1-14 熱いよね! 相棒ってさ!

 なんだかんだと人間、疲労がたまれば眠くもなる。

 衝撃の事実の一斉射撃の的にされていた俺だが、ベッドに入ると不思議とすんなり眠ることができた。

 気づけば日が昇り、朝が来る。

 時間ってのは残酷だけど平等だ。

 ベッドから起き上がると、昨日あれだけ痛めつけられたり酷使した身体は特に問題はなさそうだった。

 そういえば、昨日も倒れてここで目が覚めた時には特に痛みだとかはなかった。

 我ながら頑丈すぎないか、俺の身体。

 それも俺が『鬼』とやらだからだろうか。

 部屋を出ると、久遠寺・兄がすでにリビングにて朝食の準備をしていた。

 さすがに手伝わないのは悪いよな。

 やって来た俺に無言で盛り付けた皿をわたす兄に従い、テーブルに運ぶ。きっちり三人分の食事がちゃんとあることに昨日からありがたい限りだった。

 ただ礼を言っても、反応がうすいというか、

「かまわない」

 一言で終わらせるのはやはり、ちょっとばかしやりづらい。

 ……世話になってる俺がとやかく言えるものではないけど。

「おはよぉ……」

 しばらくして、ねぼけ眼な顔でそらがやって来た。ぼさぼさの髪と眠そうな目をこすりながら、来ているパジャマもすこしはだけ気味だ。

 さっと目をそらす。昨日の大泣きの時とはまた違うひどい状態をじろじろ見るわけにもいかない。

 けして背後からくる無言の圧に屈したわけではない。だから、じっと無表情に俺を見るんじゃないよ、久遠寺・兄。

「そら……さすがに来客の前だ。ちゃんとしてきなさい」

「……ふぇ」

 ぼんやりと寝ぼけている声だけが聞こえてくるが、すぐさまバタバタと走り去る音が聞こえた。

「お、おはよ〜ございますぅ……」

 またしばらくして、しっかり身なりを整えたそらが改めて朝の挨拶をしてくる。

 その顔が赤くなっているように見えるのは、気のせいということにしておく。

「おぅ、おはよう」

 何事もなかったように俺は返事をする。さっきのことは忘れておくことにしよう。

 それがきっと一番だと直感した。繰り返すが無言の圧に負けたわけではない。

 そして、朝食をすませ、食後のコーヒーまでももらってしまい人心地つく。

 さすがに片付けくらいはさせてもらいたいので運んだ皿を洗う役目を申し出た。

「そういえば、いつ来るのかな?」

 洗った皿をふいているそらがふとつぶやく。

 食後の片付けをそらも手伝ってくれて、兄の方は今ゴミ出しに出て行っている。

「あぁ、そういやいつ来るとか言ってなかったな。連絡先もわからないし、どうすっかな……」

「それまで待ってれば良いよ。良かったらいっしょに見る?」

「なにを?」

「銀河警視ギャンバーン!」

 ポーズをとるそら。……ギャンバーン。

「なんだそれ?」

「……昨日、お母さんがヒーローの人形とか言ってたからもしかしてと思ったけど、やっぱダメかぁ」

 そらは言いながらがくっと肩を落とす。

 名前からしてアニメか特撮ヒーローか?

「お前、特撮好きなのか?」

「当たり前じゃん!」

 ふと聞いてみた俺にそらはぐいっと迫ってくる。なんか迫力だしてくるな。

「銀河警視シリーズはもちろんだし、特捜隊、仮面マスク、ミラクルマン全部好き! あ、それにね、ちょっとマイナーなところで実写ロボのやつでギガントロボだったりも良いよね〜。あの明らかにミニチュア感満載の映像とか逆にそそられるっていうか——」

 水を得た魚のように、すらすらとその語り口は流れるようだ。

 昨日まではちょっとおどおどしたところもある大人しめな奴かと思っていたが、自分の好きを語るそらの口は絶え間なく俺の知らない特撮ワードをならべたてていく。

 これこそまさにマシンガントークか。

 そして、しばらく語りが続いた後、不意にはっとしたようにそらは黙り込んだ。

「どした?」

 不思議に思って聞いてみる。

「いや……その、つい調子にのって語ってしまったというか、興味ないのにごめんね」

 ばつが悪そうに視線をそらすそら。なんだ、一人で語り尽くしてたのが恥ずかしくなったのか?

「なんで謝るんだよ。べつに悪いことしたわけでもないだろ」

「……いやぁ、でも、あんな早口でさ、自分の好きなことばっかしゃべっちゃったし。キモかったかな〜って」

「好きなこと話す時なんてそんなもんだろ。良いだろ、そんだけ好きってだけなんだからさ」

 俺も模型作りに関しては熱中してしまうわけで、たまにほずみから冷めた目で見られたりしたなぁ。

 ……いや、あれは夢だったか。

「そっか」

 俺の言葉にそらは小さくつぶやく。なんとなくその顔がうれしそうに見えた。

「ああ、そういえばさ、ヒーローといえばわたし思ったんだ。昨日のわたし達ってさ、二人でひとつってやつだなって」

「二人でひとつ?」

「そ! 二人で一人のヒーローになる!」

 あ〜、なんかそんなのあったような気もするな。

「なるほどな。さしずめ今の俺達は相棒ってところか」

 何気なく口にした俺の言葉にそらの動きが止まる。

「相棒……」

 自分の口でもつぶやき、皿を持ったままぼんやりとしている。

 今度はどうした?

「良い!」

 そして、らんらんと輝く瞳でばっとこちらをふりむいた。

「良いよ、ゆう! 相棒! くぅ〜〜、や〜ば〜い〜!」

 一人もりあがっているそら。

 興奮気味なそらに取り残され気味の俺だ。

 ……昨日みたいに大泣きされるよりはいいか。

 それに、なんとなくそんなそらの無邪気な姿が俺を落ち着かせてくれる。

 俺一人だったら、きっと今、こんなに落ち着いてはいられなかったはずだ。

 これはなんだろう? 放っておくと危なっかしい存在がいるおかげで冷静になれているということかもしれない。 

 その後も皿をふきながらテンションの高いそらは、上機嫌に束ねた髪をゆらしていた。

 片付けを終え、やることもないし、そらの鑑賞会にでもつきあおうかと思ったところでチャイムが鳴った。

「昨日はよく眠れたか? 愛しの母が迎えに来たぞ」

 来訪は俺の母親だった。昨日と変わらずのからかい混じりの口調だ。

 思ったより早かったな。

 せっかくなのでそらの秘蔵DVDというのを見てみたかったが仕方がない。

「……じゃあ、世話になった。ありがとな」

「……うん」

 ちょっとしんみりとした空気になる。

 まだ出会って一日もたっていないがいろいろあって、そらには助けられた。

 感傷的になってしまうが、今は仕方がない。

「こらこら。勝手にお別れムードになるんじゃない」

 そんな俺達の間に遠慮なく割って入る母の声。

「お前達二人で来るんだ。言っただろ。これから続きを話す」

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