生き恥スキル 〜恥を忍んで最強へ〜

シャンテン

第1話「転生」




・・・・・・・


目を覚ますと、そこは知らない部屋だった。




「アルスレイ様!!!」




ドタバタと音を鳴らし、焦った様子で若い女が迫ってきた。



「痛みはございますか!?ご気分は!?」



ちょっとまて。色々とまて。

何がなにやら分からない。まずは「アルスレイ」ってなんぞ?俺は神山正木という名前で生きてきたんだが……



と、ふと自分の手をみてみる。

ちっさ。なにこれ?手、というよりお手てって感じじゃん。なにコレかあいい。


目覚めはベッドの上のようだ。

足にも意識を向けてみるが、たぶんちっさい。大人だった頃の力強さを身体から感じない。


これは……

もしかするともしかしたのか……?


とりあえず、おそらくメイドと思われるこの娘に返事をしよう。



「あぁ……大丈夫だよ。ただ、どうにも自分の名前以外のことがぼんやりしていて思い出せないんだ……」



「なんと……アースレイ様をお呼びしてきます!」



そう言って部屋の外へ駆け出してしまった。

ん〜、アースレイ様……たぶん父親かな?が来る前に現状をまとめてみようか。



・もしかしたら異世界転生した。年齢は3歳くらい。

・ぱっと部屋を見渡した感じだと中世のような雰囲気。

・メイド(らしき人)や「〜様」という呼び方から貴族、もしくは相応の立場の家格。

・メイドの格好がエロい。



こんなところか。

最後に状況に合わないおかしなことを考えたがしょうがない。だってエロかったんだもの。胸元からなんか溢れそうなんだもの。


ひとまず煩悩は置いておいて……

転生前の生活等がどうなったかも気になるところだけど、転生してしまったものはしょうがない。むしろしたかったので異世界ドンと来い。


またもやドタバタとした音が聞こえ、扉が勢いよく開かれる。




「「アルスレイ!!」」




とんでもなく顔の整った美男美女が部屋の中へ駆け込んできた。察するに両親だろう。



「アル!大丈夫か!?」

「アルちゃん大丈夫!??」



そう言って目の前まで顔を寄せてきた。

近過ぎて焦る。というよりこんなに間近に美男美女の顔が近づいたことなど、いままでの人生でなかったものだから固まってしまった。



「アースレイ様、クレア様。アルスレイ様は記憶が混乱しているのでお困りなのかもしれません」



メイドが助け舟をだしてくれる。

ナイスだ。乳メイド(仮)よ。



「アルスレイ、私たちのことは分かるか?」



おそるおそる聞いてくる父親らしき男性。

忘れられてしまったのではないかと気が気ではない様子だ。



「すみません……たぶん父様と母様でしょうか……。顔も名前も分からないのです……」



意識ははっきりしているし、シャキシャキしゃべることはできるのだが、自分の推定年齢を考えてみるとそれはできない。

目を覚ましたと思ったら記憶なくしてる癖に流暢にしゃべりだしたとか不気味にも程があるだろうし。



「なんてことだ……!!」



うなだれる父親に目元を覆ってしまう母親。

ホント、暢気に異世界転生喜んでごめんなさい。



「アルスレイ、という名前以外を思い出すことができないのです……僕は誰なのでしょうか……?」



とりあえずこの点だけは切実に知りたい。

今後のことも考えていかなければならないしね。



「アルスレイ、お前はオルヴァス家の長男で父親である私、アースレイと母親のクレアの息子だ。本当に……本当に思い出せないのかい?」



藁をも掴む思いで聞いてくるアースレイ父ちゃん。

すまぬ。全く覚えていないのだ。



「すみませんが……」



少しいたたまれない。

誰が転生させたか知らんがもうちょいなんとかならんかったのかね。



「そうか……分かった。ところで体調はどうなのだ?」



「起きてから今のところ特に問題はなさそうです。何処にも痛みなどはありませんし」



「では軽食でもとりながら少し話をしようか。アルスレイも自分のことを聞くうちに何か思い出すこともあるかもしれない」



「分かりました。では支度が出来次第メイドに連れて行ってもらいます」



「うむ。それではまた後でな」



そう言って母親の肩を抱き、部屋から出ていった。

なんだかなあ。知らない人とはいえ悲しませてしまうのは本当に申し訳ない。

どっかでここまで生きてきた分の記憶は戻ったりしないものかな。


というか元の人格はどこに……?



先程の乳メイドに聞いてみる。



「……あー、君の名前も思い出せないのだけど、なんていう名前かな?」



名前が分からないせいでそもそも呼び掛け方にも困る。



「はい。アルスレイ様。私はミリアと申します」



乳メイド(ミリア)だった。



「ありがとう。ミリアさん」



「そんな……私のことはミリアとお呼びください」



おっと。たしかにメイドさんに「さん付け」は立場的にダメなやつか。元日本人には少し抵抗があるなあ。



「分かったよミリア。ところで1つ聞いてもいいかな?僕はなんでベッドで寝ていたのかな」



「はい。アルスレイ様は3日前にオルヴァス家の庭にて遊ばれていましたが、足を滑らせ後ろ向きに転ばれました。その際に頭を強くお打ちになられたのです」



「そうだったんだ。それから目を覚まさずに今日になった、と?」



「はい。おっしゃる通りです」




なるほどねえ。

もしかしたら元のアルスレイ君は亡くなっちゃったのかもしれないな。そして空いた身体に俺が入り込んでしまったと。

確定ではないけれど、この線が濃厚な気がする。



「そうか。分かったよ。教えてくれてありがとうね。ミリア」



「いえ、滅相もございません」



「じゃあそろそろ支度をしようかな」



「承知しました。それではお着替えをお持ちいたします」




よし、ひとまず自分が何者なのか教えてもらいにいくとするか。

今日聞けるかは分からないけどこの世界のことも聞いてみたい。

そんなことを考えているうちに、着替えを持ってきたミリアが正面に立つ。



「それではお着替えをさせていただきますね」



ミリアが慣れた手つきで俺の洋服を脱がしていく。

そうか!貴族だから自分で着替えないのか。

自分で着替える気満々だったわ。


あれよあれよと着脱される自分。そして小さな身体の着替えなので、目の前で膝をつき手を動かす乳メイドことミリア。

するとどうでしょう。目の前には絶景が。

かといってさすがに凝視することはできない。


死の淵から生還した坊ちゃんが私の胸をガン見していたのよ〜、などとメイド仲間に噂されようものなら今後の人生に支障がでかねない。

というか勘の良い人なら人変わってね?くらい思いそう。


目線が向かいそうになるのを必死に堪えているうちに着替えは終了していた。はっや。





さてさて。

この世界のことでも知りにいってこようかな。

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