうよ、ハワード。念のためこっちに来て横になりなさい……」
みんな、ものすごい期待してますけど……ハワード?
いや、もうわたしの指に残ってないから!ほ、ほら、他の誰かの方見たらどうかなー……
◇ ◇ ◇
ハワードは次の日から、樹液はまだかというようにわたしに視線を送るようになった。
みんなはそれだけで大喜びだ。ただ、わたしはじーっと見られて気まずい。まるで、わたしが樹液を独り占めするのを阻止しているかのようだ……
「ハワード、体調はどうだい?」
「今のところいつもどおりみたいよ……ね?ハワード」
「ということは、メリッサのいう甘い汁?に毒はねぇってことか?」
「どうだろうねぇ……」
とりあえず、ハワードの体調に変化がみられなかったこともあり、ひとまず毒はないかも?という結論に至った。
ただ、ひとすくい程度なら平気でも大量に食べたらダメとかはありそうなのでまだまだ注意が必要……ってか、ハワードがわたしみたいに毒に耐性あるとかだったらどうしよう……グウェンさんの腕の内側でパッチテストさせてもらおうかな?そのあとは多分、ハワードが樹液目当てに飛びつきそう……グウェンさんは喜ぶかもね?
ハワードの熱意……というか視線に負けて、その次の日には樹液の様子を見に行くことにした。
きっと、ハワードはついてくるだろう……だから
「ハワード!いまから甘い汁のかくにんにいくよ!いっしょにいくならごはんのうつわ持ってきて!」
「おい、メリッサ……」
「ど、どうするでしょうか」
「こればっかりはわからないのぉ」
樹液を採取するための器である。もちろん、わたしも用意してある。
でも……もしもハワードに自我があるなら……そう思って声をかけた。
みんなも固唾をのんで見守っている。
すると、ハワードはすくっと立ち上がり器を手にこちらへやってきた。
「なんてこと」
「……ハ、ハワード」
「そうかい、そうかい!」
「やったのぉ」
「ハワードお前、やるじゃねぇか!」
みんな……心なしか目が潤んでいる。なんだ、ハワードちゃんと聞いてるんじゃん!
「じゃ!いってきます!」
「……」
「「「「「いってらっしゃい!!」」」」」
・
・
・
「ハワード、みてー!甘いのでてるよ」
「……」
樹液は少しだが他の傷からも集めればみんなが舐めるくらいは取れるかも!
「ハワード、うつわ貸してー」
ハワードの器に樹液をいれてあげる。
「これはハワードがすきに食べていいよ!でも、他のところのはみんなにもちかえるからね!」
「……」
ハワードの視線はわたしの持つ器にくぎ付けだ。聞いているかわわらないけど、多分大丈夫だろう。
ハワードに器を渡すと早速、舐めて味わっているみたい。うらやましい……わたしも採取時に指についたのを舐める。あまー!うまー!
自分で持ってきた器に樹液を集めていく……みんなの味見分くらいは確保できそうだな。
でも、もう少したくさん取れるようになりたい……傷ってつけたらつけただけ樹液って出るのかな?でも、この前つけた傷からはしっかり出てるしなぁ……手の届くところはもう傷つけないほうがいいかな?
この樹はわたしとハワードが手を繋いでもまだまだ、届かないほど太い幹をしていて……樹齢数百年ですといわれたら納得する雰囲気を持っている。
多分、大人3人が手を繋いで届くかどうかってとこかな?
そこから考えればつけた傷はわずかだけど……
「あ、そうだ!ハワード!もっと上に傷つけてそこからも甘いのとれたらハワードせんようってのはどう?」
「……」
おお、器を舐めるのをやめて近づいてきた。
「ただし、今とれてるところのはみんなで食べるからね!」
石を渡し……
「そこの上!傷つけてみてー!」
身振り手振りで教えるとハワードが樹に傷をつけた。ハワード、やればできるじゃん!
「甘いのでるといいねぇ」
「……」
どうせ、今のわたしじゃ手のとどかない場所なんだ。1ヵ所くらいハワード専用にしてもいいだろう。
そういえば、樹についている葉っぱは食べたことなかったな……この大木は葉っぱに手が届かないし下にも落ちていないので諦めよう……今度他の樹の葉っぱ集めて食べてみようかな?美味しいのあるといいなぁ……
この樹がほかにもあればいいのに……そうすればもっとたくさん手に入れられるのになぁ……
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