第2話「家のこと」
支度をすませた俺はメイドに連れられ父親の部屋へ案内をされた。
「失礼します」
部屋には父親、母親が待っていた。
どちらも先程よりも落ち着いたようだ。
良かった。泣かれたままだったら俺は悪くなくとも針のむしろだしね。
「よくきた。アル。そちらへ座りなさい。」
二人の向かいのソファに座るよう促される。
そして、座ろうとしたのだけど腰を下ろすように座ることが出来ない。身体ちっちぇえ。
「アルスレイ様。失礼します」
ミリアに両脇からひょいっと持ち上げられ着席。なんだろう。謎の羞恥心が湧く。
あ、ソファの座り心地良きだわ。
「軽くつまめる物も用意した。食べられそうなら食べながら話をしようか」
そう言われ目の前のテーブルをみると、軽くつまめそうなスコーンのような食べ物が皿の上にのっていた。そして横から音もなく紅茶が置かれる。
「さて、どこから話していけばよいものか……」
困った顔をしている父親と母親。そりゃ困るよなあ。
なので話しやすいようにこちらから聞いてみた。
「僕、名前以外のことがさっぱり抜け落ちちゃったみたいなんだ。お家のことや家族のことを教えてもらえたら、もしかしたら少しずつ思い出せるかもしれないよ」
敬語で話すのも年齢を考えたら違うと思い、子供よりな感じで話してみた。ちょい気恥しい。
「そうか……そうだな。じゃあアルのことや家の事、大まかな国のことなども話していこうか」
お、国のことも教えてくれるのか。これは嬉しい。
「まずは家のことからだな。我が家はリース王家からカンザスの地を拝領しているオルヴァス家だ。爵位は伯爵を叙爵している」
おうふ。思ったより家格が高かった。
そしてリース王家、国の名前もリースかな。覚えやすくて良い。
領地の名前はカンザスと。固有名詞はしっかりと覚えていかねば。
「だからアルの名前はアルスレイ・フォン・オルヴァスだ。ここまでは大丈夫か?」
「うん。大丈夫だよ」
「何か思い出せたら遠慮なく言ってくれ。で、改めて言うのも変な感じではあるが、私が父親のアースレイ・フォン・オルヴァスで」
「私がお母さんのクレア・フォン・オルヴァスね。アルちゃん、さっきは泣いてしまってごめんなさい。大変なのはアルちゃんなのに……」
お、母ちゃんがやっと喋った。
大変どころかワクワクしててごめんなさい。
「アルは今3歳で、1歳になる弟のダリルがいる」
弟いたぁぁあー!
1歳となると掴まり立ちくらいの頃だっけ。
あとでほっぺた触りに行こう。
……というか、普通に顔が思い浮かぶんですけど……
「父様。今、ダリルの顔が思い浮かんだよ!」
「なに!?本当か!」
驚く父ちゃんとすでに目元を押さえている母ちゃん。
「うん。ダリルって聞いて顔が浮かんだよ。もしかしたら意外と早く思い出せるかもしれないね」
前向き発言で母ちゃんをなだめてみる。
「そうだな。一時的なものなのかもしれないな」
そうかもしれない。むしろ、他のことは思い出して自分に関することだけ思い出せなくて終わりそう。
「大陸や国のことに関してはアルはまだ小さいし、おいおい学んでいけばよいだろう。事故の前も知らなかっただろうしな」
たしかにね。3歳で知っていることなんてたかが知れてるものね。
「うん。そういえば友達とかはいるのかな?もしいるなら知っておきたいな」
友人にあって「お前誰?」みたいなのは相手が可哀想だろう。念の為確認をしてみた。
「いや、領内といえども何が起こるか分からないからな。アルはまだ敷地内までしか出歩いたことはないはずだ。そうだよね、クレア?」
「そうですね。アルちゃんはいつもお庭で元気に遊んでいたわ。安全だと思っていたお庭でさえ怪我をしてしまったのだけど……」
そう言ってまた目元を押さえる母ちゃん。泣きやすい人なのかな?
「それはそうだが目覚めてくれただけでも今回は良しとしよう。本当に心配したからな」
「心配をかけてしまってごめんなさい……」
「なに、色々と思い出してさえしまえばまた元通りだ。アルも遊ぶときは気をつけるといい」
両親どちらも優しくて涙でそう。
この両親の元に転生できたことが自分にとっては僥倖だろう。
「領内には魔物が出る場所もあるからな。今後、家の外に出ることも考えて少しずつ体力作りでもしていくか」
マモノ?まもの……魔物!
やっぱりいるのか!どんな感じの魔物なんだろう。あまり根掘り葉掘り聞くのもアレだから、あとで書斎的なとこに忍び込もう。書斎があるのかは知らんけども。
「そうだね。身体も動かせばそれも何かを思い出すのに繋がるかもしれないしね」
「よし。もう少し体調が問題ないか、日にちをおいてから改めて予定を立てていこう。さて、今日はこんなところか。アル、せっかくだからお菓子を食べていきなさい」
すっかり話をしていて忘れていた。
皿の上に盛られているスコーンみたいなのを食べてみる。
サクッとしていて美味しい。バターがきいている。紅茶も飲んで後味もさっぱりだ。
「美味しいね」
幸せそうに食べる自分を、両親は嬉しそうに見続けるのだった。
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