第2ステージ 『ウラメシア』

第16話 裏目試合

≪デハバンゴウニシタガイ、各自ご着席ください≫


 淡々とした桐島のネズミ声が場内に再生されると同時に、「ブチッ……ビーン……」と音を立て、中央の液晶パネルに電源が付いた。


≪バンゴウハ、エレベーターを降りた順番となります≫


 ゲームはもう既に、始まっているというのか? いや、単なる順番だと軽視してはいけない。

 すると画面上に、ナンバリングと参加者の名前が映し出された。

 座席番号:左から順に、①~⑦ 

 ①黒川ゆめ

  ②小野前数馬

   ③玉利紗代子

    ④師谷倫太郎

     ⑤水菜月蜜

      ⑥桃野未来美

       ⑦浦城郁斗

 指示に歯向かえば「死」。抗う術はない。この楼閣の非情なるルールが残酷にも脳と体に刻み込まれていた郁斗たちは、言われるがまま指定された個室へと分かれ入って行った。

「ガチャン」

「わっ!」

 不意打ちで放たれる大きな音に驚き、声が漏れてしまう。入室した瞬間、部屋の扉が自動でロックされてしまった。ドアノブをガシガシと動かすものの、ビクともしない。閉じ込められた。でもそれは、ここにいる参加者全員が同じ。郁斗は即座に、部屋の中のいくつかの違和感に気が付いた。

 まず一つ目。部屋の中にはスタンディングデスクのような台が設置されており、その卓上に文字を打ち込むためのキーボードが埋め込まれていた。

 加えて二つ目。密室とはいえ、自分の声がやけに反響する気がする。だが一方で、他の参加者の声や物音は全く持って聞こえない。つまりこの室内は、外の音を完全遮断する防音室となっていた。

 そして三つ目。それは天井にあった。上を見上げると、頭がスッポリと入るであろうコードに繋がれた謎のヘルメットが垂れ下がっている。何だろう、嫌な予感がする。

 これから一体、何が……。

 郁斗が熟考するも間もなく、スクリーン画面が新たに切り替わった。


 ‟「ポリグラフメット」を装着してください” 


 ネズミ声は内部に届かないためか、文字だけでの指示。

 ポリグラフメット? ポリグラフ? 

 あの、垂れ下がってるモノか……。

 何かしらの仕掛けが細工されているに違いない。確信しながらも、郁斗は例のヘルメットに手を掛けた。メットの頭頂部分からは太いコードが伸びており、どこかに繋がっているのがわかる。電流でも流れるのではと思ってしまうような仕様。

 とはいえ指示は絶対だ。大いなる不安を感じながらも、郁斗は渋々装着してみた。


≪皆様、第二ステージへようこそ≫

≪ここからはこの「ポリグラフメット」を通じ、音声をお届け致します≫


 どうやらヘルメットの内部に、スピーカーが内蔵されているらしい。そこからは桐島のネズミ声ではなく、AIと思しき女性の音声が流れ始めた。


≪ではこれより、第八階層にて「ウラメシア」を開始致します≫


 第一ステージ同様、郁斗は液晶画面に視線を移した。


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■第2ステージ

ウラメシア ~裏目試合~


■ゲーム内容

一つのお題に対し「羨ましい」か「恨めしい」かを投票

‟出題者”と‟回答者”に分かれて行う。

票数結果によりポイントを獲得(※下記ポイント表参照)

ポリグラフメットにより投票は‟自動投票”となる


※ポリグラフメットは、対象者の嫉妬、憎悪、怒りなどの感情による脳波、呼吸、発汗、体温の変化を詳細にキャッチし計測。変化の振れ幅が一定以上になった時点で自動的に「恨めしい」と判断される。


■クリア条件

3ポイント獲得したプレイヤーから勝ち抜け


■ルール ~お題、投票について~

●出題者は順番にキーボードを使用しお題を入力すること(60秒以内)

●お題は1単語のみで連語は不可

●1度使用したお題は2度と使用できない

●出題者の未(誤)入力は出題無効となる

●回答者の未回答(ポリグラフメットを外す)は無効票となる

●選択がどちらでもない場合(計測周波に変動がない)は自動的に「羨ましい」へカウントされる

●残り2人となった時点でゲーム終了

●最下位に「死」を与える


■ポイント表 

・「羨ましい」>「恨めしい>1」 =1pt

・「恨めしい」>「羨ましい>1」 =1pt

・「羨ましい=1」 =3pt

・「恨めしい=1」 =1pt

・「羨ましい=0」 =0pt

・「恨めしい=0」 =0pt

・「羨ましい」=「恨めしい」 =0pt

※但し0ptを連続で出した場合には「-1pt」が加算される。


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 未だ第一ステージでの疲労が残る中での、おびただしい文字の羅列。

 おい……待ってくれ。頭がパンクしそうだ。こんな二択の投票で命を掛けようってのか。それに何だ、自動投票って……。

 郁斗はクラクラし、メット越しに頭を抱えるだけとなった。




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