民族衣装と偏執者
八神響
1章 民族衣装研究部との出会い
プロローグ
グラウンドで野球部が練習している声が響く校舎裏。
人気のないその場所で俺は、自分が呼び出した女子と向き合っていた。
こんな定番とも言えるシチュエーションでやることといえば限られている。女子の方も薄々呼び出された理由が分かっているようでどこか緊張した面持ちだ。
「わざわざ放課後に呼び出しちゃって悪いな」
「ううん、大丈夫。今日は特に予定も無いから。……それで、どうしても私に伝えたいことって何?」
彼女はそわそわとしながら理由を尋ねて来る。
その表情からは嫌悪や忌避といったものは感じられず、もしかしたら成功するのではないかと思わせるものだった。
そして、俺は満を持して彼女に告白を決行した。
「お願いです! 俺の、『 』になってください!」
「え?」
俺の告白を聞いた彼女は、多言語でも聞いたような様子で首を傾げる。まるでこちらが何を言っているのか分からないとでも言いたげだ。
正直、成功を期待していた俺としては彼女の反応は少し腑に落ちない。肩透かしを食らった気分だ。
あれ程大声で簡潔に伝えたというのに、聞こえなかったなんてことも無いだろう。近くで電車が走っているわけでも無いし、花火だって上がってない。
ならばなぜ彼女はこんなに目を白黒させているのだろう? と俺が彼女の混乱の原因を探る前に、彼女の方から話を切り出してきた。
「ご、ごめん。もしかしたら聞き間違いとかしちゃったかもしれないから、もう一度さっきの言葉を聞かせて貰ってもいいかな?」
笑顔を引きつらせながらそう言う彼女に、聞き間違いならしょうがないと思いながら先程の言葉を繰り返した。
「じゃあもう一回言わせてもらうよ。でも俺も恥ずかしいからこれで最後にさせてくれ。……お願いです、俺の、『 』になってください」
よりはっきりと、より重々しく口にした俺の告白を聞いて、どういうことか彼女は今までよりもさらに取り乱し始めた。
「え、えー……、こんなことってある……? 私は今何に巻き込まれてるの……? もしかしてドッキリ? い、いやそれにしては真剣すぎるし……」
彼女は頭を抱えながら、小さな声で独り言を言い始めた。
俺としてはその様子をずっと見ているのもそれはそれで有意義なんだが、今は何よりも告白の返事が欲しかった。
「色々思い悩んでるところ悪いけど、そろそろ返事を聞かせてくれないか」
「ひぇあっ!」
よほど集中していたのか、返事の催促をするため話しかけると彼女は奇声を上げて俺から距離を取った。
「……そんなに避けられるとさすがにショックだ」
「ご、ごめんね。ちょっとびっくりしちゃって……。そ、それで返事っていうのはさっきの『告白』に対しての返事なのかな……?」
「もちろんだ。俺は、一刻も早く答えが知りたい」
「あれだよね、冗談とか、そういうんじゃないんだよね……?」
彼女は身構えるように手を交差させながら尋ねてくる。
まさかそこを心配されてるとは思わなかった。警戒心が高いというのは良いことだ、だけど俺のことくらいは信用してもらえるようにならないと。
そのために俺は自分がいかに本気か、どれだけの年数それを追い求めてきたかを彼女に熱弁した。
「す、ストップストップ! もう分かったから! もう十分だから!」
五分くらい話した頃だろうか、彼女に話を遮られてしまった。後二時間は余裕で話せる自信はあるのだが、まあとりあえず今は彼女に俺の熱意が伝わってさえいればいいか。
「冗談じゃ無いことは分かってくれたか?」
「う、うん。これ以上ないほど分かったよ。それで、返事、だったね」
彼女はそう言うと斜め下に向けていた視線をこちらに向け、意を決したように叫んだ。
「ご、ごめんなさいー!!」
そして断りの言葉と共に頭を下げた後、全速力で走り去っていってしまった。運動神経はそんなに良くなかったはずだけど、一瞬で影も形も見えなくなった。もしかしたら短距離走の才能があるのかもしれない。
「………………」
一人取り残された俺は、空を仰ぎ見て何が悪かったのかを考える。
多分、一番の要因は一緒に過ごした時間の短さだ。さすがに事を急ぎ過ぎたのかもしれない。これからまた俺という人間の事を知ってもらって仲を縮めれば可能性が生まれることもあるはずだ。
前向きに考えることにした俺は、明日からも諦めずアプローチをかけていこうと心に決め帰路へと着いた。
しかし次の日から、学校に俺の居場所が無くなっていた。
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