第2話気になる彼女
「だって彼女凄くカッコよくて美人だもの!」
「う……確かに並の男子じゃ勝てないかも」
「それにね、彼女を纏う雰囲気が好きなの」
「雰囲気か……分かる気がするぜ」
「僕はよくわかんないかな」
ホームルーム終わりで、各々が友達と会話したり部活の準備をする中、その少女の周囲だけ人はいなかった。避けられているのか。だが、そんな孤独を気にしていないような彼女の一見したクールさが周囲の空間をも冷やしたように澄んで見える。大きな雪山の頂のような神聖さすら感じられた。幾度とも女の子に告白した剣司ですらこの雰囲気は初めてだ。
「ねえねえ!本当に王子様とお話できるようにしてくれるのよね!?」
芽愛里に尋ねられた剣司だが少女を見つめそのまま動かない。
「剣司くん!」
「んっ!わ……わかってる、わかってるさ」
「もしかして、見惚れてなかった?」
「まさか!ちゃんと君の恋の応援をするから安心してくれよ!」
「だいじょうぶかなぁ~」
「あの子って確か……」
少女は教室を出る。
3人はその後を追って少女を監視、もとい調査を続けた。
「あの人って確か黒刃燐さんだよね」
「知っているのか燐」
「うん。美人さんだって有名なんだけど入学当初から周囲と壁を作って一人でいることが多いって」
「1学年上の先輩のこと知ってるなんて京君物知りだね」
「うん。そんな感じだからあることないことを噂されてるみたいで」
「京もしかしてだけどよ、その噂の出どころって」
「ごめん……不良たちが話してたの聞いちゃって」
「そんな奴らの話なんて聞くな。で、あることないことって」
言いにくい内容なのか京は言葉を探すような表情を見せた後、切り出した。
「それがあんまり良いことじゃなくてさ。彼女を夜の街でよく目撃されててね、良くない遊びをしてるんじゃないかって」
「そんなの嘘よありえない!王子様のことはよく知らないけど」
「芽愛里ちゃんの見立ては絶対、すなわちあり得ない!それに人をいじめる様な連中の言うことだ、真に受けちゃいけねえ」
「うん、僕もそう思いたい。現に不良たちが黒羽さんに関係を持とうと近づいたんだけど……返り討ちにあったんだって」
「男複数人を一人で返り討ちか。俄然興味がわいてきたぜ」
剣司は今までに感じたことの無い高揚感に包まれた。告白してきた女性達は全員魅力的だった。まだ告白していない同級生達だってそうだ。だけど彼女は全く違う。あそこまでミステリアスで危険な香りのする人は初めてだ。芽愛里との約束はもちろん覚えてはいるものの、なぜだろうか彼はそれを守れる自信が無くなってきた。
黒羽燐は帰宅しようとする様子も無く、校門から最も離れた場所へと向かっているようだった。
「この先って屋上だよね」
「孤高の王子様は一人屋上で物思いにたたずむ……素敵だわ!」
「少女漫画チックで素敵だね」
「待て二人とも、隠れろ」
屋上に行く扉の前に立った黒羽燐は、急に振り返りあたりを見回した。
剣司は直前に気がつき二人の手を取り、掃除ロッカーの陰にうまく隠れることができた。
尾行がバレたら恋愛成就どころか初対面で嫌われる。
なんとか身を隠そうと3人はわずかな物陰にハマろうと押しくらまんじゅうをするかのように密着した。
存在感を消そうと息を殺す。緊張で心臓がバクバク暴れる。
声が漏れ出しそうになる。
緊迫した状況から口だけで無く必死に目を閉じる芽愛里と京。
剣司は黒羽燐の様子を確認しようとそっと目線を向けた。
幸い剣司たちのことはバレていないようで別の場所へ目線を向けていた。剣司はひとまず安堵する。
そして、黒羽燐が再び振り返り屋上の扉を開けた瞬間。
剣司は彼女を見てゾッとした。
黒羽燐はゆっくりと屋上へ歩き出した。
それを確認すると3人はロッカーの陰から出ることができた。
「び……びっくりした……ごめんね芽愛里さん隠れるとはいえ体を押しつけて」
「隠れるしかなかったものしょうが無いわ。とはいえ、ナイスです剣司君」
「振り向くのを察知するなんて流石……剣司君どうしたの?」
剣司はジッと屋上の扉を凝視した。
まるでとんでもないような物を見た、緊張の張り詰めた表情。
すると、剣司は扉に向かって掛けだした。
「剣司君!?」
「王子様にばれちゃうわよ!」
二人の声を無視し剣司はドアノブに手を掛けた。
「俺の直感はよく当たるんだよ……!」
彼は戸惑い無く扉を思い切って開け屋上へ飛び出した。
困惑しながらも二人はそれに続いた。
15時。まだ太陽が夕日になるかどうかの時間帯。
「え……なんで……さっきまであんなに明るかったのに」
屋上は月の無い暗黒の夜に変わっていた。
「ここ学校の屋上よね。何でこんな」
本来あるべき屋上としての景色も違う物に変わっていた。
見下ろせる校庭は見当たらず、空間が別の時代にタイムスリップしたかのようだった。
コンクリート製のはずの屋上の床が砂地の道となり何処までも続いている、左右にあったはずの金網のフェンスは古い日本家屋に変貌していた。家屋の雰囲気は大昔の遊郭や旅館、料亭のような佇まいだ。
さらには無数の提灯が暗闇を薄ぼんやりと照らしていた。
まさに江戸時代の遊郭街の様だった。
あくまで様なのは提灯が糸も無いのに、不気味に浮いているからだが3人はそこまで気付く余裕が無かった。
なにせ、屋上が突然このような風貌へと変わったのが一番不気味だからだ。
「――まるで異世界だな」
剣司がぼそりと呟く。その冗談じみた発言が近からず遠からずだと言うことはすぐに分かることとなる。
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