第十五話 魔力回復ツアー
ソーマさんに会ったことでラフェに心境の変化があったんだと思う。ラフェがはっきり「魔界へ帰る」と口にしたのは今回が初めてだった。これはいい流れだ。だけど問題なのは魔界の入り口を開く魔力が足りないということ。ソーマさんに会う前の日、ラフェは魔力の蓄積が現状30%くらいだと言っていた。魔力をためるための生活を二週間くらい続けた成果がこれだ。それにピンク光線を乱射したおかげで今の魔力はもっと少ないだろう。
このままでは魔力が完全にたまるまであと2か月以上かかる。今のいい流れに乗って魔界へ帰すために、俺は一か八か、ある作戦を計画した。
「それで、今日はどこへ行くんだ?」
「それは着いてからのお楽しみってことで」
土曜日の昼、俺はラフェを連れて学校を出発した。
前にラフェを河原に連れ出したとき、魔力がいつもより多くたまった。エクササイズ動画で運動するよりもランニングの方が効果があるのではないかと思ったが、ランニングマシンでいくら運動してもあの時のような効果はなかった。そこで、もしかしたら「場所」によってたまりやすさが変わるんじゃないかという結論にたどり着いた。だから今日は「魔力回復ツアー」と題して、効果のありそうな3つの場所を巡る。
ただし今回のツアーには何の根拠もない。ソーマさんの一件以降、高木先輩達には「魔力の回復を最優先にしつつ、父親と和解する糸口を探れ」と指示されている。今回の俺の計画を正直に話したら却下されるに決まっている。だから今回の外出は秘密で行う。もし何も成果が得られなかったと思うと今から胃が痛いが、それでも今は望みに賭けたい。
電車に乗って山の方へと向かっていく。駅に着いてすぐ、「今日は大人しくしてろよ」と釘を刺すと、「分かった」と言って本当に大人しく俺の後に続いた。前回のことを反省してるのだろうか、今も隣の席で静かに座っている。
20分ほど電車に乗り、降りた駅から少し歩いたところに一つ目の目的地はある。途中の店で花を買い、目的の場所まで歩いた。
「着いたぞ」
「ここは……なんだ?」
目の前には灰色の石がずらりと並んでいる。お盆の時期でもないし、周りに人はいない。
「墓地。死者の骨を埋葬しているところだ」
「ほ、ほぅ……」
この様子を見るに、魔界のお墓は日本と様式が違うみたいだ。そもそもお墓という概念があるのかも定かではないが。
「どうだ、魔力を感じそうか?」
俺の言葉に今回の目的を理解したらしい。
「魔力ってそういう事じゃない!」
「そうか……」
魔力って何となくダークなイメージで、死に関係するかと思ったが違うらしい。
まあいい。ここに来た目的はそれだけじゃない。
「ついてきて」
通路を抜けていき、一つの墓石の前で立ち止まる。
「ここに何かあるのか?」
「そう。ここには俺の家族がいるんだ」
水を入れ替え、途中で買った花を飾った。
「ふぅん、その花は私にプレゼントじゃなかったのか。ようやく日生が私の素晴らしさに気づいて崇め奉る気になったのかと……」
「ふはっ、何だよそれ」
ラフェが変なことを言い始めるから思わず吹き出してしまった。俺はお墓に飾った花を眺める。
「これは墓花って言って、お墓に供えるために準備されたものだからなぁ。花、欲しかったのか?」
「べっ、別にっ!」
ラフェはそっぽを向いてしまった。
女子ってよく分からないけど花好きだよな。綺麗だとは思うけど、飾るにも手間がかかるしそんなに欲しいと思わないんだけど……まあ、今度買ってやるか。
俺はお墓に手を合わせた。
じいちゃん、ばあちゃん、久しぶり。今日は二人に見てほしくて、連れてきたんだ。名前はラフェ。魔界の王の娘なんだ。信じられないよな。でも信じられないようなことがたくさんあったんだ。俺はラフェを魔界に帰さないといけない。二人にも力を貸してほしい。頼むよ。じいちゃん、ばあちゃん……
俺が手を降ろすと、ラフェが覗き込んできた。
「今、何してたんだ?」
「じいちゃんとばあちゃんに話しかけてたんだ。変な奴を連れてきたって」
「んなっ!? 変なやつってなんだ! ……でもそれならちゃんと自己紹介しないとだな」
そう言ってラフェはお墓に手を合わせた。
「はじめまして。私は魔界第二十四代王、ルゼリフ・ドリースの娘、ラフェ・ドリースだ。日生には……まあ、世話になっている。これからも日生をよろしく頼む」
言い終わると俺の方を振り向いた。
「どうだ、この完璧な挨拶は!」
「ありがとな。でも、口に出さなくてもいいんだぞ」
「ぐぬぬっ!」
ラフェは悔しそうに歯を食いしばった。俺としてはラフェがそう思ってるって知れて、ちょっと嬉しかったんだけど。
「じゃあ、次の場所へ行くか」
「おー!」
率先して墓石の間を抜けていくラフェの後ろで俺は振り返った。
見ててね、じいちゃん、ばあちゃん。
俺達は駅前に戻ってバスに乗り込んだ。
「次はどこへ行くんだ?」
「佐取峡。ここの観光名所なんだ」
佐取峡は地元の人達が自然を感じに行くくらいの地味な場所だった。俺もじいちゃん家に行ったときはよく連れて行ってもらった。それが最近、有名な風水師?だかなんだかがここをパワースポットとしてテレビで取り上げたことで一転。一気に知名度が上がった。パワースポットっていうくらいだから魔力も守備範囲内にしてくれないと困る。
バスを降りると、遊歩道の入り口には家族連れやカップルなどたくさんの人で賑わっていた。
「思ってたよりも人多いな……」
今日は高木先輩達に秘密で来ているわけでもちろん助けはない。トラブルに巻き込まれそうになったり、ラフェが魔法を使いそうになったら、俺一人でどうにかしないといけないんだ。そんなリスクを負っても今日に賭けていた。そのために色々と準備はしてきたつもりだ。
ラフェを見るとお気楽そうに周りを眺めている。
「すごいな! お店も人もたくさんだぞ!」
「そうだな」
遊歩道の入り口近くには小さいお店がたくさん並んでいた。土産屋、蕎麦屋……お、ジェラート屋なんて洒落た店もある。俺が昔来ていた頃は団子屋くらいしかなかったのに。
「すいません、ちょっといいですか」
目の前に三十代くらいの男の人が現れ、声をかけてきた。
「写真を一枚、お願いしたいんですが……」
その人の後ろを見ると、『佐取峡』と書かれた石碑の前に奥さんや子供達らしき数人が並んでいる。
「いいですよ」
俺はラフェの方を向いた。
「すぐ戻ってくるから、ちょっと待ってて」
「分かった」
何枚か写真を撮ってカメラを返す。早くラフェのところへ戻らないと……
「すいません、次お願いします!」
声の方を振り返ると俺の後ろには何人も列になって並んでいた。先頭にいた大学生くらいの女子グループの一人が俺にスマホを手渡す。
「カメラはここを押すと撮れる……って、いつもやってるから今さらですよね! それじゃあ、何枚かお願いしまーす!」
「いや、俺っ……カメラマンじゃ……」
俺の抗議は届かず、仲間とポーズを取り始めた。
ああ……これはきっと「巻き込まれ」が始まってる。こうなったらさっさと写真を撮ってやった方が早い。ラフェの方を向くと、大人しく立って待っているみたいだ。それなら大丈夫か。
六組ほど写真を撮ってラフェのところへ戻ると、頬を膨らませながら睨みつけられた。
「遅い」
「……ごめん」
「私、ずっと放置されてた! 私のためのお出かけなのに!」
「悪かったって。ラフェの好きなもの買ってやるから」
さて……蕎麦か、それともジェラートか。
「じゃあ、私あれやりたい」
そう言って指を差したのは「貸ボート案内」と書かれた看板だった。
「へぇ……」
昔来た時はこんなの無かった。近くで看板を見てみると、三千円でボートを借りてそれに乗って佐取峡を下から楽しめるというものらしい。
何がきっかけで魔力がたまるか分からない。せっかくここまで来たんだ。手あたり次第やってみるしかない。
「分かった。乗ろう」
「やった!」
ラフェは両手をあげて喜んだ。今回の計画、もちろん金銭的援助もない。今月の小遣いの約三割が消し飛んだ。
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