第14話


 みんなにお祈りのことを伝えて数日……試してくれてはいるものの、まだ魔方陣への効果は出てきていない。

 ただ、わたしと同じように倦怠感があるようなないような不思議な感覚はあるらしい……それでも以前より疲労感は軽減されて喜んでいる。

 もしかしたら、鮮明に思い浮かべるってことが意外と重要なのかも知れない。

 おばばさまに精霊さまがどんな存在だったかみんなに伝えて欲しいとお願いしたので、少しは想像しやすくなるかもしれない。


 

 ◇ ◇ ◇



 今日は小雨が降っているので、腰簑だけにしよーっと。

 未だ、全てを身に付けてノルマの受け渡しに行ったことはない。全部を取り上げられたらショックだからさ……それに、防寒具たちも適度に乾かさないとカビが生えそうなので長く着たいものほど雨の日には身につけず部屋で干している。

 この腰簑は最古参で、今は雨の日に外に出るときの定番スタイルだ。だいぶ、くたびれてきたけれど……そろそろ草を入れかえないとだめかなぁ?


 隣を歩くフランカお姉ちゃんは腰簑じゃなくて、肩簑にしたみたいだ……雨だと布が張りついたりするもんね……大きめの肩簑をぎゅっと結べば前も隠れるし。

 わたしもそうすればよかったのか……よし、腰簑を胸まで引き上げていこう。なんちゃってチューブトップだ。首まで引き上げればなんちゃってポンチョだぞ!ふっ、これで張り付いても問題ない!


 「そ、それいいね!」

 「そうかな?」

 「う、うん!さ、さらに腰をひもでむ、結んだらよさそう」


 帰ったらマチルダさんに相談するそうです。マチルダさんに相談すると想像の数段いいものが出来上がるのだ。

 近々、改良版の草チューブトップワンピースが誕生するでしょう……


 「……ひっ」

 「ん?」


 魔石の受け渡しの列に並んでいたのだが……わたしの方を振り返ったフランカお姉ちゃんの様子がおかしい……というよりもわたしの後ろを見ている?視線がかなり上だ……ま、まさかっ!ついにこの草チューブトップに目をつけられてしまったのかっ……


 ギギ、ギギ……とゆっくり後ろを振り返る。

 その存在はわたしの腰簑(現:草チューブトップ)やわらじを凝視していた。

 どうやら、本当に目をつけられてしまったようだ。


 しかし、それは見張りではなかった……


 そこにいたのは大きな鬼であった……否。巨体の強面青年であった……たぶん。え?鬼とか本当に存在してる?この世界、ファンタジーっぽいからわっかんねぇ……よし、暫定ひとってことにしよう。


 そのひとは銀髪を短く刈り上げ、濃紺の瞳でこちらをじっと観察しているようだ。

 異彩を放っているのは首どころか頬に届きそうなほど太く濃い蔦模様だ。

 お?あれはおばばさまと似たような模様では?首にはおばばさまより大きな模様が見える。

 さては精霊の加護持ちですな!ということは、ひとですね!ただの強面オニさん……おにーさんですね!

 ここでこのひとが1番、魔力量がありますといわれたら、納得できそう……だから、体格がいいのに魔石担当なのかも?


 これ、ガンつけられてます?ってくらいみてくるんですけどー……フランカお姉ちゃんが後ろでぷるぷるしてますが。

 周囲の大人たちも見て見ぬふりですか……おにーさんを見上げていたら首が痛くなってきた……

 こんなときに限って列って進まないものですね。

 でも、強面だけど目の奥は優しいし、他の大人たちのように可哀想な子、ああなりたくない……って思ってる感じはしない。

 ただ、わたしとフランカお姉ちゃんが身に付けているものが気になって凝視してしまったって感じだ。


 話したら見張りに怒鳴られるので、アイコンタクトをしつつ、腰簑(現:草チューブトップ)を指でつまんで見せ、その後に片足をゆらゆらさせてわらじを強調してみる……この草がこの足のサンダルの材料ですよーって感じだ。


 強面おにーさんはじっと凝視したあと、コクリと頷いた……わかったってことかな?

 わたしはあほの子のふりをしないといけないのでヘラっと笑って前を向く。


 フランカお姉ちゃんは心配そうだけど、私語厳禁(というより見張りにいちゃもんつけられる)なのでそわそわ……フランカお姉ちゃんにも同じようにヘラっと笑いかけると、余計心配そうにされた。

 こ、これはあほの子のふりだよって安心して!って笑って見せたのに……あとで弁明しよう。


 その後はさっきまでの行列が嘘のようにスルスルと列が進み、あっという間にわたしたちも受け取った。

 魔石を運んでいると……


 「……魔石1班」

 「お、おお。それだ、それ。早く持ってけ!」


 という会話が聞こえた。



 ぷぷっ。見張りまで腰が引けてるじゃん!

 強面おにーさん……魔石1班なんだ……なんだろう、またすぐに会える気がする。

 


 「メ、メリッサちゃん、だ、大丈夫なの?」

 「え?なにが?」

 「ほ、ほら、あの後ろにいたひとみ、見てから様子が変だよ?」

 「……ん?」

 「な、なんていうか……ちょっと変なわ、笑いかたしてたし」

 「あぁ!あれはあほの子のふりだよ!」


 決してわたしの様子がおかしくなったわけではないのだ!きちんと弁明しなくては!


 「あ、あほの子……?」

 「うん。あほの子のふりしてたら、ちょっと変なことしても見張りの目をごまかせるかなーって」

 「へ、へぇ……て、てっきり、あのひとが怖くてど、どうかしちゃったのかと」


 どうやら、フランカお姉ちゃんをも騙せる迫真の演技だったみたい!


 「いやー、あのおにーさんの迫力すごかったもんね」

 「え、ええ……」

 

 グウェンさんもかなりの強面だけど、あれは顔の傷痕とかも含めてだし、また別なんだよね……

 グウェンさんが10人中8人は小さな子がギャン泣きする強面だとしたら、あの強面おにーさんは10人中8人が硬直して視線を反らすタイプって感じかな。


 「たぶんだけど、わたしたちのこしみのとかわらじが気になってじっと見てたみたいだよ!」

 「そ、そうだったんだ……」

 「うん、だからアイコンタクトとジェスチャーでこの草がわらじの材料だよっておしえたんだー」

 「そ、その……わ、わかってくれたの?」

 「うーん……うなずいてたから、たぶん?それにしてもあのひと魔力量すごそうだったね!」

 「え、ええ。ま、魔石1班って聞こえたから……か、かなり多いと思うよ」


 どうやら、魔石1班はそこそこ知られている存在らしい……かなりの量の魔石を任されているみたい。さっき見張りが指差した木箱の量もかなりあったな……運ぶの大変そう。

 そういえば、ものすごく大きな魔石が採掘できたとき呼び出され数人がかりで魔力を込めることもあるってやつ……担当は魔石1班かも。



 次に見かけたときには強面おにーさんも同じような腰簑姿になっていた……若干、ぶら下がっている草に毒草も混じっているみたいだけど……チューブトップにしてなくてホッとしたよ。強面おにーさんの草チューブトップ姿は破壊力すごそうだもんね。

 あ、ちなみに草チューブトップワンピースはマチルダさんとフランカお姉ちゃんの手によって無事にアップグレードされ完成した。

 体調がよくなってきたマチルダさんは、できなかったことを取り戻すかのようにわらじや腰簑をはじめボロ布のきれはしを集め、編んで紐にしたり……いろいろと挑戦している。


 腰ひも部分には採取用バックがついているのだが……パッとみただけじゃ全くわからないくらいきれいに隠れるように取り付けられていて、見張りに目をつけられにくい仕上がりだ。


 強面おにーさん、ほんのわずかな交流で腰簑までつくるとは……やりおる。

 なかなか見込みがあると思い見ていると、目があったので頷いたら向こうもコクリとした。なんだ、全然怖くないじゃん……


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る