最たる女神のレスァイム・サーガ~宙燃ゆる戦いは少女の『最強』を刺激する~

星宮華涼

【第一部――『新生を迎えた運命の少女』】

Prologue

 少女が生まれた時に宿った力――【破壊】が発端となって世界大戦になり、以降に生まれた自分も迫害されて両親から突き離されて育った。


 それでも両親の名前、姿を覚えている。

 活発な赤髪の女性、四代目炎神レイス・レギレスと温和な緑髪の男性、四代目風神シゼル・レギレスの二人から生まれた自分は母に似ているだろうか。遺伝と呼ばれるものが影響しているのは中身でもごくわずかのようで少女の外見は漆黒の長髪、漆黒の瞳という似つかないものだった。


 五代目破壊神レイム・レギレスとして自分は生まれた。


 だが、それが自分の個性、魂の表れだからだ。


 それは分かっている。

 自分の髪、目の色が黒く染まっている理由くらいは……。


「レイム様――」


 レイム・レギレスの生活は両親がいないことだけで不自由なものは少なかったが。不満を上げるなら、領域の外から出られないことだろう。


 いくら破壊神であるレイムの命令でも配下はそれを容認できない。

 その理由として三千年前に起きた世界大戦、レギリオンの大戦だが、その大戦を招いた原因が『破壊神』なのだ。


 その人物が二代目破壊神レオン・レギレスだ。

 世界大戦の原因は彼が同族である神々を裏切ったことであり、その疑いの目を彼の娘である三代目破壊神レシア・レギレスに向けられてしまった。

 彼女は否定したが、認めてもらえるわけもなく、彼女を庇った三代目闇神と共に地上に逃げた。


 最初は当時の六神が分裂して四対二の構図だったが、この事態を好機として最古の魔王達が進行を始め、世界大戦となった。大きく分けて三つの勢力が争い、お互い引くことはなく、世界大戦は長く続いたが、どんな戦いでも終わりは来た。


 三代目破壊神レシア・レギレスが率いる破壊神軍が各個撃破作戦にて四神を打倒し、魔王とも激突する。

 最終的に実の父である二代目破壊神レオン・レギレスと激闘を繰り広げたが、レシアは敗北し、死んだ。


 そして皮肉にも彼女の死に感化された神々によって世界大戦は終結した。

 裏切り者であるレオンは生き、濡れ衣を着せられたレシアは死ぬという配下からしたら納得がいかない結末となってしまった。

 世界大戦は終わったが、破壊神の印象が良くなるわけもなく、四神の種族は忌み嫌っており、同族の誤解は解けたが、種族の関係上、外に出ることはできないとレイムは説明された。


 理由は分かる。

 分かるが、私には関係ない。

 過去の出来事なんて……でもそれが原因で両親とは生まれてから離れなのは事実だ。


「レイム様――」


 皆がいるから寂しくはない。自分の力を一人前に扱えるように魔力と剣術を身に着ける特訓をしたりしている。破壊神の特徴なのか、自分の力を行使するのは楽しい。漆黒の色で破壊力はどんな力でも凌駕する。


 力もそうだが、勉学も学ばされている。

 最古の出来事である世界創造からある程度を学んでいるが、一番、気になったことが世界創造の点だ。

 この世界で六神と呼ばれている風、炎、水、闇、光、破壊は神々の中心的人物たちで王家のレギレス、世界を創造した者達である。


 だがここで疑問がある。

 六神の中に破壊が含まれているが、破壊の力でどうやって世界を作ったのだろうか、と……。

 現在の種族からは破壊神を六神から除外して五神として崇められており、破壊神の立場は神々ではなく、魔王と同じ側である。


 だから私の不満は自分の領域に閉じこもっているのが気に入らないのだ。


「レイム様!」


 水、海の底に沈んでいるようなレイムに使用人筆頭リツリ・リファーストの声が聞こえる。


「んん~」


「レイム様、おはようございます!」


 レイムの目覚めはリツリの声で目覚める。

 破壊神の寝室は世界の中でも最高品質であり、価値のある鉱石と同じような漆黒の石材で壁、円柱が半分意図的に剥き出しになっている。天蓋付きのキングベッド、東側にドレッサーが置いている。


「うぅ~……おはよう、リツリ」


 破壊神の配下である最破と呼ばれている。

 構成メンバーは九人と少数だが、各領域の戦力を比較するとスバ抜けた戦力を誇るのが破壊の領域である。

 正確にはそれだけではなく、領域内に暮らしている機人種や竜種も含まれているが、主力として扱われているので間違いではない。


 リツリ・リファーストも最破の一人、第六席にして使用人筆頭の肩書を持つ。

 レイムはベッドから出て、リツリが身支度を整える。黒色のパンツと黒色の服一枚だけを着る。

 彼女は着飾ることを嫌い、着用している衣類は下着と服の二枚のみで素足だ。豪華なドレスを身に着けることは好まない理由としてスッキリしないというものだ。


 外界と触れる面積を増やそうとしているのか、神だからかと育てた者達は納得した。


「よし!」


 鏡に映る自分を見て、目を覚まして今日一日が始まることを自覚して気合を入れる。


「そういえば、あの手紙の――」


 リツリが話しを切り出した瞬間、両開きの扉のむこうで複数の人が疾走する足音が聞こえてきた。

 それに先に気付いたのはリツリであり、扉の方を向く。


「レイム様、失礼します!!」


 入ってきたのは紫色の長髪、ミニワンピースを着用した何でも熟せるような美しい女性と白髪に和国特有の黒色の和服を身に着けた男前の男性が入室した。


「「レイム様、朝に申し訳ありません!!」」


 二人は主である少女に深くお辞儀をした。


「二人共、どうしたの?」


 最破の第一席の男、ジュウロウ・ハリアートと第二席の女、ワーレスト・ゼロログが少し慌てている様子から一大事であることは確実だ。


「はッ。突如、破壊領域外ではありますが、魔王軍に酷似した軍勢を発見しました。目標は真っ直ぐとこちらへ進行し、一時間も経たずに領域内に侵入するかと」


「無論、レイム様のお手をお借りするつもりはありません。ただの報告に参りました」


 ジュウロウが少し強い口調で話すが、それは彼が最破の中の誰より破壊神レイムに忠誠を誓っており、主の手を煩わせることはせず、全ては配下である自分達が熟せばいいと思っているからだ。


「ふ~ん」


 主であるレイムに逐一報告するのが配下の役目だ。手を煩わせないようにしてくれるのもいいが、暇な日常を少しでもマシに面白くするためにはどうしたらいいかレイムは考える。


「私も戦う。ダメとは言わせないから!」


 好戦的、それが破壊神の特徴なためレイムの解答を二人は予想していた。


「分かりました。でも、忠告はさせていただきます。戦場では、自分の力を過信せずに注意深く、用心――」


「――はい、は~い」


 ジュウロウの忠告は長くて面倒くさいためレイムは立ち上がり、自室を後にする。


「ん、全く本当に分かっているのだろうか?」


 戦闘において右に出るものはいない男、最破の第一席、『唯一者』の人間にして最破最強の男であるジュウロウ・ハリアートはいつもながらため息をつく。


「聞いていないでしょうね。でも、少しは分かってくれればいいのですが?」


 リツリがそう口を挟む。


「そうね。防衛はもう済ませた。後はあの軍の正体といきたいけど、二人の見解を教えて」


 ワ―レストの問いに二人は数秒考えて答える。


「今までの魔王軍じゃないのは確実だ。もし、魔王軍なら軍の構成を新生したかどうかだが、一見、魔王軍に思えるということが向こうの策略だろうな」


「そうですね。ワ―レストが集めた情報では各地に出現させているつもりですが、兵力は確実にこちらに寄せている。新たな魔王の出現など最古の魔王がいる限り、あり得ないですし、今までの最古の魔王達の行動パターンから第三位と第五位のどちらかに可能性があると思いますが、別の勢力かと」


 三人の会話はもう答えが分かっているようなものだった。


「うん。二代目破壊神レオン・レギレスでしょうね」


 ワーレストの答えにジュウロウの顔が険しく変化していく。

 三千年前に当時の主を殺害した人物、なのに奴はのうのうと生きている結果に不満しかないのだ。


「もうわかっている。奴の目的は破壊神、レイム様に用があることなんて」


「えぇ、でも世界情勢がどうしようもないです。領域内なら思い存分ですから、侵入したら対処するしか方法がありません。このまま行けば、三千年前の荷の前になる可能性が高いです」


 機人種は機械の存在。

 その演算で導き出されるものは確定事項と言っていいものだ。

 その最初の機体であるワーレストが述べるのだから、これから何か起こることは確定事項なのだ。


「そういえば、例の手紙……今日ですよね?」


「そうです」


 ワーレストの質問にリツリが答える。


「マジか、いや今は目の前の敵だ。その件に関しては当人が来てからでもいいだろう。行くぞ」


「えぇ!!」


「はい!!」


 話しを切り上げて三人は主の後を追う。

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