目覚めたら7歳児でしたが過酷な境遇なので改善したいと思います
瑞多美音
第1章
第1話
「うぅ……ん……うぅ………はっ」
息苦しくて、目を覚ますと……数人の男女がこちらの様子をうかがっていた。えっーと、どちらさまでしょうか……
「おお、よかった……目が覚めたようだね」
「は、はい!よ、よかったです!う、うなされていてし、心配しました」
「……うむ。これでひとまずは安心じゃの」
「はっ。そのままくたばった方が楽だったかもしれねぇけどなっ」
「これ、グウェン!お前さんが一番心配してた癖にそんな口聞くもんじゃないよ!」
「……ふんっ」
「はぁ……素直じゃないね、まったく」
「うむ。いつものことじゃ、仕方ないのぉ……」
「あ、汗びっしょりだとよ、よくないですよ。あ、汗拭きましょうね」
そう話すひとたちの背後に見慣れない光景が目に入った。
ぼんやりとした視界に入るこの部屋はなんだろうか……病院とかかな?
「……んん?」
どこか違和感を覚えた。
そして、違和感の正体を確かめようと布団から起き上がろうとしたのだけど……腕や体にまったく力が入らないということに気づいた。すとんと力が抜けてしまう……あれー?インフルエンザにかかったときよりも辛いんですけど……
よし、起き上がるのは一旦あきらめよう。
多分、ひとりじゃ無理だわ。病院なら電動ベッドのリモコンがあるはずだけど……床に寝ている気がする。あれれー?
いまだに視界がぼやけてるのは顔に張り付いた髪の毛のせいかも……とりあえず払いのけたい所存。というかペターッとくっついて鬱陶しい。
なんとか手を顔の前に持ち上げてみる……あれれー、おかしいなぁ。なんだか手が小さいような気がするぞ?それに腕が棒のように細い。ほとんど骨と皮じゃないか。え、激やせ?いやいや、痩せても手が子どもみたいな小さな手になったりしないって!骨格が違うでしょうがっ。
次第に腕がプルプルしてきたのでそっと下ろす……やっぱり色々とおかしいなー。こわいなー。夢かなー?
そして違和感の極め付けは顔にかかっている髪の毛の色が記憶と違うんですが……あれー、幻覚なのかなー。
光の加減でそう見えるのかなーって一縷の望みをかけたけど……だんだん視界がハッキリしてきたのに見える色が変わらないんですよ。こわいなー。見なかったことにしたいなー。
だってね、仮に毛染めをしていたとしても間違ってもこんなに鮮やかなオレンジ色の髪にしていた記憶はないんですよ……ブリーチすらしたことなかったもの。せいぜいが茶髪だったはずだ。
しかも、髪の毛は潤いがなくキシキシしているのに汗でベタベタという訳のわからない状態だ……あんなに頑張ったトリートメントの効果はどこへ行ったのか?はぁ……なんだか頭も痒いような気がするし……やだなぁー。
「……あの、ここは」
『どこですか?あなたたちはどちらさまでしょうか?もしかして私の寝てる間にドッキリで髪の毛をオレンジ色に染めたりなんかは……してないでしょうか?』と思いつく限り現状についての質問へと続くはずだった言葉は……
ひと言つぶやいた途端に頭に激しい痛みが走り、頭の中に見知らぬ記憶と体験が流れこんできたことで中断された。
「ぐぅっ……」
「お、おいっ!」
「あ、ど、どうしましょうっ」
頭を抱え、冷や汗がどっとあふれでて、気分が悪くなり吐き気をもよおしたが……
吐くほど胃に何かが入っていることもなく、何度か胃がギュウッと締め付けられたものの……どうにか吐かずに済んだ。
うずくまった体勢で耐えていると、時間が経つにつれ徐々に頭の中がクリアになり、気分や体調も落ち着いてきた……ちょっと、くらくらするけど。
多分、長くても数分だったと思うけど……数時間に感じるほど辛かった。
「平気かい?」
「だ、大丈夫ですか?」
「……は、はい」
そうか……ひとまず深呼吸しよう。すーっ、はぁー。あ、ちょっとマシになってきたかもしれない……
「急に頭抱えて苦しみだしたから驚いたじゃねぇかっ!」
「きっと、突然知らないひとたちに囲まれて混乱したのよ」
「うむ。そうかもしれんのぉ」
すーっ、はぁー……すーっ、はぁー……すーっ、はぁー。
何度も深呼吸を繰り返していくうちに私は理解した。
いや、理解してしまった。
どうやら私は転生してしまったようだと……
そして……今世のわたしの記憶では、周囲にいるひとたちは家族ではないらしいこともわかった。
見知らぬ記憶と体験が混ざりあってなんだか変な気分だ……こう、どこか座りが悪い感じというか、まだごちゃごちゃしてて気持ちや記憶の整理がついてないというか……
そうだな。とりあえずさっき色々と思いついた質問たちはそっと胸のなかにしまっておこう。多分、彼らに聞いてもほとんどが意味不明だと思うからさ。
どっきりとはなんぞやから始まりそうだし、毛染めの文化はなさそうに見えるからね……
「ふぅ……とにかく回復に努めなさい。まだ夜だから朝まではゆっくりするといいよ」
「そうだぞ!ここは助け合わないと生きていけないからな。早く元気になれよな!足手まといはごめんだぜっ」
「またあんたは心にもないこと言って……」
「そうじゃ、こやつの言うことは気にしなくてよい。元気になっておくれ」
「な、何かあったら、わ、私に言ってね」
「は、はい……」
とにかく情報を整理しなくちゃ……
汗で張り付いた髪、渇いた喉、油断すると朦朧となる意識を繋ぎとめながら絡まった糸をほどくように少しずつ……焦らずゆっくり。
すーっ、はぁー……
まず、前世?から……転生してるようだから前世で間違いないはずだけどなんか悲しい。
えっと……前世の私には祖父母と両親、弟がいた。
共働きで忙しいけれど愛情たっぷりで育ててくれた両親と近所で農家をしていた祖父母、生意気だけど憎めない弟。もう二度と会えないなんて……泣きそう。
祖父母とは一緒に暮らしていたわけじゃないけど……学校の後は祖父母の家に帰っていたこともあり、懐いていたし……色々と教えてもらった上、とても可愛がってもらったと思う。
料理や生活の知恵、さらにはお酒の飲み方まで……
月に1度は家族で鍋パーティが決まりごとだった。祖父母の作った野菜たっぷりの鍋を食べて、弟とお肉を取り合って……両親に仲裁されるそんな日常。はぁ、もう戻れないのか……
そして、地元の大学を卒業したところまでははっきりと覚えている……はて。私は天寿を全うできたのだろうか?
というのも……はっきり確実だといいきれるのはそこまでで……その後の人生はところどころ記憶が虫喰いだし、人生を思い出そうとすると映画や小説の内容が混ざっている気もする。
明らかにおかしな内容の記憶が浮かび上がってくることからそう推定した。
理由はわからないけど、きっと若くして死んでしまったのだろうな。多分、大学卒業後数年以内かな?
なぜなら結婚や出産、老年になった記憶は一切浮かんでこなかったので……親不孝でごめんなさいという気持ちが湧いてくる。
そして、記憶の全てが自分に起こった出来事ではないと思っておこう。だって、流石に生身で自由に空を飛んだり、ゾンビサバイバルは経験してないはずだからさ……もしかしたら、VRゲームかもしれない。
そのうち、ごちゃごちゃの記憶も整理されてはっきりしていくだろう……でも、家族のことは忘れたくないな。
はぁ……それにしても、まさか自分が異世界転生するだなんてね。
そんなことは小説の中やアニメの中で起こる出来事だと思っていたけど、まさか自分自身に起こるとは想像もしなかった……いや、正直妄想はしたことあるかな?
小説の主人公を自分に置き換えてみたりして……自分ならこうするのにとか。
でも、それらが現実に起こるとは1ミリも思ってなかった。あくまで想像や妄想に過ぎなかったのだ。
まずはこれが妄想や夢でなく、現実かどうかを疑うところなんだろうけど……今世を生きてきた7年間は私の中に確かに存在しているし、体の痛みやだるさは本物だ……だから、これは現実だと思う。信じがたいし、これが夢オチや幻覚ならどんなにいいかと思いもするけどね。
小説みたいに神様のミスで……とか、白い部屋の中で転生担当の受付さんや天使さんに見送られたとかいうわけではなく、ただ単に転生したようだ。
だから小説でよくあるチートとかもないのだろなぁ……まぁ、残念だけど現実と小説は別物だよねぇ。
前世を思い出したのは、きっと今世のわたしが生死をさまよったからだろう……
ここは自分の頭と行動で自分を助けるしかないよなぁ。
前世では手助けしてくれた両親や祖父母も今世では見当たらないのだから……強く生きなければ。
今世のわたしの記憶によると……たぶんここは役立たずになると送られるというグループ。
いわゆる、死にかけ(死に損ない)グループと呼ばれるところだと思う。
どうやら、今世のわたしは何らかの理由で体調を崩し、生死をさまよったためこのグループへ入れられたのだろう……ここへ移った記憶はないけど、現実を認めるしかない。それほど重体だったのだろう……
おや?天井は空が半分くらい見えているな……以前の部屋はすきま風や雨漏りはあっても雨が降り降り注ぐほどの穴はなかった。
そもそも……部屋の扉も朽果てたのか役目を果たしていない……ま、天井と比べれば些細なことか。
そして、前の部屋にいたひとは誰もいない……誰かが新たにやって来たのではなく、わたしが移動したということが明白だ。
最初、目覚めたときの違和感は病院にしては病室っぽくないし、外にいるような気がしたこと。
そして、周りのひとたちも医師や看護師には到底見えなかったから……まぁ、シルエットで判断した部分もあったけど、大体間違ってなかった。
空が見え、床は薄汚く埃っぽいい。地面に引いてあるのは薄い布1枚。
どうやらここに自分は寝かされているようだ。ベッドどころかまともな布団もなかったかぁ……
わたしが考え込む間も……火傷の痕が痛々しい女のひとがぼろ布を水に浸して汗を拭いたり、木の器に水をいれ口に運んでくれたりと細々と世話を焼いてくれる。
残念ながら着替えはないようだが、お世話してもらってありがたい限り……なんせ今はまだ体を動かすことも話すことすらしんどいので。元気になり次第お礼をきちんと伝えよう。
断片的な記憶を繋ぎ合わせてみても、以前に彼らと会ったことはないと思う……
といっても……今世のわたしの行動範囲は限られていたし、死にかけグループのひとだから会ったことがないのではなく、同室以外のひとは見張りと水汲みですれ違う子供くらいしか見たことがないのだけれど……
えっと、最後に覚えているのは……雨の降るなか井戸から水汲みをしていたことかな。
しかも、水汲みは滑車はなく蔦を編んだロープを井戸へ投げ入れ、水の入った重たい木のバケツで汲み上げる重労働だったはず。
記憶にあるかぎり、私の生活は毎日何往復もする水汲みと魔石を作ること。
そして、1日に1度のご飯だったようだ。しかも……祈りを捧げないともらえないと小さな頃に教わったため毎日必死に祈っていたようだ。
自分に起こっていた出来事なんだけど、未だ現実味がない。客観的に見ても辛すぎる生活だと思う。
そして、ここは前世の世界とは全く違うようだ。前世には魔石なんてなかったもんね。ファンタジー的な世界なのかな?
もしかして、乙女ゲームの中に入り込んじゃった?とか考えたいよ?でも、たとえゲームの中だろうが小説の中だろうがわたしにとっては現実だからね。ストーリー通りかなんてわたしに関係ないのだ。
それにゲームかどうかなんて確認しようもないのだ。気にせず過ごすのが1番だろう……
考え込むうちになんだか意識が朦朧としてきた……一気にいろいろと考えすぎたかもしれない……すこし休ませてもらおう。おやすみなさい。
・
・
・
・
・
カーン、カーン……カーン、カーン……カーン、カーン……
いつのまにか気を失うように眠ってしまったらしい。
「あ、あしゃだー」
うわぁ、噛んだ……恥ずかしい。
えっと……いち、に、さん……鐘が6回鳴っているから朝6時だな。
ふぅ……寝過ごしてしまったわけではないようでひとまず安堵した。
昨日の夜?と比べると気分もずいぶんと良い。昨日は力の入らなかった手足も思い通りに動くし、楽に起き上がることもできた。
ちょっとだるいけど……これなら十分動き回ることができそうかな。若いからかな?回復力すごいね……この世界ではあたりまえとか?うーん、よくわからないや。
そっと見回すと両隣には昨日いろいろとお世話をしてくれていた火傷のお姉さんと少し顔色の悪いおばさ……お姉さんが寝ていた。
もしかして冷えないように温めてくれたのかな……そうだとしたら、その気遣いすごくありがたいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます