春にさよなら

無月弟(無月蒼)

　海外留学をしてみないか。最初先生から話を聞いた時、ボクは迷った。

　ボクの名前はナツ。もう一度言おう、ボクはナツだ。

　画家になるという夢を叶えるために、現在美大に通っているけど、海外留学は大きなステップアップのチャンス。本当なら、迷わず受けるべきなのだろう。

　だけどボクの心中は複雑で、その日は悩むあまり、夜になってもなかなか眠れなかった。

　留学すれば、日本じゃできないような勉強もすることができるのに。

　こんな大事なことを、ボクが決めてしまって良いの？　

　ねえ、教えてよハル。

　電気の消えた部屋の中。ベッドの上で横になりながらボクは彼女の……幼馴染みの女の子、ハルの事を思い浮かべる。

　ねえハル、君はどうしてほしい？　ボクは留学するべきだと思うかい？　

　暗闇の中、ボクは枕元に置いてあったスマホを手に取ると、カメラの自撮りモードを起動させる。

　まるで鏡のように画面にはスマホを手にする、ボクの姿が映し出された。

　……違う。これはボクじゃない。

　画面に映っているのは寝巻き姿の、長い髪をした女の子。

　ねえハル、君はボクの事を恨んでいるかい？

　君の体を奪って、のうのうと生きているボクの事を？

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