時
クースケ
秋
秋は私が一番好きな季節…。
夏の過酷な暑さが去って、ふんわりとした風に揺られているコスモスの淡いピンクは私の瞳に優しく映っている。
最近、周りから「少し、太った?」とか「ぽっちゃりしてきたね」って、頻繁に言われるようになってきた。
三年間付き合っていた彼と別れて、半年が経った。
彼へのやるせない思いが、少しずつ癒されてきた頃。
私の頭の中が幸せ中枢で満たされる時は、常に目の前に食べ物があるときだった。
アイスクリーム
チョコレート
霰
せんべい
クッキー
ケーキ
プリン…etc
もちろん、ご飯だってちゃんと食べている。三度三度。
いや、四度や五度になることもあるけど。
いつまでも、惨めな気持ちでいられないもの。
そんな時、彼からメールが届いた。
(ちょっと、今日会ってくれない?)
しばらく、考えてから返事を返した。もちろん、断るはずもない。
もしかしたら彼からの別れ話だったけど、後悔しているのかもしれない。
また、寄りを戻したがっているのも…期待が加速する。
私は、めいっぱいおしゃれをした…いや違う。
正確には、しようとした。
実際にはお気に入りの洋服は、ほとんどが入らなくなっていた。ひざ下から、パンツやスカートは入らない。
仕方なく、最近定番のトレーナーと伸び伸びジーンズにする。鏡で見る髪の毛もボサボサ。
それでも化粧は、念入りにした。
彼との定番の待ち合わせ場所のカフェについた。
彼は、先に来ていた。
私は、嬉しくて仕方がなかった。彼がまた私の目の前にいることが…。
「ごめんな。わざわざ呼び出して」彼の声のトーンは、ちっとも申し訳なさそうでもなかった。
「ううん、ちっとも」
「おまえさ、少しは気を遣えば?」久しぶりに会った彼からの言葉だった。
「へっ」
「へっじゃねーよ」
「俺たちが、別れたこと職場でずーっと噂になってるし、お前がどんどんデブって劣化していくのを俺のせいにされてたまんねんだよ」
(その言葉の意味を理解するのに少しかかった。はずなのに、私の目からはすぐに涙が溢れていた。フフフ。そうよね。考えてもわかるのに寄りを戻せるなんて…ばっかみたい)
「おい、泣くなよ。俺がまた悪者になるじゃないか。とにかく、そう言うことだ…。
あと今日は奢りだから、好きなの食べて行けよ。俺は今から寄る所あるから、もう行くわ。じゃあな」と、いうだけいってお金をテーブルに無造作に置いていく。
涙で潤んだ瞳からも、足早に出ていくあいつの後姿が滲んで見えていた。
(相変わらず、自分勝手な奴。わかっていたはずなのに…)
それから、私の思考回路は止まっていた。何秒いや何分だろう?
目の前に、湯気の立つコーヒーが置かれるまで。
カップの中のラテアートは、可愛いクマの絵が描かれていた。
(かわいい…)
カウンターの店長に目線を向けると、優しく微笑んでいる。
時々、自分へのご褒美にこれを頼んでいたのを憶えていてくれてたのだ。
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