転生した傀儡師(ゴーレムマスター)でも、動かせたのは小さなものだけでした。 

舞後乃酒乱

プロローグ 約定から追放された世界


 いにしえより続く、とある


 一方は地球と呼ばれる星のある世界。もう一方はそれ以外の世界。

 「あることわり」に大きな違いがあった。

 

 他と比べ、地球のある世界は魔法や魔力ということわりを極限まで減らすことを選択し、その代わりに次々に生命が誕生してくる世界であった。

 魂は高みを目指して進化していく。

 しかし増えすぎた生命の弊害として、輪廻りんねに戻れず虚空を漂い消滅する魂もあった。


 一方、魔法や魔力ということわりを使うことを選択した世界。生命が生まれにくくなり、結果として魂の進化が起こりにくくなっていた。

 そのような世界にとっては、魂が虚空に漂い消滅するというのは耐えがたい事であった。

 無為に消滅させてしまうこと、他の世界の神々は見逃せるはずがなかった。


 そこで、地球のある世界とそれ以外の世界神々は、互いにとあるを結んだ。

・地球のある世界からは、輪廻りんねに戻れず、虚無へと還るはずの魂の譲渡。

・魂を譲渡された世界は、その魂の代償として、極わずかな世界を形作る力の提供。


 その力の提供を受けた地球のある世界は、さらに多くの生命が誕生して溢れてますます輪廻に戻れない魂が増える結果となった。


 どちらの世界が…などと優劣や善悪を論じる意味もない。

 ただ、そういった状況があるだけ…。



 の魂は、ことごとく輪廻から外れ零れ落ちていく。

 

 各世界の神々との約定によって、輪廻から零れ落ちる魂をすくい上げる順番がとある世界の神に回ってきた。

 あと少しでその世界の準備が整う。

 それに掛かりきりになっていた主神をはじめ他の神々は、輪廻から零れ落ちる魂の監視を眷属である亜神に任せることにした。


 もう少しで下級神になれることになっていた亜神はそれを喜んで引き受けたが、あまりにも永く退屈な時間に飽き飽きしてしまっていた。


 その亜神の興味はただ一つ。やがて自らが一柱の神として降臨する予定になっている造りかけの世界。

 その世界の様子を見るために、零れ落ちる魂の監視を放棄して眺め始めた。


 創り始めたばかり、数千年しか経っていないその世界は魅力的だった。

 神々の約定が出来るきっかけになった

 そこで生まれた生物を元にした生態系。

 その世界で空想として創り出された物語を元に生み出される異様な生物。

 さらにはその物語の中にしか無かった魔力と言うことわり、そしてその世界の真骨頂ともいえる科学技術が混然とまじりあう世界。


 いままでにも、数多くの箱庭の様な世界が作られ消えていった。だがこの世界は別格だった。亜神にとってこれほど魅力的な世界は、彼が知る限り存在しなかった。

 その世界で命は生まれ、時に繫栄し時に滅亡していく。

 進化の為、生存の為の争いが繰り返され… 生きて、死に、その経験を次の世代につなぎ繰り返す。

 そんな魂たちのさまを夢中になって眺める。


 夢中になって眺め続けた。


 それが大きな失敗の引き金になった。


 神々の約定が出来るきっかけになった世界の輪廻から、魂が外れて零れ落ちる際に起こるある予兆を見逃してしまうことになった。

 予兆を見逃したことに気が付いた時には、すでに魂は輪廻から零れ落ちていた。その中にはすでに虚無へと還りつつあるものも…。


 亜神は主神に報告する間も無く、対応を迫られることとなった。

 与えられた監視を怠り、こんな事態を招いたことなど、主神は見逃してくれるはずもない。


 【こんな失態は表沙汰になれば、間違いなく神界を追放される。】


 そう思った亜神は自らの権能のすべてを使って、夢中で輪廻から零れ落ちる魂を次から次へとすくい上げた。


 だがもともと神々の約定ので認められるのは…わずかな数。一つか二つ。

 その世界ですくえなかった魂は、本来なら虚無に還る前に別の神々の世界に流れていく。


 亜神の失態を取り繕う行動によって、の制限を超えてあまりにも多くの魂をすくい上げてしまった。

 その行為が招く結果に気が付いた亜神は、二つの魂だけを残してそのほかの魂たちは、力も与えることもなく乱暴に新たな世界に投げ込んだ。

 その行為は、主神をはじめ他の神々に報告することは無かった。出来るはずもなかった。


 最後に残した魂を携えて

「流れてきたのは二つの魂だけだった」と言ってその魂を主神にささげた。


 しかし、その亜神の所業と虚無に還った無垢なる魂の件は、既にから、非難と共に指摘がなされていた。


 主神は亜神が引き起こした事態を重く受け止め、その亜神のほぼすべての神力・権能を剥奪した。


 その神力は新たな世界の魔力の根源に置き換えられ… 元亜神はわずかに残った権能と共に、根源のダンジョンと呼ばれる場所の一管理者として追放された。

 期限はその根源のダンジョンがされるか、そのまで…


 主神と他の神々たちは亜神の愚行を嘆き、亜神から取り上げた権能を加護やスキルに変換し二つの魂に与え、その魂と対話したのち新たな世界に送り出した。

 そして最初の二人の転生者たちの魂は、その世界のとある部族の一員として生まれ落ちた。


 だが神々は、たったそれだけでこの失態を終わらせることは出来なかった。


 亜神によって乱暴に放り込まれた魂たちは、異界と神域のはざまを一瞬あるいは永劫とも思える時間を漂う。やがて、それぞれが全くランダムな時間軸でその世界に転生していく。

 その魂たちにつぐないをしなければならぬ。


 さまざまな時間軸を漂い徐々に転生してしまった魂たち。

 そんな魂たちを丹念に探し出し、主神と他の神々はわずかながらの加護を与えることにした。


 だがを破り、されることになったその世界には… 以後、魂は永遠に送られることはない。


 神々に残されたのはその世界に過干渉することなく、永遠に見守る事だけ…

 …そのはずだった。


 

 すべての魂に加護を与えたと思っていた主神の元にある報告がもたらされた。


 ”輪廻の川のほとりで、置き去りにされ、忘れ去られた魂が見つかった”


 放置され続けたその魂は、いつ虚無に還ってもおかしくないほどに摩耗し、とても加護を与えられるような状況では無かった。

 

 主神は消滅する前にその魂が耐えられる限界ギリギリの魔力と、元の世界の記録アカシックレコードから取り出したその魂に関わる記録を与えた。


 そして、神々にかろうじて残されていた権能で、弱いスキルを2つ付与してなんとか送り出すことが出来た。


 以前に送られた魂たちは、すでにその世界の輪廻の中をめぐっている。

 その魂たちとはかけ離れた時間軸となったのは致し方なかった。


 それ以降は彼の魂の安寧を願い、創り出した世界と共に見守る事しかできない。


 そしてその世界に送られた最後の魂は転生していった。



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 新作始めました。

 本日3話更新予定。

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