第8章 最終決戦その4 白と黒の決着の果てにあるもの

第88話 エターナ・アルベェラータは本物の女神

 黒焦げのエディウスに対する三人スリーマンセルでの攻撃。まず最初に剣をまじえたのはレアットである。


 なんのひねりもないただの巨大剣二刀流による打ち下ろし。これは難なく同じ二刀を以って応えるエディウス。


 ………と思いきや、レアットは此処で不意に竜巻を起こす。巨大な竜巻に飲み込まれる両者。二人共々舞い上がってゆく。


「おぅっ、やってくれやっ! リンネのあねさんっ!」

「そ、それじゃアンタも………」


「構うもんかッ! 一発ブァァァァッとブチかませッ!」

「じゃあ、遠慮しないよッ! 音速の刃ソニックブームッ!!」


 まだミリアを失った悲しみの涙が閉じていないリンネに対し、俺諸共もろとも巻き込んでしまえと要求するレアット。


 一瞬戸惑とまどうリンネであったが、声と手で「来いッ寄越せ!」とくればもう容赦ようしゃはしない。


「グッ! き、貴様ッ!」

「へへ……死なば諸共もろともってな。もっともこれしきじゃ俺はやられねえぜ……」


 巨大な竜巻という名の結界と同調シンクロして回る真空の刃に斬り刻まれてゆく二人。


 レアットは強がってこそいるが、実の所、顔が引きつっている。実体のない刃が襲って来る無限地獄がこれ程に恐ろしいものとは、想像をはるかに凌駕りょうがしていた。


竜之牙ザナデルドラ転移の翼メタッサーラ

「アァッ!? て、テメェ一人で逃げる気か!?」


 これはたまらんとばかりに違う竜之牙ザナデルドラと入れ替わりで逃走するエディウス。

森の美女ドリュエルから解放されたのはまだ2本だけだが、今は何処へでも移れればそれで良い。


あったま来たっ! ざけんなっ!」


 レアットは今吹いている嵐と真逆の大気の渦を創り出して、この難自爆から逃れた。


(自由に戻れた竜之牙ザナデルドラは未だ2本………。そして姿を消している小賢こざかしいのも二人。どうせ姿を消したまま、それぞれ一人が待ち伏せをしているに決まっている)


「そこにいるのは………。ははあ、その気配シアンだな。貴様の不可視化インビジブルは所詮未完成っ! 完成した力なら術者が気を許さなければ触れることすら出来ぬよな?」


「隠れても無駄………。そういう事、お前の言う通りだ」


 エディウスが乗り移った先に身を隠していたのは、確かにシアンであった。それにしたって何も自分から姿を見せることはないだろう。


 例の変わった槍を両手で普通に槍として構えているシアン。


 またも操舵ステアで上に2本、下にも2本浮かせたナイフを用意しているが、それすら最早、ありきたりな戦闘姿勢スタイルである。


「シアン、貴様まさかこの期に及んで本気を見せないつもりではあるまいな」


「本気………。嗚呼、不死鳥フェニックスのことか。確かにアレは強い力だ。だがそれだけでこのシアン・ノイン・ロッソを推し量られては困る」


「ならば此処で終わりにしてくれるっ! 『絶望之淵ディス・アビッソオ』!」


 アギドの能力先読みとアズールより新たに会得した魔法すら持つ自分に対し、未だ本気不死鳥を使う気がないとシレ者顔で言うシアン。


 そんなれ者は、消えてしまえとばかりに、歴史から闇に葬る黒い炎ディス・アビッソオを黒くすすけた右手からエディウスが取り出して、そのままぶつける。


「し、シアンッ!」

「シアン様ッ! そ、そんな……」


 シアンの肝煎きもいりと言えるハイエルフのニイナとレイチが、悲痛な叫びを上げる。


 シアンが黒い炎に飲まれて消失した。他の者は余りに突然過ぎて、かける言葉を完全に見失った。


 だが………余りにも呆気あっけなさ過ぎる。いや、それ以前に不自然にも程がある。

 確かにシアンの存在が消えた。けれど誰も……術者のエディウスですら、シアンのことを忘れてなどいやしない。


「こ、これはもしやっ!?」

「………『模造フェイク』」


 泡を食った様子でシアンの存在を必死にエディウスが探す。


 突如何もない空間から声が聞こえ、その刹那せつなに戦の女神の首が見覚えのある矛先ほこさきに狩られて宙を舞う。


「ば、馬鹿なッ? 模造フェイクだと!? それに我が刃が何故届かんッ!」


(……化物め、これでもまだ死なないというのか)


「そう言うことだトリルの成れの果てよ。我が不可視化は完全なのだ。そして貴様が消したと早合点したのは、模造フェイクで作った文字通りの偽物だ」


 シアンは首が本体と泣き別れになってなお、此方に最早聞きたくもない文句を投げて来るエディウスの成れの果てを内心気味悪がる。


 けれど実は本物であった力をあえてひけらかすことで、此処からはで押し通すという圧力をかけたのだ。


 模造フェイク、これもエドルの民でもごく一部の限られた者しか使えない秘術。色々なを複製出来るのだ。


 なれどまさか生き物……ましてや術者自身を模造フェイクするなど、トリルの知識を内に秘めるエディウスですら知り得ない。


竜之刃ザナデルドラ転移の翼メッタサーラ

(またか、やれやれ………次は何処いずこに………ッ!?」


 未だに瞬間移動メッタサーラに頼れるつらの皮の厚みにシアンは、呆れつつもその先を視線で追う。


 さらにすぐさま追い討ちを掛けようと迫ろう……とした。が、止めたのだ。


女神エターナの名において、この者に我の慈悲を与えん。湧き出よ生命之泉プリマべラ


 さらに森の精霊ドリュエル拘束こうそくを逃れた三本目の前にいた長い金髪の美女エターナ


 あろうことか、偽物であり恨みの対象であった筈のエディウスに対し、施しプリマベラを与えているではないか。


 もうとっくに生ある者を辞めていたと思われていた肉体が、元の白の代表の姿に戻ってゆく。

 誰の血なのかすら定かでない返り血と、自らのソレの跡すらサクリッと消え失せた。


 何故今になってあのエターナが!? これまで以上の衝撃が皆の背中を走り抜ける。


「え、エターナ……?」


「裏切った……とでも言うつもりですか? 私言いましたよ、エターナ・アルベェラータは本物の女神エディウスですってね……」


 エターナに真の神を見た気になり、勝手に誓いすら立てたシアンが、特に言語を失いかけている。


 そんな傷心の信者シアンを見ながらエターナは、腰に手をあてその大きな胸をさらに張る。


「な、何故……どうしてなの?」


「フフッ……。この人はね、誓ってくれたのよ。自分マーダが勝利したあかつきには私をロッギオネの神にえてやるってね」


 次はリンネがやはり信じたくない様子で声を震わせながらたずねる。それに対し全く悪びれた風を微塵みじんも感じさせずに堂々とエターナは答えた。


「……ヴァイロ・ビブレ・べルソナータ、暗黒神ヴァイロが剣よ。全てを我が闇にほふれ『暗黒の刃ネッログエラ』」


 紅色の蜃気楼レッド・ミラージュの赤い霧と共にその身を潜めていたもう一人ヴァイロほとんど口パクに近い声で詠唱を終える。


 呪文スペルの中に自らの名が刻んであるという事は、どうやら彼の専用呪文オリジナルスペルらしい。


 霧にまぎれたままの状態で完治かんちしたばかりのエディウスの白く瑞々みずみずしい左腕を深く斬り裂いた。


「ふむ……。成程成程なるほどなるほど、これで合点がいったよ。元のエディウスマーダが何故エターナを乗っ取らなかったのか……」


「……か、隠れてないで出てきないよっ! この卑怯者ひきょうものっ!」


「ハッハッハッ……。それこそどの口が言うだな、マーダは君を乗っ取るまでもなく、美味しい処を摘む利用するだけで事足りた訳だ」


 相変わらず表に出ないであおりを入れてくるヴァイロに腹にえかねたのか、エターナがたまらず間の抜けた反撃を口走る。


 要は取るに足らぬ存在だとヴァイロは、エターナを斬って捨てたのであった。

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