第54話 現身
ヴァイロは
数十km先に広がる
「
「それを議論するならそもそもこの島の歴史そのものが、150年程前から何故か消失しているぞ」
「ソレを今語るつもりはないな。とにかく
この台詞を聞いてシアンは、まるで子供のように自由に動かしていたヴァイロの手をグッと
「
その問いにちょっと困り顔で首を横に振るヴァイロ。
「
「では?」
「裏で
腕をシアンに掴まれたまま、シリアスな表情を返すヴァイロ。
そんな二人を背後から
「エディウス………。いやトリルさんだったか? 本当に彼女の中に違う意識の人間が入り込んでいるだとしたら、人間一人操ることなど
声の主はアギドである。小さな岩山の影からスッと現れる。全身を
「………だな。あるいは既に死んでいて身体だけ好きに操られているのかも知れない」
「
「はぁ………。ヴァイ、そもそもお前がいけないのだ。地力のないカノンをどうにかしようと魔法を
トリルの意識を支配している者が、生きているバンデの意識まで
ましてや
一番弟子であるアギドは、ズカズカと岩肌を踏みしめつつヴァイロの目前に
「だが何故よりにもよって闇側……。暗黒神を名乗ったのだ? いや……陽の当らないカノンが生んだ神のごとき存在だから誰かがそう呼んだのかも知れんが」
「…………っ!」
アギドの剣先よりも鋭い
「しかも実に
「…………く、黒が好きなんだ俺。そ、それに魔法と言えば黒魔法という美学がだな………」
背後のノヴァンをコイツ呼ばわりしながら親指で後方を指すアギド。
それに対するヴァイロの回答が、27歳にもなった、かなりいい大人のそれではないので、アギドとシアンはガクリッと肩を落とす。
「そ、そんな
「シアン………。この人の行動理念は、
思わず頭を抱えてフラフラ揺れるシアンに、とてもフォローとは言い
「と、ともかくだっ! カノンと
ヴァイロは自分の
◇
その晩に時刻は移り変わるのだが、ヴァイロと
「ノヴァン………」
「ん、なんだ?」
ポツリッと暗黒神
「エディウス、そしてアイツが創造した
「なんだ、貴様程の男がそんな下らぬ事で悩むのか?」
そう言ってノヴァンは目を細める。笑っているのか、小馬鹿にしているのか。夜の闇にすら溶け込んでいるので判別しづらい。
「下らないか?」
「嗚呼、実に下らない。いや
ヴァイロは固い表情を
それに対して
「貴様が自分の力を信じない? それは我の力も信じないのと同じ事だ。黒が好み…良いではないか」
「し、しかし………」
どれだけノヴァンに言葉を掛けられても
こうしている間にもヴァイロは、例の悪夢が死体に群がる
「意地を通すのだ暗黒神。貴様の正義を
「え………」
突如彼女等などと言い出したノヴァンに驚いて、ヴァイロは慌てて周囲を見渡す。
黒いマントに身を包み、やはり夜の闇に溶け込んでいたリンネとミリアがすぐ近くまで迫っていることに気がつかなかった。
新月まであと3日いった所か。それ程に欠けている頼りない月に照らされた二人の少女の顔がまるで満月のように
実に頼りがいのある
(フフッ………。
「行って来い二人の元へ。見張りは我
そんなノヴァンの言葉に、まるで解き放たれた子供のように、二人の想い人の元へ駆け寄ってゆくヴァイロであった。
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