06 白の部屋



 ………………………

 …………………

 …………

 ………


「体の調子はいかがですか適正者さま」


 突然声が頭に響いてきた。

 ……誰だ?

 目を開くと、真っ白な空間が視界いっぱいに広がった。


「目を覚ましたか、適性者君」


 うつぶせで倒れていた体を起こして、声の聴いた方を向くと二つの人影の方があった。

 僕にそう呼び掛けているのは白髪で見た目が若く、長い純白な服を着ている子どもだ。

 

「第四創造神、適性者さまが驚いています」


「観測者君、いつまでたっても適性者君が起きないから心配していたのだが」


「それは連れてきた観測者のやり方が雑――」と言いながら、視線を上にあげて――「えぇーと、なんででしょうかね。疲れていたんでしょうか」


「疲れていたのなら仕方ない」


 小さい白髪の少年と話しているのはスーツ姿の女性。

 どこかで見たことがあると思い出そうとするが、何故か思い出せない。

 そもそも僕はなんでこんな所に……?

 今まで感じたことの無い記憶のぼやけ方だ、それも少し怖いほどの。


「そう頭を抱えないでいい。意図的に記憶混濁をおこしているだけだ。まっさらな状態じゃないと理解してくれないからね」


「記憶混濁……?」


 混濁、文字の通りだ。モヤがかかっているかのように濁ってる。

 要するに、目の前に記憶があるのにその実態が分からない状況だってことだ。

 

 記憶のことはひとまず置いておくことにして、よく周りを見てみることにした。


 真っ白な空間に自分含め3人。

 スーツの女性は観測者といってたか? 純白のローブに身を包んでいるのは第四創造神……創造神? 


「かみさま……って、え? いや、まぁ、えぇ?」

 

 整理してみた上で色々突っ込みたいところがたくさんあったけど、それ以前に自分の状況理解をすることが大事だな。


「これから君には私の創った世界へ行ってもらうのだが――」


「あの……ちょっといいですか?」


「「なんでしょう(なんだい)適性者さま(君)」」


 ハモった……。観測者って人に聞こうと思ってたのに。


「えーっと、なぜ僕はここにいるんですか? 神様とか観測者……の前にいる理由が分からないんですけど、僕、何か悪いことをしたりしました……? 酷い死に方をした、とか」


「君が転生適性者だからだね」


 わぁ、即答。 

 転生、転生って言ったか? あ、転生……? 死んだ? 僕、死んだの?


「……えー、っと。いくつか質問していいですか?」


「ダメだ、時間がない。適性者君にはこれから君のことを決めてもらうから、その時に聞くといい」


 ピシャリと断られ、時間をもらおうと挙げていた手を真顔で降ろした。


「いや……ふつうさ、くれると思うんだけど」


「なんて?」


「いえ、なんでも」


 第四創造神からの返答に僕は深いため息をつき、どこまでも白い空間の上を見上げた。

 なんでこんなことになったんだ……? 

 僕が何かしたのか?

 悩んでいても思い出せないんだから話は始まらない、か。なんか絶対僕より目上の人って感じがするし、駄々こねても無駄かも。


「……分かりました」


「じゃあこれから君のステータスとスキルとネームを決めていくよ」


「分かりま……せんでした」


 なんだそれは。

 ステータス、スキル……と言ったか?


「さすがに第四創造神の説明ではわからないと思いますので、説明しますね」


 横で聞いていた観測者が、ズイっと前に出てきた。

 不足していた大部分の説明してくれるみたいだ。



      ◆


 

 ここから先は早かった。

 気になったステータスやスキルの説明を簡単に受け、自分が欲しいと思ったスキルやステータスを『ボード』と呼ばれる半透明で四角形の物の上で手持ちの数値を振っていった。

 思ったよりスキルとかの数値が振れる場所が多かった。


 観測者からされた話をざっくりとまとめると、これから僕は今まで住んでいた世界とは違う世界に行くらしい。

 地球を創ったのが第一創造神であり、これから行く世界を創ったのがあの椅子に座って腕を組んでいるお子さん神――第四創造神らしい。あんな小さな子でも創造神なんだと。


 つまり、僕がいましている作業というのがこれから転生する世界は自分の技術や能力……分かりやすく言うと『速さ』『力強さ』『頭の良さ』等を設定しているのだという。

 そもそも数値化されていること自体に違和感を感じるが、これは第一創造神が造った世界から着想を得て、取り入れ、アレンジした部分となります、と教えてもらった。


『所謂、ゲームの世界です』真顔でそう言われ、吹き出しそうになった。

 

「僕の世界の住人は基本的に『ある身体的特徴』で才能を伸ばす方向がわかるようになっているのだけど、それでは職に偏りが生まれてしまうから、と最低限社会が回るようには乱数化させてだね。これがかなり難しかったんだ。だって、才能のないものを意図的に生み出すのも苦労したよぉ。残酷だろうけどねぇ」


「第四創造神、お静かに。システムの話をひけらかしたい気持ちは分かりますが」


 なんて会話を聞いた時には、権力図がよくわからなくなった。

 

「……適性者様、どうしました?」


「あ、あぁ。いいえ、なんでも。これを動かしてスキルポイント? を振ればいいんですっけ?」


 はい、と応えられてステータスボードなる半透明な板の上に指をなぞらせていく。

 気になる内容だったのだが、とりあえず……は考えなくてもいいか。

 

「このLUCKって項目は、幸運ってことですよね?」


「はい。あ、でも運っていうのはあまり……」


「じゃあとりあえず、全振りしとこ」


 これから知らないところに連れていかれるのだから運は必要だ。運はあっても困らないからな。


「目立つところはここくらい? あ、待てよ。『言語理解』は必要だ」


「そうなのですか?」


 隣にズイと近寄ってきた観測者にコクリと首を動かした。


「知らない土地に行くのに言語が理解できないと骨が折れるんです。英語の……あー、僕が住んでいた国以外で一般的に使われている言語があるんですけど、それを覚えるのが大変だったので」


「そうですか……いい判断だと思います」

 

 他にもたくさんあったのだが、いまいちよく分からなかったから後の全ては観測者にお願いした。

 オロオロしていた観測者に押し付けるのは悪い気がしたが、見ても分からないし、第四創造神に任せたら変なように振られそうだし……。

 真面目そうな方に頼んで間違いはないだろう。


「……選択が完了しました。先に選ばれていた元となる部分は触らず、適性者様がお進みなるであろう道でお役に立ちそうなスキル、ステータスを選んでおきましたので」


「ありがとうございます」


「かなりギリギリだったが、間に合ったな」


 ステータスも観測者が決め終えたと報告したところで、第四創造神が椅子から腰を上げた。

 すると今までも定期的に感じていた目眩めまいを強く感じ、座っているのでさえ厳しくなって地面――といっても真っ白だからそこに物理的な物があるとは分からないが――に手をついた。


「……っ?」


「この空間では長時間滞在するのは負担が大きいですから。適性者様も先ほどからめまいか頭痛がしているのでは?」


 観測者が心配そうに話しかけてくれるのを感じながら、僕は頭を抑えながら座り込んだ。

 

「そういえば観測者君、適性者君の最終的なスキルとステータスは――」


 観測者が手に持っているボードのようなものに目を向け、笑った。


「ユーモラスだな。成長するまで時間がかかるだろうが……これはなかなか、楽しめそうだ」


 その言葉を聞いた観測者の表情が、少し、歪んだ気がした――いや……これは、視界が……グラついてるからか。


「では、私は出ていくとしよう。適性者君、僕の作った世界を楽しんでくれ。家族を探すもよし、一人でスローライフも楽しいだろう。自由にセカンドライフを楽しんでくれたまえ! ただ、に、な」


 第四創造神はそう言うと、この空間から姿を消した。

 それを見ていた視界がさらに歪み、白く濁り、心地いい睡魔のような感覚が強く襲ってくる。

 第四創造神が消えたのを確認した様子を見せ、座りながらもふらふらしている僕を見て観測者が暗い表情をし、つぶやく。


「また――でした……か。どうか、私を恨まないでください」


 今度はノイズが走り、上手く言葉が聞き取れなかった。

 意識が朦朧とするのを必死に堪えて理由を聞こうとするが、俄然勢いを増すその感覚は止まることはない。

 うまく聞き取れなかった言葉に考えを巡らすりも早く、睡魔は体全体に行き届いた。

 ばたり。

 再び意識はなくなってしまった。

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