第7話堺




あ!あのじいさんに聞いてみよう。


「すまないがじいさん、ここはどこの国かな」


「ここは、近江だよ」


「ありがとうよ、じいさん」


近江かまだまだ遠いぞ。

あ、あれは琵琶湖だ。あれを見ていたら聞かなくても分かったのに・・・




あ、関所だ。

何回も金を取られてうんざりだ。

もう金を払いたくないから遠回りでもしよう。

あ、横道があるぞ。

皆考えることは同じだ。


「ちょっと失礼しますよ」


え!なんか後ろが騒がしいぞ。

なんと勘付かれたか、何人も走って来てるな。


「この金の亡者もうじゃめー。そんなに金が欲しいか!」


お前らに捕まる俺様ではない。山に入れば俺は自由だーー。

あああ、遊び半分でスピードを落として走ってやったのにへばってるぞ。


「お疲れさん・・・もう先に行くねーー」





もう人の往来も多くて日本で一番だな・・・活気があふれてよ。


「あ!おじさん、ここ堺で一番の商人って誰ですか、できればその店に行きたいので教えてくれませんか」


「お、あんた結構でかい図体だね・・・なんか気に入った。案内してやるよ」


176なら高いよな、150で大人なんて当たり前に居るから。


「どうも田舎から来たもんで・・・」


「それにしては、堺の言葉が上手だな」


いやいや、翻訳されてるからだよ。


「あれが、今井宗久いまいそうきゅうの店だ。日本一の商人だな」


「そうか、ありがとうな」


気さくなおっさんだ。


店に入って「お頼み申します」とやんわりと挨拶。

なになに、視線がキツイのですが・・・


ちょっといい服を着た男が、ススススと目の前に来た。

俺も加賀でいい服を選んで着て来たのに、あきらかに見劣りしてすまう。

これは、やってしまったな。しかし、気後れしない。


懐の金塊きんかいを出して見せる。


あれあれあれ、急に態度が変わったぞ。


「触ってもよろしいでしょうか・・・」


「どうぞ好きなだけ触って下さい。色々と売りに来たので」


もう目の色かえて、触って、持って、音色まで聞いている。

音なんて鳴るかね。



どうぞどうぞと奥に案内されたよ。


あ!あれが今井宗久のおっさんか・・・やっぱり絹の服なんだろうな。


「今井宗久で御座います」


名を言われたよ。ここは、名乗る場面だぞ。

本名の吾妻豪は恥ずかしくて言えない。三言はもっとダメだ。


紀伊国屋文左衛門きのくにやぶんざえもんです」


「ほー、りっぱな名だ。色々売りたいと聞きましたが、どんな物がありますかな・・・」


金塊をみせたんだ。ババッと出してやれ。


透明に透き通ったガラスのコップ、そして硝石しょうせき


おおおお、やっぱり今井宗久は、驚いたぞ。



この硝石。

錬金術とアイテムボックスを連動させて硝石作りを試してみたんだよね。

じゃじゃあんと出来てしまったよ。


ハーバー・ボッシュ法が鍵だった。

ハーバーとボッシュが考えたアンモニア合成方法。

それは同時に火薬の原料となる硝酸の大量生産を可能にしたんだ。

『平時には肥料を、戦時には火薬を空気から作る』と言われる程に凄かったらしい。



錬金術で水を電気分解して水素を作るなんて簡単過ぎる。

そして空気中の窒素と反応させるだけだ。

温度と圧力と触媒しょくばいで一気に反応させてアンモニア合成をするんだ。

それからあれこれして硝石の出来上がりだよ。

気絶して忘れた部分もあるが、やってる最中に勝手に思い出してやってたんだよね。

便利過ぎて驚くってこのことかもしれない。




「それで硝石を、どれくらいお売りになります」


「30貫を売ります」


1貫で3.75キロで30貫なら112.5キロだ。結構重いぞ。


「ほほー、とんでもない量ですな・・・堺の商人衆と話し合ってもよろしいかな」


「どうぞ話し合って下さい」


「いつ頃お持ち頂けますかな・・・」


なんか真剣な顔でちょっと怖いなーー。


「明日には、持ってきますよ」


「代金の支払いに少々かかりますが・・・」


「前渡しでいいですよ。その方が品質確認できていいでしょうから」


「はじめての商いで信用されると悪い事は出来ませんなワハハハ」


あ、笑ってるよ。俺も笑った方がいいのかな。


「ははは」





人目のない所でリヤカーを出す。

もう荷物は積まれたままだから引張るだけだ。


リヤカーを引張っていると、もうガン見だよ。

だからって大八車だいはちぐるまは、操作性が悪過ぎるからな。

前に使って曲がった時に、家の柱におもいきりぶつけたよ。



あ~ぁ、やっと着いた。


「荷物、持ってきたよーー」


大勢出てきたよ。えええ、周りを警戒しながら何処かへ持って行ったよ。

え、なんでだよ。


「どうぞ中に入って下さい。お茶でも用意しますから」


ずずっと案内されて、あ!茶道する所か・・・やばいぞ。

わけも分からん人も座っているし・・・



「あのー、茶道はやったことがないので帰ってもいいですか」


「誰にも、はじめてはあります。どうぞお座り下さい。皆さん無礼講でお願いします」


これってダメじゃん。逃げられそうにもないなーー。

はじめてだから無礼講だと言われてもね。


「この周りには人はおりません。それで硝石は、どのような伝手で入手したのでしょう」


座っている人の目線が痛いよ。


「さる大名の方に頼まれました。なんでも硝石を作ってるそうです。名は明かせませんが長い取引きをしたいと言ってます」


「そうですか、長い取引きですか・・・」


なにやら皆の顔色をうかがってるなーー。


「分かりました。長い取引きをしましょう」


クンクン、これって火縄銃の縄の火種の臭いに違いない。

もしかして、俺を殺す積もりだった。

いやいや商人は怖いねーー。



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