3-2 探索中止

 エモリさんが【そう騎士】を収納し終え、僕たちもそれぞれ魔石の回収が終わる。そして2階層のさらに奥を目指して探索を再開した。


 隊列を元に戻して僕たちは2階層を進む。


 それなりの数のゴブリンと遭遇したはずだけど、先ほどよりもかなり早い。間もなく3階層への階段の入り口に到着した。


 これから探索する3階層は今までの1・2階層とは違う。この階以後は異なる種類の魔物が同時に襲ってくる上に、出現する魔物の種類もホーンラビットが加わり3種類に増える。しかもゴブリンの武器も木の棒に加えて剣や槍も使ってくる。


 ゴブリンの棒臭い棒と違って、剣や槍は1本辺り100~300円。ホーンラビットも丸ごと回収すれば、毛皮の状態にもよるけどだいたい2000円位で買い取って貰える。もちろん、綺麗に部位ごとに解体してから買い取って貰う方が合計金額は上回るけど。


 未解体でも良い金額なので学生にとっては良い小遣い稼ぎ場、長期休暇中は多くの一年生が探索をしている。


 事前に決めたルートに従って探索していく。時々、坑内の分かれ道では他の探索者の戦闘音が聞こえてくる。


 進んでいく途中には、他の探索チームが付けた罠の目印もある。

 だけど、書き損じたのかのように基礎講習で習った目印と違っていたり、目印のルールを無視している場合もあるので基本的に信用しない。


 特に未熟な1年生の探索者が多いこの時期には、間違えた目印による事故が多く発生している。罠自体の危険度が低いので、大怪我をするまでには至らないけど。


 何回か戦闘も行い探索を続けていると、ある分岐でどちらからも奥から魔物の鳴き声と先行探索者たちの戦闘音が聞こえてきた。

 今までは幸いにも先行探索者と被らないルートを進めたので時間的な余裕もあった。だがここから先は先行探索者との話し合いが必要になりそうだ。


 とりあえず事前に計画していたルートで探索を継続する。

 そのまま進むと戦闘中のチームが目に入ってきた。

 チームは4名、対する魔物はゴブリン2・ホーンラビット3。この場所ではなかなか目にすることのない数だ。僕ならどう対処する?


 前衛を張ってた一人がゴブリンに傷を与えて、ゴブリンが膝をつく。

 …ここで止めを刺して、ホーンラビット2匹の相手をしている後衛のケア?かな?


 え? 止め刺さないの?


 前衛の人はそのまま後衛の支援に入ろうとしたが、膝をついたゴブリンの影に居たホーンラビットの体当たりをまともに喰らってしまった。

 結果論だが、僕の角度からは見えていたホーンラビットは彼には見えていなかったのだろう。ゴブリンに止めを刺しに行けば、その陰に居たホーンラビットに気が付いたはずなのに。


 まずい! このままじゃ全員怪我を…


 飛び出そうとした僕をマヨーリさんが止める。


「駄目だハルト。今飛び出して行ったら、横取り行為になる。

 向うから声がかかるまで待つんだ。」


 確かにそうだけど、このまま怪我をするのを指をくわえてみているのは… だけど戦闘中の彼らが、僕たちの存在に気が付いている様子は無かった。

 ホーンラビットの体当たりを喰らった人は、なんとか堪えてホーンラビットを倒し終えた。

 前衛の手が空いたので、他のゴブリンとホーンラビットも間もなく討伐された。

 


「なんでさっきの通路で逃げ出したんだよ。

 そのせいでホーンラビットに遭遇して囲まれたじゃないか! いててて…」


「…でも、とりあえず全部倒せたからいいじゃないか。」


「これだから、根性のない生産系の奴と組みたくなかったんだ。」


「それを言うなら、考えなしに突っ込んで…

 その穴埋めるのも大変なんだぞ… ほんと脳筋は…」


「なんだと! もう一度言ってみろ!」


 戦闘でかなり疲労したのか、ぐったりと行動の壁に背中を預けて座り込みながらお互いに罵倒し合っている。

 僕はゆっくり近づいて話しかけた。


「ちょっといいかな? 休んでいる所で申し訳ないけど。

 ここから先、僕たちの探索チームが先行させてもらっていいかな?」


 僕が話しかけると、一人が僕の顔を見て仲間たちに声をかけた。


「おい、こいつ。いつも中級講座でかわいい子を2人連れている奴だ!」


 何だか誤解されて変な目立ち方をしていたようだ。

 確かにアヤはものすごくかわいいそれについては異論はない。だけどカエデは中身が残念なんだけど。


 僕をじとりと見て、話にカエデが割り込む。


「かわいいって、私の事?

 ふ~ん、なかなか見る目があるじゃないの。戦いはへたくそだったけど。」


「「「「 !!! 」」」」


 こら! 残念カエデ! 当人を目の前にして「へたくそ」とか口に出すなよ!

 あ… ほら、下向いちゃったじゃないか。


「とにかく、ここから先の探索。

 僕たちのチームが先行させてもらっていいかな?」


「女と一緒に探索してるからって調子に乗るな!」

「そうだそうだ! ふざけたこと抜かすな! ちょっと休んでただけだ。」

「…おい…ちょっと待て… こいつとっしょに居るあの後ろの人って…… 

 もしかして【そう騎士】のエモリ先輩じゃないか?

 でも、あの目立つ【そう騎士】がいないけど…」

「他にの人も見たことが… あ! もう一人のかわいい子もいる!」


 彼らは後ろから歩いてきた、寮の4人にも気が付いた。


「全員一年生か? 指導探索に同行している上級生の姿が見えんが?

 どこに居る?」


 エモリさんがそう質問すると4人とも下を向く。

 そう言えば上級生がいないな。


「まさか、お前たちだけで探索してたのか?

 許可が下りたばかりの今月は一年だけで探索可能なのは2階層までのはずだが?」


「……提出した計画書は2階層までだったんですけど…

 思ったより簡単に探索が出来たので……これなら3階層も…」


「それに…同行指導をお願いした寮の先輩が…」


「先輩がどうした?」


「…探索で買い取って貰った金額の半分を…」


 エモリさんの雰囲気が一気に豹変した。


「お前らはどこの寮だ。」


「僕とこいつは146寮です。」


「「おれたちは073寮です。」」


「ウジマとマンダウか… あいつらぁ!!!!」


 どうやら二人とも3年生で、いろいろ噂のある上級生のようだ。

 そもそも指導探索に同行するのにお金を取るというのは、学術院的にかなりの問題になるはず。

 でもその前に彼らを安全に退出させないと…


「本来なら、探索を中止して… 報告しないとまずいんだが…

 ハルト、お前ならどうする?」


「計画外探索の違反だから、報告はしないとまずいですよね。

 でもそうすると… 今回の僕たちの探索は中止か…

 それに彼らには罰則も…」


「そうだな。許可の剥奪と最悪は退学処分も考えられるな。」


「「「「そんな…」」」」


 彼らはやっと自分たちがしでかしたことの大きさに気が付いた。


「マヨーリ。こいつらを2階層まで引率してくれるか?」


「仕方ありませんね。2階層へ上がる階段前でいいですか?

 それならそんなに遅れずに、4階層の階段前で合流出来ますけど。」


 彼らがこのまま2階層に上がって、帰還すれば今回の事は表には出ないけど…

 でも、下級生から巻き上げようとした上級生は…



 結局、僕たちは今回の探索を中止した。

 マチカさんによると、彼らが『しっかりと経緯を話せば、処分も多少は軽くなる可能性が高い』と言ってくれたこともあって、彼らのその決断を後押しした。


 彼らが討伐したホーンラビットは、3階層に入り込んだ証拠として持ち帰った。


 僕たちは探索を中止して帰還した。もちろん彼ら違反行為をした4人も一緒に。

 赤の門レッドゲートの広場を出て、扉の脇の機械に学生証をかざし退出記録をする。今回の大幅な前倒し退出は探索計画に何かの不備があったかを確認をされる事になる。

 僕たちは中央管理棟の買い取り窓口に行き、途中まで討伐して回収した素材や魔石を提出してその場で今回の件を報告する。さすがにお昼を過ぎたばかりのこの時間はガラガラだ。

 窓口の男性職員は僕たちの報告を聞いて、仕切りの奥に消えていった。


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本日から、更新時間を21:00に変更いたします。

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