1-3 旅路 ミオカ~ゴーエ

 食後に出されたお茶を飲みながらどのルートで皇都に向かうか悩んでいたら、カウンターの内側から店主が声をかけてきた。


「さっきから難しい顔してるけど、名物料理は口に合わなかったかい?」


「あ、えっと…違います。とても美味しかったです。

 これから皇都に向かうのですが、どうやって行くか考えていたんですけど… 日程にある程度の余裕はあるんですが、徒歩で向かうには遠すぎるし… 正直あまりお金に余裕が無くて…

 だからと言って魔導列車を使うわけにも… 途中の街での宿泊代も考えたら… 足りそうにないですし…」


「そりゃぁ難儀だな。

 ここから皇都に向かうのか、若いのに行商でもしてるんかい? 

 だけどそれなら役場前からの乗合馬車でゴーエに向かった方が良さそうだぞ、途中に大きな宿場町が無いから行った先の村で野営になるけどな。

 でもその分料金も魔導列車に比べたらかなり安いはずだ。

 ゴーエに行けばそこから先は宿もあるし、そこそこ馬車も数が出ているからな。それに確か…ラア川をも… たぶんあったと思うぞ。

 役場は店の前の道を右に行けばいい。だた各方面への乗合馬車は、朝と昼の2本しか出てないらしいから気をつけな。」


 思わぬところでいい話を聞いたよ。

 ゴーエまで行けば船に乗れる! その料金は少し不安だけど…


「そうですか。ありがとうございます、助かりました。」


 翌朝は教えてもらったミオカの街の役場前に行き、何台かの馬車に行き先を尋ねて回った。

 何人もの御者に尋ねて、なんとかゴーエ方面の馬車を見つけて出発。これから数日間は馬車移動で楽が出来そうだな。


 ギシギシ… ガガッガンッ…

 ドンッ!ギシッ!… ガガガンッ!


 だけどすぐに思い知ってしまった。

 確かに歩くよりはましだが、乗り慣れない馬車で余り整ってない道から伝わる振動、時折小石に乗り上げた時の突き上げるような揺れ。それがお尻を直撃してくる。

 お尻が六つに割れそうなぐらいに痛くなってきたぞ。


 一緒に乗っている乗客を見ると、持ち込んだ自前の毛布を折りたたんでお尻の下に敷いている。そうすればいいのか!

 すぐに足元の背負子から毛布を引っ張り出して畳んでお尻の下に敷く。

 うん、かなり楽になった。

 あとで知ったが、乗合馬車に乗る時の常識なんだとさ。


 定食屋の店主も言っていたが、宿泊できる様な大きな町はないので途中の村の広場を借りて野営をしながらの旅になる。

 乗車時に馬車内の車中泊をするか聞かれたが、割増料金になると言われた。元々野営の覚悟と準備をしていたので車中泊は断っている。手慣れた感じで毛布を出して包まるとあっという間に寝れる。お尻痛いけど。


 順調に旅は進んで、2日目はガーヤという街から少し西に離れた村で野営、3日目の昼過ぎにゴーエの街に到着した。途中で雨が降らなくて本当に助かった。


 宿を探してウロウロしたが、さすがにゴーエの街は大きい。皇都に近づくほど街は大きくなり、そしてそれに比例するかのように物価が高くなっていく。

 歩き回って見つけた宿は夕食無しでも一泊3000円、財布の中の残金を見て出てくるのはため息ばかり。だが、ため息で財布の中身が増えるわけでもないのでさっさとその宿に決めて部屋に荷物を置く。


 ゴーエに到着するまで11日、後8日で入学・入寮手続きを終わらせなければならない。これからの移動も考えると思ってた以上に結構ギリギリになってしまったな。

 再び徒歩にするか、馬車にするかまた悩む。

 そういえば「ギノーヤの店主」は皇都へ向かう船が出ていると言ってたよな、1日でどこまでいけるのかな? 少し調べてみるか。


 夕食は屋台で簡単に済ませてることにして、そのついでに調べてみよう。

 宿の受付に行き、部屋の鍵を預けお薦めの屋台と船着き場の場所を聞く。船着き場といった時にかなり怪訝な顔をされたけどね。


 まだ日が高いので先に船着き場に向かった。石造りの立派な桟橋には荷物を満載した魔導貨物船が何艙も停泊している。

 だが辺りと見回しても、旅客船らしき船はどこにも姿が見えない。


「本当に…ここでいいのかな?」


 あちこち見て歩いている間に気が付くと、周囲は倉庫しかない。一体ここはどこだ?

 どこに行けばいいのかわからない…困ったぞ。


「おい! ウロウロするんじゃねぇ! 荷下ろしの邪魔だ!」


 怒鳴られて驚いて振り返ると、荷物満載の荷車を曳いている髭面で筋骨隆々の厳ついおじさんが睨んでいた。


「すみません、すぐにどきます。

 …あの …少しお伺いしたいのですけど、皇都方面に行く客船の船着き場はここでいいんですか?」


「はぁ? こっちは忙しいんじゃい!

 …皇都か…ほぅ、そうかい。 …ふむ。なら…そうだな…

 荷下ろし手伝ってくれたら、教えてやらんこともないがな。」


「わかりました。何をすればいいんですか?」


「とりあえず、このクッソ重い荷車を押してくれるか。

 倉庫についてからは、積み荷を降ろしてくれればいい。

 船員が怪我して休んじまってるから、船の到着が遅れちまった分を取り戻さなきゃなんねぇ。」

 

 それからは日暮れまでの時間、目一杯荷下ろしの手伝いをした。


「ガハハ! その歳でそんなに上手く身体強化が使えるとは思っていなかったぞ、大したもんだ。

 おかげでかなり早く片付いたぞ。

 どうだ、このまま俺の船で働かないか? それなりにいい給料も出す。そういえば名前を聞いていなかったな。

 名乗って無かったな、おれはフナトだ。この貨物船の船長をやっている。」


「僕はハルトと言います。

 ありがたい話ですけど。皇都学術院に入学するので、8日後までに皇都学術院の学生寮に到着しなくてはいけないんです。」


「なるほど、それで客船の船着き場を探してたのか… フーム。」


 一緒に荷下ろしをしていた船長のフナトは顎に手を添えて何かを考えこんでいる。

「実はな… そもそもゴーエから皇都に向かう客船自体が無いんだ、客船自体はガーヤの街から出ているんだが。騙すような真似をして申し訳なかったが。

 そこで相談だ。

 明日の午前中に荷物を積んでから、皇都の倉庫までラア川を下る予定になっている。荷物の積載を手伝ってくれるなら、船に乗せても構わん。皇都の倉庫で荷下ろしの後、運び込むのも含めて働いた分の給与も出す。どうだ頼まれてくれんか?」


 ガーヤ… 昨日通過した街だよな。大失敗だな。


「皇都の倉庫までは、どれぐらい時間がかかるんですか?」


「昼に出船すれば、翌日の昼前には到着する。到着したら積み荷を降ろして倉庫に運び入れて夕方前には作業は終わる。

 明日は船上で寝ることになるが、船なら寝れる場所はある。飯もこっちで用意するぞ。

 どうだハルト?」


 手伝えば、明後日の夕方には学校に向かえるのか。かなり余裕ができるな… 宿代も浮くし手間賃ももらえるのか。それなら断る理由は無いな。


「わかりました。よろしくお願いします。」


「そうか! 助かった。明日の朝8時にここに来てくれ。

 そうだ晩飯に付き合え。こんな時間まで突き合せちまったからな。ガハハッ!」

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