第22話 ステージ終了

「そういうこと」

 画面を見つめ、理解した未来美が言葉を吐く。

「ど、どういう意味ですか?」

 呆然と問い詰める数馬。

 郁斗も理解していた。

 残り三人になった時点から、このゲームの様相はガラッと変化したのだと。

 内容はこうだ。

 まず、数馬が違和感を感じた理由。

 それは三人では、これまで通りのゲームが成り立たないからだ。


・「羨ましい」>「恨めしい>1」 =1pt

・「恨めしい」>「羨ましい>1」 =1pt

 →回答者は二人のため、上記二項目は成立不可。


 となると、考えられるのは下記の五項目。


・「羨ましい=1」 =3pt

・「恨めしい=1」 =1pt

・「羨ましい=0」 =0pt

・「恨めしい=0」 =0pt

・「羨ましい」=「恨めしい」 =0pt


 さらに上記項目をわかりやすく、二ブロックに分ける。


A

・「羨ましい=1」 =3pt

・「恨めしい=1」 =1pt


B

・「羨ましい=0」 =0pt

・「恨めしい=0」 =0pt

・「羨ましい」=「恨めしい」 =0pt


 →回答者は二人。よってBの三項目で考えられる投票結果は「2:0」「0:2」「1:1」のいずれか。

 だが実際は、「2:0」「0:2」の二パターンのみ。

 それはなぜか。

「1:1」はそれぞれに1票となり、Aの2項目のいずれにも該当する。つまりポイント表に該当する項目は、どれか一つではなく、全てが反映されるものと想定した場合——「1:1」=4ptとなる。

 よって三人での戦いの中で最も避けるべきは、「1」を出さないこと。

 ではどうするべきか。

 その答えは、ルールの中にあった。


 ‟回答者の未回答(ポリグラフメットを外す)は無効票となる”


 ルールには上記の動作を行うことに対するペナルティは言及していない。そのため未回答を実行すれば、手持ちの票は「0」となり票には反映されない。

 師谷と蜜はこのイカサマに気付き、回答を放棄していた。

 そしてただ一人、玉利だけが純粋に回答をした。その結果が「1:0」。師谷の勝利となり、ゲームが終了。

 最後の最後、舐め腐った卑怯であり正当なるイカサマを行い、ルールを逆手に取ることで、ポイントが得られる仕組みになっていたという訳だ。


「「バタンッ」」

 扉から出て来る二人。

「ハハハハ……」

 その中で蜜が、既に大笑いしている。

 一方の師谷は無言を貫き、至って平静を装っていた。

「あのオバサン……ウケる、ハハハハ」

「タッタッタッ!」

 直後、近くにいたゆめが蜜へと近づいて行った。蜜の真正面に立ち、彼女はただじっと睨みつけている。

「何よ、アタシが何したっての? これはゲームなんだから。勝たなきゃ死んじゃうんだから。そんなに怖い顔して、可愛いお顔が台無しヨ」

 蜜はそう言ってゆめの肩にポンと手を当てると、そのまま風を切るように歩いて行った。

「でもさっき、焦ってタイピングミスして無効になってたよね」

「ああ? うっせ」

 口をつぐむゆめに対し、未来美が挑発するように言葉を放つと、蜜はあからさまに不機嫌を吐き出した。当初は仲良しげな二人の関係に、不穏な空気が生まれる。

『ビーーーン』

 そんな中突如、玉利の部屋の映像がモニターに映し出された。

 全員の視線が集まる。

「バンバンバン!!」

 閉じ込められた密室。その中でただ一人。彼女は壁を叩き、叫んでいた。だがその声は全く聞こえない。

『ガタン』

 すると部屋の天井が反転し、驚いた玉利が頭上を見上げた。

「まさか……」

 今すぐに、目を塞ぐべきだと思った。

 玉利の頭上には、垂直にギッシリと生えている無数の長い針。

『ブーーーン』

 直後、不気味な轟音を立てながら、針の天井は下へとゆっくり降りてくる。数えきれない鋭利な先端が、徐々に玉利へと迫っていった。

 まるで、アイアンメイデンかのごとく。


(……助けて)


 分厚い透明な壁を、必死に叩きながら。

「助けて」……と、彼女が何度も叫んでいるのがわかる。

 崩れきった化粧。両目に浮かぶ涙。その光景を見ているだけで、嘔吐しそうなほどに胸が締め付けられた。

 未来美と数馬は、既に目を背けていた。

 涙ぐむゆめ。一方郁斗は、ただ呆然と、その行く末を見つめた。

 彼女は繰り返しガラスを叩き、藻掻いている。それでも容赦なく下降し続ける針の天井。

 そして……。

「グサッ、サッ」

「グサグサグサグサグサグサッ……」

 あまりにも無残で、目を閉じざる負えなかった。聞こえていないのに、皮膚を貫く怪音が脳内に浸透してゆく。

 数十秒経ち。

 画面を見つめると、玉利の姿は見当たら無かった。

 そこにいるはずなのに……。

 赤い、真っ赤だった。

 まるでバケツ一杯の絵の具をぶちまけたみたいに。画面越しの映像は血の一色に染まっていた。

 再び目を伏せ、グッと歯を食いしばる。涙を流すゆめ。

 何で……、何でこんな……。

 きっと違う形で出会っていたら、世代の違う友人にでもなっていたかもしれない。……なのに。

 静かだった。訴えていたはずの悲鳴も打音も、最後まで六人には届かなかった。届いた所で、何ができるわけでもない。

 彼女は最後まで一人、孤独のまま。

 密閉された鉄の箱の中で、その生涯を終えた。



 ■第2ステージ

 ウラメシア ~裏目試合~


 ■クリア 

 浦城郁斗、師谷倫太郎

 小野前数馬、黒川ゆめ、

 水菜月蜜、桃野未来美  

 以上 6名


 ■失格

 玉利紗代子 1名(死亡)



 ◆



 ステージを終える毎に、人としての正常な感情を失っているような気がした。他の参加者も恐怖を通り越し、別人と化したかのような表情。狂いに狂い、壊されていく人格。それでも暴動は起きなかった。不思議なモノだ。

 その後クリアした六人は、指示に従い再びエレベーターに乗車した。

 ここは八階。次は七階か。どうせ各階ごとに、一人死ぬんだろ。

 もうこの楼閣に幽閉された時点で詰んでるって、わかってるのに……。

 郁斗は呆然としながら、光るランプを眺めた。

 8……7……6……チン。

 えっ? 通り過ぎた?

 停止したエレベーター。

 階を確認すると、そこは「六階」だった。

 七階は? 階ごとではない? 階数とステージ数は関係ないのか?

 考えてもわからない。分かるはずも無かった。

 エレベーターのドアが開かれ、郁斗たち六人は新たなフロアへと進んでいく。

 場内のレイアウトは、先程の第二ステージと類似していた。広い空間の中、正面の壁伝いには大きなスクリーン画面が見える。そしてその数メートル離れた場所に三つの台座。それぞれの台座の間隔は、一つ一つが離れた場所にあった。


 ≪デハコレヨリ、第3ステージを開始致します≫

 ≪ダイサンステージ——≫


 ≪ ‟アワセマス” ≫


 今度は一体、何を……。

 また意味の分からない五文字を言い放ってくる。


 ≪デスガ、その前に≫

 ≪ミナサマニハ、‟ペア”を組んで頂きます≫


 何? ペアだと? 

 ってことは……。

 次は団体戦、なのか?

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