覚醒する力

3-1 チーム228の探索

 本格的な最初の探索に向けて、ハルトはエモリの助言を受けながら教務課に提出する探索計画書を書いていた。


 1回目は夏季休暇最初の「土」の日、メンバーはハルト達3人に加え、エモリ、マチカ、マヨーリ、サキの計7人、それに加えて小太郎と小次郎の2匹。

 かなりの大所帯だが日帰りで5階層をある程度まで探索をして戻ってくるには充分だろう。

 計画書の探索開始は朝9時、退出予定は18時としてある。実際は17時には退出の予定だ。

 

 入場時間のずれはさほど問題にならないが、今回のように日帰りの計画書で申請した場合、退出時間を超過した時点で反則金が発生。2時間超過すると救出隊が組織され始め、その救出隊にかかる費用は完全に実費となる。

 救出隊の参加者一人/時当たり2万円、そのほか薬などの消耗品も実費として加算される。

 過去に退出の手続きを行わず帰宅してしまったチームは、100万円を超える金額となり支払いが出来ずに退学処分になったという。

 その問題が発生後から学生証による退出管理が行われるようになった。それ以後大きな問題は起こっていないそうだ。


 前々日の「木」の日に計画書を提出、無事に許可が下りた。

 書類に書いたチーム名は非常にベタだ。

 『チーム228』

 だれも反対していなかったから問題は無いと思う… 無いよね?


 そして探索の当日を迎えた。

 朝から容赦ない日差しが照り付けている。


 中央管理棟までは馬車を使わず、自分の足で走って移動することになっていた。とは言っても走るのは男4人+カエデの5人。アヤとサキはそれぞれ小太郎と小次郎に乗って移動した。それを横目で見て悔しそうなカエデの顔が面白かった。


 僕も毎朝学部の敷地の外周を走っていたおかげで、途中で息切れすることも無くなっている。今ならエスギー家の警備兵の訓練に混ざって…

 あの時の走った後の出来事を思い出し、背筋に寒気が走った。


 中央管理棟の到着して、いくつかの頑丈で大きな扉を潜って赤の門レッドゲートの広場に向かう。

 最後の扉の脇の機械に学生証をかざし入場の記録を登録する。

 帰る時は忘れずにここで退出登録をしないとな。


「よし、では今から探索開始だ。

 計画書を提出したハルトが隊列を指示してくれ。」


「はい。

 斥候役はカエデ。お願いします。」


「りょ!」


「前衛、マヨーリさんと僕。マヨーリさんお願いします。」

 

「わかった。左利きの僕が左側でいいよね。

 (でも僕は知っている、右手でもかなり強いのに)」


「はい、お願いします。

 中衛は、マチカさんとアヤ。

 マチカさんは全体の指示をお願いします。

 アヤは状況に応じて牽制や補助に入ってください。お願いします。」


「うん。任せて。」


「わかりました。」


「最後に後衛はエモリさんとサキ。

 エモリさんは危険だと思ったらゴーレムを使用してください。

 サキは、小太郎と小次郎で後方の警戒をお願いします。」


「ゴーレムは最初から出さなくてもいいんだな。」


「はい。一日探索するので、なるべく魔力消費は押さえておきたいですから。」


「お兄さまと一緒… ぐへへへへ…」


 最後の人は… まあいいか。小太郎も小次郎もかなり強いから問題はないだろう。


「それではみなさん。ご安全に!」


「「「「「「ご安全に!」」」」」」


 僕たちは隊列の順番通りに赤の門レッドゲートを潜った。



 1階層に出てくる魔物はもう知っている。ほぼスライムだから問題はない。

 僕とマヨーリさんは、この日の為に用意した短槍を手に取る。穂先は普通の鉄だ。


 カエデが5mほど先を行き、罠の解除と目印をつけていく。

 罠でも落とし穴系は解除できないからね。

 すぐにカエデから合図がきた。スライム:右2・左1


 僕とマヨーリさんで難なく排除して進んでいく。


 すぐに2階層に下りる階段の手前まで来た。ここでマチカさんに、ここまでの対応の修正点があるか確認する。


「うん。問題ないね。隊列もこのままで良いと思う。」


 そして2階層に入る。

 やはり階段の出口付近にゴブリンがたむろしていたが、カエデ含めて3人であっさり倒した。今回は魔石を回収する際に返り血を浴びずに済んだよ。

 なお、売る価値もないと判明したゴブリンの棒臭い棒は回収していない。


 計画書を提出した時に、5階層までの地図を入手して探索ルートも検討してあるので順調に探索が進んでいく。


 2階層のほぼ中心部。ここは広いホール状の部屋になっていて、他のチームが探索を終えたばかりでなければ常に10匹前後のゴブリンがたむろしている。

 先行して入り口から内部を確認したカエデが戻ってきた。


「ゴブリンが11。左右に4匹づつ、中央の奥に3匹。」


 7人で手分けして…でも組み合わせはどうしよう。


「とりあえず手分けして殲滅することになりますが…

 皆さんの組分けをどうしたら…」


「そうだよね。僕たちの実力を知らなかったね。

 今回は僕が決めるよ。」


 マチカさんがそう言ってくれたので助かった。


「お願いします。」


「じゃぁ、正面の3は僕とマヨーリ。

 右の4はカエデとハルト。左の4はアヤ様とサキ。そして小太郎と小次郎。

 退路の確保はエモリ先輩。たのみますね。」


「左の4は私と小太郎小次郎で充分だよ。

 アヤ様は右の4に行ってもらった方がいいと思うわ。

 これからも学部で探索チーム組むのでしょうから。」


「サキがそういうなら任せるけど。4匹だよ、大丈夫?」


「問題ないわ。マチカが知っている昔の小太郎と小次郎じゃないから。」


「わかった。ではアヤ様はハルト、カエデと一緒に右の4の対応を。」


 僕たちはマチカさんの指示に従って、ホールの入り口に待機する。


「行くよ!」


 そう言って走り出したマチカさんとマヨーリさん。その後を追うように僕たち3人、その後ろから風の様に走る小太郎・小次郎と少し遅れてサキ。最後はエモリさんがホールに入ってすぐに、収納腕輪マジックバングルから【そう騎士】を取り出し起動して出口を確保する。


 僕とカエデが身体強化を使って、一気にゴブリンとの距離を詰める。その後をわずかに遅れてアヤが続く。

 僕はゴブリンの脇を走り抜けながら刀を一閃。喉を切り裂かれたゴブリンが倒れる姿を視界にとらえつつ、周囲に視線を送る。

 カエデもアヤも問題なさそうだ。そのまま残っていたゴブリンに刀を振るう。


 4匹のゴブリンにしっかり止めを刺して、ホールの中を確認する。

 マヨーリさんとマチカさんはもちろん、サキと小太郎・小次郎も難なくすべてのゴブリンを倒し終わっていた。

 マチカさん達が倒したゴブリンは、全て首を撥ねられていた。だけどサキさん達の方は… 頭が潰れていたり、手足が千切れバラバラになって… かなりえぐいことになっていた。


 そんな中で、エモリさんだけが暇そうに立っていた。



--------------

 元総合受付主任のオラシモは入学手続きの件で総合受付から外されて、魔導学部の教務課に異動させられていた。

 オラシモはその人事異動に納得していなかった。


 エスギー家と縁もゆかりもない学生が、エスギー家の家宰の署名が入った書類を持ってくれば、私じゃなくても疑っていたはずだ。

 あの時窓口に居たあの女は、元の受付窓口に戻っている。なのに私だけがこんな理不尽な仕打ちを受けるのだ。

 元はといえば、あの女が余計なことを考えて気をまわしたせいなのに。


 給料こそ変わらないものの学生の数が少ない魔導学部の教務課は、学術院内では下に見られている。しかも異動してきた経緯についても、話がどこからか漏れていた。

 そのせいで教務課職員の間で噂され毎日が非常に息苦しい。


 そんな環境で仕事をするのは苦痛でしかない。

 私はいつしか精神的に病み、治療の為に頻繁に医薬学部の病院を訪れていた。


 そんな時に私は、病院の待合室である人物から声を掛けられた。


「長期休暇中にある学生の探索申請が有ったら、その予定を教えてくれないか。

 対価はしっかりと支払わせてもらう。」


 その人物は、あの忌まわしきエスギー家の関係者を名乗った。


 私は当然のようにそんな話を無視をした。


 エスギー家のおかげでこんな目に合っているのだから当然だ。


--------------

昨日投稿を休んだので、本日21:00にもう一話公開いたします。

明日以降は毎日21:00投稿に変更となります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る