11 見上げるとそれは



「なんですかそれ!! なんですかそれぇっ!! 酷いですよ! ますたーは頑張ってたっていうのに……地球ですね!? 第一創造神か、第一創造神にちょっと話をしてきます! では――」


「ちょっーーーっと待って!! 神様を敵に回したくないから、やめて! 確かに文句の一つや二つは言いたいけど……でもだからって神様に言うのは……」


「ますたーが言いづらいのなら私が言いますよ! 創造神だけじゃダメですか!? その上の全統神にも文句を言ってやってもいいんですよ!!」


 エリルとあってから何時間が経っただろうか。

 お互いに話すことはたくさんあり、本当にいろんなことを話していった。僕の家族のこと、元々いた世界の話。向こうの世界の名称がたまに伝わらずに、一から説明するのはなかなか新鮮な気持ちになれた。

 その際に木の枝を用いて、地面に絵を書いて説明したりもした。


 エリルの話を聞く限り、この世界は地球にあったファンタジーのRPGロールプレイングゲームを元に作られたらしい、以上。

 以上だ。これ以降の話はそんなに聞けてない。

 途中で僕の家族とバイト生活になった経緯とかを話したら、それを聞いたエリルが物凄く憤慨してしまい、それをなだめる為に話がストップしてしまったのだ。そのまま今に至る。


 まぁ、でも、話はあんまり聞けなかったけどサポート役として来てくれたのがエリルでよかったと思った。どんな世界でも何とかこの人……存在? 可愛い少女とならやっていけそうな気がする。


「頑張ろうね~、エリル~」


「??? 頑張りますよ! ますた~、って何がですか?」


「第二の人生がんばろーって――」


「あ!!」


「――思って……ってどうしたの?」


「よ~く見ててください! ビックリさせます!」


 まるで先生の問題に答えたいと手を上げる快活な生徒の要素に加えてぴょんぴょんと跳ねる姿を見て、自然と頬が緩んだ。なんだろうこれ……幸せそうな人を見るだけで、こっちも幸せになる現象ってやつなのかな。


「散々びっくりすること味わっているから今更びっくりしないと思うけど……うん、見とくよ」


「では、行きます!」


 タタタッと僕から距離をとってこちらを振り返るとダンっと強く足踏みをし、手を斜め上に上げてニヤリと笑い。


「へーーーんしん!」


 くるっと上げた手を回し、自身の胸の前で手を突き出すと――エリルは目の前から忽然と消えた。


「えっ、突然すぎる!!」


 驚かないとか言っていたハズなのに、驚きすぎて突っ込んでしまった。

 漫画のコマ落ちのような感覚だ。本当に一瞬でそこにあったエリルの体はなくなったのだ。

 

「そんな戦隊ヒーローが戦闘服に着替えるようなポーズの後で消えるの!? エリル? エリルー??」


 あたりをキョロキョロと見回すがエリルらしい人影もない。そもそもが平原であるこの場所で消えることなど物理的に不可能だ。


「どこ行ったの、それ変身って言わないよ――」


「ばぁぁッ!」


「うわっ!!!!」


 真後ろから声が聞こえ、振り返ってみるがエリルの姿はそこにない。


「ええっ?? エリル、どこなの?」


(へへーん。意地悪しちゃいました)


 一瞬思考が止まった。

 頭の中にエリルの声が響いたからだ。


「頭の中から声が聞こえるってことは、もしかして……」


(はい! ますたーの体の中にいます! 私とますたーがリンクしてるからできるびっくり技です!)


「びっくりわざぁ……」


 なんでもありか?

 頭の中から声が聞こえるという体験はもちろん初めてなのだが、不思議と体が受け入れてるのに驚いてしまう。

 転生してからというもの、なんだか夢を見ているような感覚だ。地球にいた時にこんなことをされたら理解するのに何時間もかけるだろう。


(リンクしたことで魔素共有、精神同調ができるんです! 私がずっと隣にいたらますたーも好きに動けないと思ったので!)


「そう……。いや、別に困ったりはしないと思うけど」


(ほんとですかぁ? 多分困ると思いますよ!)


「わかったよ。……そうだ、ちなみに、また出てくることは出来るの?」


(できますよ! みててください!)


 僕の胸あたりから光の球体が体の外に出ていき、一瞬でエリルの姿にかわった。


「じゃーん!!」


「うぉお、すごいな……」


「ふっふーーん! もっと褒めてくれてもいいんですよ!」


 そう言って再び球体になり、体内に入っていった。


(はい! ここからはもうますたーの自由にしていいですよ! ちゅーとりあるは終わりです!)


「はは、本当にゲームみたい。でも、自由にしていいって言われてもなぁ」


 歩いてきた道を振り返る。

 こんな草原なところに放り出されて「どこに行ってもいいですよ」って中々厳しいものがあると思うのだけど。


「……まぁいっか」


 頭をかいて、来た道を背にして来た道に続くように歩いて行った。




      ◇◇◇




 どこまでも続く草原地帯……だと思っていたのだけれど、さすがにそこまでこの世界の文明は甘いものではなかったらしい。

 歩いていると、ちらほらと人工的に作られたものが目に入ってきた。家屋や大きな街のようなものではなく、立て看板や潰れた家屋とかそんな感じのばかりだ。


(あ! そうだ、ますたーますたー。転生者って言うのは内緒でお願いできますか?)


 この頭の中に響くのも、少し慣れてきた。


「はいはい? それはまた、どうして?」


(いやですねぇ、世界の情報を記録するところがあるんですけど、世界樹っていう。そこでますたーと出会う前に少し調べてみたんですよ)


「うん? 世界樹? ……え、と、うん」


(そしたら、転生者に関する情報が全くなくて……。だから、分かるまでとりあえず秘密にしておこうと思いまして)


「……あー……、っと。僕って確か何回目かの転生者だってエリル言ってたよね?」


(第3期目の転生者です。本来なら1期と2期の人がいるはずなんですが……どこにも情報が無かったので)


「……情報がない、んだ……?」


 世界の情報が書かれてる場所に転生者の情報がない。

 つまりは、どういうことだ? 記載漏れ?


「じゃあ僕ってなんて名乗ったらいいの?」


(村人……とか?)


「村人……とかでいいの?」


(……とりあえずは?)


「そっかぁ」


 村人かぁ。

 農耕の知識とか、酪農の知識とか全くないけどいいのかな。


「神様に聞いてみたら? あの白髪の」


(……うむぅ。そうしたいのは山々ですけど、実はあの神様に内緒で来てるんですよねぇー……) 


「え゛っ」


(内緒ですよ! お忍びなんです!)


 お忍びでサポートしに来たって?


「……配属されたって言ってたから、てっきり仲良しというか、部下的なあれかと思ってたのに」


(部下とかじゃないですよお! サポートとか、配属はもーっと上からのやつです! その証拠に、私この世界のことほとんど知りませんもん!)


 それで、サポーターとはいかに。


「何しに来たの? あっ、別に変な意味じゃなくて、意図ね意図。今期からサポートしにきたって言ってたけど」


(私もよくわかんないんですよねぇ、へへ。上から「行けえっ!」って言われたから来ちゃいました。あっ、でも! 任されたらからには、ぜんっりょくでサポートさせてもらいますよ! えっへん!)


 元気よく返事を返す姿が頭に浮かぶ。

 小さな体で胸を張って、鼻高々に、ドヤ顔かな。


(んむぅ、それでもやっぱり転生者に関する情報がないのは不思議ですよねぇ〜……。もう少し調べてきていいですか? ちょっと席を離すことになるんですけど……)


「ん、いいよいいよ。そこら辺は全部任せます」


(そうですか! なら、少しおやすみモードに入りますね!)


「うん、おやすみ〜?」


 お休みモード……。人間の睡眠するのと同じようなものなのかな? 

 球体になる人も休憩は必要だものな、不安だからずっとサポートしておいてほしいのが正直なところだけど。

 

「あっ! 佳奈のことを調べてきてって……エリルー……? 起きてるー……? もしもーし」


 とその後も何回か読んでみてもエリルからの反応が無くなったことで、一気に静かな時間が訪れた。


「まぁ、せかせかしてもダメか……。満喫、ねぇー……この世界を満喫かぁ」


 それにしてもあんなにのんびり人と話しながら外を歩いたのはいつぶりだろう。

 これからの人生はさっきまでみたいにのんびりと過ごすこともできるのか。僕がのんびりとかできるかなあ。のんびりできる自信がない。結局あれこれと予定とかすることを決めて駆けずり回ってそう。

 自分の今後を考えると、ネガティブな事しか思いつかないな……一旦考えるのやめる?


 このように絶賛頭が混乱しているが、転生した実感はまだない。


 たしかにボードと呼ばれていたモノでステータスを確認したりとか、髪型や髪色、目の色が変わっていたのは驚いたけど……。寝て起きたらまたベッドの上で、朝からバイトが始まるのではないかと考えてしまう。


「あー、もう考えるのやめよう。新しい世界だ! 夢でも今のこの瞬間を楽しもう! だってこんなに空も綺麗で……。綺麗で……って、あれ?」


 そう、綺麗な。雲一つない綺麗な夜空が広がっていた。



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